第85話 「おし」と言って先払いする 徒然草196

文字数 800文字

□東大寺の神霊を安置する御輿が、東寺の若宮より元の所へお帰りになる時、源氏の公卿が参られていたが、この殿は近衛府の長官として、通行人を追い払われていたところ、太政大臣土御門定実が、「神前にて先払いすることは、いかがなものでしょう」と申されければ、「近衛府の振る舞いは、随身の家が知ることに候」とばかり答えられた。さて、のちに仰いますには「この太政大臣は北山抄を見て、西宮記を知られなかったのだ。親族一族の悪鬼・悪神をおそるるゆえに、神社こそ、ことさらに先払いをすべき理由があった」とぞ仰せられた。
※神輿:神霊を安置する輿帰座:神霊が元の所へ帰り、鎮座すること
源氏:源の姓を持った一族、近江の国に勢力をはる宇多氏の佐々木氏など
公卿:高位の朝廷の役人。摂政・関白・大臣・大納言・中納言、三位以上の朝臣
大将:一軍の指揮者。近衛府の長官。
先を追われける:貴人の通行の際、前方の通行人などを追い払うこと
土御門相国:二条兼基の後に就任した太政大臣土御門定実のこと。
社頭:神社のあたり、神前。
警ひち:天皇の出御の際や天皇の元に御膳を運ぶとき、また貴人の通行の際などに、
    「おお」「しし」「おし」など言いながら、先払いすること
随身:貴人が外出するとき、勅命により、護衛として従った「近衛府」の舎人。弓を持ち
    ヤナグヒを背負い、帯剣して従う。
兵杖:随身
北山抄:北山抄(ほくざんしょう)は、平安時代中期に成立した私撰の儀式書。藤原公任の撰。
西宮記(さいきゅう):平安時代の儀式・故実の典拠書。撰者は源高明。高明の邸宅が平安京の西京にあったため,彼は西宮左大臣と呼ばれた
眷属:親族・一族
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