第245話 になずまざるぼろぼろ   115

文字数 577文字

宿河原という所で、ぼろぼろが多く集まって、九品の念仏を唱えていたが、外より入り来たぼろぼろが、「もし、この御中に、いろをし房と申すぼろぼろはおられますか」と尋ねたところ、その中より、いろをし、ここに候。かくのたまうは誰そ」と答えれば、「しら梵字と申す者なり。私の師、なにがしと申しし人、東国にて、いろをしと申すぼろに殺されけりと承りしかば、その人に逢い奉りて、恨み申そうと思い、尋ねもうすのである」と言う。いろをし、「ゆゆしくもたづねおはしたり。さること侍りき。ここにて対面し奉らば、道場をけがしはべるべし。前の河原へ参り逢おう。あなかしこ、脇さしたち、どちらのかたも、持たれ給ふな。たくさんな人に迷惑になるらば、仏事の妨げになるだろう」と言い定めて、二人、川原へ出であひて、心行くばかりに刺し貫き合ひて、共に死ににけり。ぼろぼろという者、昔はなかりけるにや、近き世に「ぼろんじ」「梵字」「漢字」など言いける者、その始めなりけるとかや。世を捨てたようで我執が深く、仏道を願うようで、闘諍をこととす。放逸無惨の有様なれども、死を軽くして、少しも生になづまざるかたの、いさぎよく覚えて、人の語りしままに書きつけ侍るなり。
※無鉄砲なひともいたものだ。与えられた命を無駄にするというか、兼好先生も、こういう人も居るのだということを、書いて残したかったのでしょう。

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