第144話 ハクション 徒然草47
文字数 390文字
□ある人、清水寺へ参りけるに、老いたる尼と一緒に行きたれば、道すがら、「くさめくさめ」と言いもっていくので「尼御前、何でそのようなことを言うのですか」と問うのだけれど、答えもせず、なおも言い辞めなかった。度々、質問するので、遂に腹を立ちて、「やや、くしゃみをした時、このようなおまじないを言わなければ、死んでしまうと言われている、養君が、比叡山に稚児でいらっしゃいますが、ただ今もやくしゃみされたと思ったのでかく申すぞかし」と言いけり、ありがたき志ではありませんか。※老尼さんが養育した尊い君が比叡山で稚児としていらっしゃる。君の身を常に案じ、あたかも身近にお世話しているように思い浮かべる。寒いこの時期、くしゃみをされているのではないかと心配し「くしゃみ・くしゃみ」と唱えていたのです。ここまで稚児の事を、親でもない老尼が気遣っている。ありがたや!ありがたや!何気ない美談。