第246話 鯉・雉・松茸やんごとなし 118
文字数 343文字
□鯉の羹食った日は、鬢の毛がばらつかないという。鯉は膠にも作るものなれば、粘りたるものであろう。魚の中で鯉ばかりこそ、御前にても切らるるものなれば、やんごとなき魚である。鳥には雉、双なきものである。雉・松茸などは、御湯殿の上にぶら下がっているも問題ない。そのほかは、の物は不快なことなり。中宮の御方の御湯殿の上の黒御棚に、雁の見えつるを、御父の北山 入道殿の御覧じて、帰らせ給いて、やがて御文にて、「かやうのもの、さながら、そのままの姿にて御棚に置いて候いしこと、見たことがない、さまあしきことなり。はかばかしき人がお傍についていないからでは」など申されたりけり。※雁が御湯殿の黒御棚においてあるのは、異様だと中宮の御父が申された。やんごとなき食べものは控えた方がいいという、親ごころ。