第95話 浜床に臥した牛 徒然草206

文字数 600文字

□徳大寺故大臣殿は、検非違使の別当のころ、中門で使庁の会議が行われていたのだが、官人の章兼の牛が離れて、庁の中へ入り込み、検非違使長官の台座の上に登って、口を動かし反芻し座り込んでしまった。ことは重大なる怪異であると、牛を陰陽師のもとへ連れて行ったほうがよい、夫々の人達が話していた。父の相国が聞いていて「牛には分別がない、足があれば、どこでも登って行くものだ。貧乏な官人である、たまたま出仕して微牛を取られてしまう程のことはない」といって牛を主に返し、牛が臥していた畳を取り換えられた、あえて凶事というほどのことではない。「不審なものを見て怪しいと思わなければ、不審なものでなくなる」と言われた。
※徳大寺故大臣殿は徳大寺公孝であり、15歳の頃、検非違使の別当となったらしい。父の実本は徳大寺家で初めて太政大臣までなり従一位になった人である。学問や故実に通じ、漢詩にも明るかった。息子が検非違使の別当であり徳大寺家で会議をやている時、牛が離れ長官の席に寝そべった。みな大騒ぎし凶事でないか陰陽師に占ってもらうべしと主張する。相国と名乗る大徳寺實本は元太政大臣で60歳くらいである。話を聞き牛に悪気はない、貧乏な役人から牛を取り上げるのは、可哀そうだと思ったのか。凶事ではないといい、汚れた畳を取り換えさせた。故実にも通じており、それに捉われず、状況をみて現実的な判断をされたということでしょうか。
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