第203話 上人と馬に乗る女 徒然草106

文字数 591文字

□高野山の証空上人が、京へ上った時に、細道で、馬に乗りたる女が行き合いたりけるが、馬の口を引く男が、手綱を悪しく引いて、聖人の馬を堀へ落としてしまった。聖人はひどく腹を立て、相手を咎め「これは稀有の狼藉かな。仏に四種の弟子がおってな、比丘より比丘尼が劣り、
比丘尼より優婆塞が劣り、優婆塞より優婆夷が劣っているのだ。かくの如くの優婆夷などの身で、最上位の比丘を堀へ蹴入れさすとは、未曽有の悪行であろぞ」と言われければ、馬の口曳き男は、「いかに仰せらるやらん、えこそ聞き知らね」と言うに、上人なお、いきまきいて、「何ということを言うのだ、非修学の男めが」と荒々しく言いて、この上もない放言してしまったと思いける様子で、馬を引き返して逃げて行かれたという。さぞや尊かりける諍いであったことだろう。
※馬に乗った女性に対して、上から目線で相手の非を罵倒した人が、人格ある上人だということだ。高貴な方が立腹されるにはそれなりの大所高所からの尤もな意見として、とらえられるべきである。しかも自分が位が最高の地位にあるから馬方に尊敬しろといっても、住んでる世界が違えば、相手はただの人である。些細な失敗を、火が出るように怒って何になる。馬の口曳に
無学と怒っても、それその通りだがそれがどうしたと言うだろう。上人の方が、こんな些細なことで怒るなど、修行が足りんと、仏さまに怒られるのではないか。
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