第138話 木に登って見物 徒然草41

文字数 922文字

□五月五日、加茂の競馬を見物していたところ、牛車の前に群衆が立ち隔てて見えなかったので、おのおの下りて、馬場の際に寄ったけれど、ことに人多く立ち込みて分け入ることもできない。かかる折りに向かいにある棟の木に法師が登りて木の股にちょこんと腰掛けて見物している、取りつきながらいとう眠たそうで、落ちそうな時に目をさますこと度々なり。これを見る人、あざけりあきれたり、「世のバカものかな。かく危うき枝の上、安き心ありて眠るらんよ」と言うに、我が心にふと思いついたままに、「我等が生死の到来、ただ今にもやあらん。それを忘れて見物して1日を過ごす、愚かなることは、なほ法師よりもさらに愚かなるものを」と言うと、前にいた人ども、「まことにその通りです、もつとも愚か者に候」と言いて、皆、うしろを見返りて、「ここへ入らせ給え」とて、所を避りて、呼び入れ侍りにき。かほどの道理は、誰でも思いつくものなれど、折からの思いかけぬ心地がして胸に響いたのであろうか。人は、木石のようではないので、時には物ごとに感動することがなきにしもあらず。
※人のふり見て我がふり直せ。ではないが法師が木に登り競馬をみていて、眠りこけ落ちそうな状況。バカな奴だ落ちたら死ぬのにと皆が思う。しかし考えれば、見物している我々だって、馬にけられて死ぬかもしれない。状況によっては、妙に感動することがあるということですか。うーん。どういうこと。
※2 上賀茂神社にR4.4.18、訪ねてみた。山門はいると直ぐ広場があり、左手が芝生で真ん中が砂利の通路になっている。競馬祭りの2週間前で、準備が進められ木の杭を打ち、割れ竹で直線にコースを作っていた。赤馬と黒馬が走り、始発点に松の木があり看板もある。途中にも松があり乗り手が見返る松という。ゴールの松の木を過ぎた馬が、「勝ち」といわれ、天を仰ぐ。負けた馬はうな垂れるという。当日は観覧席が作られ、入場券のない人は入れないらしい。遠くに大きな松の木があるから、当時、そこに昇ってみる人も居たのだろう。上賀茂は東にあり、兼好の住んでいたオムロの方は、タクシーで2000円位かかるから、歩くと半日はかかる位、離れている。わざわざ見に来たのでしょう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み