第246話 一●

文字数 641文字

一●いでや、この世にうまれては、願はしかるべきことこそ多かめれ。
 御門の御位は、いともかしこし。竹の園生の末葉まで人間の種ならぬぞやんごとなき。一の人の御有様はさらなり、ただ人も、舎人など賜はる際は、ゆゆしと見ゆ。その子。孫までは、はふれにたれど、なほなまめかし。それより下つかたは、ほどにつけつつ時にあひしたり顔なるも、みづからはいみじと思ふらめど、いとくちをし。
法師ばかりらやましからぬものはあらじ、「人には木の葉のやうに思はるるよ」と清少納言が書けるも、げにさることぞかし。勢い猛にののしりたるにつけて、いみじとは見えず、増賀聖の言ひけんやうに、名聞ぐるしく、仏の御教へに違ふらんとぞ覚ゆる。ひたふるの世捨人は、なかなかあらまほしきかたもありなん。
 人はかたちありさまのすぐれたらんこそ、あらまほしかるべるれ、物うち言ひたる、聞きにくからず、愛敬ありて、言葉多からぬこそ、飽かず向はまほしけれ、めでたしと見る人の、心劣りせらるる本性見えんこそ、くちをしかるべけれ。品かたちこそ生まれつきたらめ、心はなどか賢きより賢きにも移さば移らざらん。かたち・心ざまよき人も、才なくなりぬれば、品くだり、顔にくさげなるにも立ちまじりて、かけずけおさるるこそ、本意なきわざなれ。
ありたきことは、まことしき文の道、作文・和歌・管弦の道。また有職
に公事 の方、人の鏡ならんこそいみじかるべけれ。手などつたなからず走り書き、声をかしくて拍子とり、いたましうするものから下戸ならぬこそをのこはよけれ。
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