第141話 若き頃の思い 徒然草44

文字数 622文字

□そまつな竹の編戸の内より、いと若き男の、月影に衣服の色具合いは定かではないが、光沢のある狩衣に濃い袴をはき、いと訳がありそうな様子で、小さい童ひとりを供にして、遥なる田の中の細道を、稲葉の露に濡れながら分け行くほど、素晴らしい笛を気の向くままに吹き、見事と聞き知るべき人もないとに思うが、どこに行くのか知りたくて、後ろをついて行けば、笛を吹きやめて、山の際に惣門のある内に入りった。牛車の轅を立てた車の見える、都に惹かれる心地して、下人に問えば、「しかしかの宮が滞在されていて、御仏事などあり候にや」と言う。
御堂の方に法師ども参っている。夜寒の風に吹かれてくる燻した香の匂いも身に沁みる心地がする。寝殿から御堂への廊下を通う女房の衣服の香の匂いが漂うなど、人目なき山里なのに、心遣いをしている。心のままに茂れる秋の野辺を思わせる庭園は、置く所もないように露にうづもれて、虫の音が寂しげで、遣水の音がのどやかに聞こえる。都の空よりは雲の往来も速き心地して、月の晴れ曇ること目まぐるしく定めがたし。
※童子を連れ、狩衣に艶のある袴を履いた若者が、笛を吹きながら総門のある内へ入っていった。
都から来た宮様が来られ仏事を行っている。廊下を行きかう女房は香の匂いをさせ、心遣いをしている。兼好先生も若い頃は、そんなところへも出入りされていたのでしょう。出家した身では、華美な贅沢はご法度。センチメンタルな思いが感じられる物語でありましょうか。
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