第157話 芋を食べる智者 徒然草60

文字数 1,011文字

真乗 院に盛親僧都という、尊い智者がいた。芋頭という物を好みて、多く食いけり。仏典の講義の座においても、大きな鉢にうず高く盛りて、膝もとに置きつつ食いながら仏典も読みけり。病気の時には、7日14日など、療治だといって籠り居て、思う存分に良き芋頭を選びて、ことに多く食べ、すべての病を治していた。人に食わせることは無かった。ただ自分一人のみぞ食いける。きわめて貧しかったので、師匠が死ぬときに銭二百貫と僧坊一つを譲ったのだが、僧坊を百貫で売って、かれこれ三万疋を芋頭の代金に使うと定めて、京にいる人に預け置きて、十貫づつ取り寄せて、芋頭を腹一杯召しけるほどに、また他に用いることもなく、そのお金、全部なくなった。「三百貫のものを貧しい身で手に入れ、このように使い切ったことは、誠に有り難き
道心者なり」と人々は申していた。この僧都、ある法師を見て、「しろうるし」という名を付けた。「それは何者ぞ」と人の問いければ、「さる物を我も知らず。もし居るとしたらば、この僧の顔に似てるだろう」とぞ言いける。この僧都、見た目も良く、力強く、大食い、達筆、学識あり、弁舌も人より優れて、宗教の指導者であり、寺中にも重鎮と思われているけれども、世の中を軽く思っている変わり者で、なんでも自由にして、大方、人に従うということがない。法事や法会に出仕して饗膳などにつく時も、皆の人の前に配膳を据え終わるのを待たず、我が前に膳が据えられると、やがて一人で勝手に食いて、帰りたくなれば、一人で勝手に、ついっと立ちて行ってしまう。お斎の食事も間食も人と等しく定めて食わず、我が食いたき時、夜中にも暁にも食いて、眠くなれば、昼でも鍵を掛け籠りて、いかなる大事あれども、人の言うことを聞き入れず、目覚めれば幾夜も寝ず、心澄まして何か暗唱しながら歩きまわるなど、尋常ならぬ様子であるけれども、人に厭われず、何事も許されけり。徳が高きに至っていたのだろう。
※子供のような、自分の気ままに行動することが、この僧には許されていたのか、徳が高くて言うべき人もいないのか。普通のひとがこのような態度で過ごすなら、大勢の人に非難され、本人も自分の非を認めるのだろう。がそれ以上の何かをこの人が持っているのであれば、些細なことはさておかれ、思いがままにさせているのでしよう。兼好先生も徳の至れるからだろうとと言われているが、そのまま受け取っていいものでしょうか先生。
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