第十五章 ㉞

文字数 2,661文字

そうなんです……、と真剣な表情・口調で、
女子大生のこしまちゃんは続けます。
「確かに、お姉ちゃんが最初に言った通り
になると思います。
戸惑うだろうし、『こんなの受け取れない
よ!』って言われるかもしれない……。
そうしたら、元も子もないです」。


そうなのです。
だから、どうやったら、良いのかを
知りたいのです。


「そこで、ちょっと、ピンと来たん
ですけど……」と、こしまちゃん。


その後、こしまちゃんは、すごい
アイデアを説明してくれました。
私たちは、みどりちゃんも含め、終始
黙って、彼女の話を聞きました。


彼女のアイデアは大まかに言うと、
以下の通りです。
つまり、私が出そうとしている額、
100万円なら100万円を、
そのまま都和ちゃんに渡さないという
方法です。
その私のお金に、プラスしようと言う
のです。
ようするに、こしまちゃんとやよい
ちゃんが、明慈大学のチアの仲間みんなに
声をかけて、『カンパ』を集めるのです。
それで、いくら集まるかは分からない
けれど、その集まったお金+私のお金
を都和ちゃんに渡すのです。
そうすれば、「部のみんなにも協力して
もらったんだよ」と、こしまちゃんと
やよいちゃんは、都和ちゃんに言える
わけです。

そうです。
『部のみんなにも』です!
も、が大事なのです。
『部のみんな』ではありません。

その、『部のみんなにも』の『も』と言う
言葉に、チアリーディング部のみんな+
他の誰か、つまり、私が入ることになる
のです。
だから、ウソを言うわけではない。
で、都和ちゃんからしたら、部の先輩、
後輩たちが、こしまちゃんとやよいちゃん
に賛同して、みんなで、『カンパ』して
くれたんだと理解するでしょう。
私の存在には気づかないはず……。

そう、それで良いのです。
別に、私は、彼女に感謝してほしくて
お金を出すわけじゃないのですから。
私のことなんか知らずに、ただ、
チアリーディング部のみんなからだと
思って、ありがたく受け取ってもらい、
それで、母子共々幸せになって
くれれば良いのです!


嘘もつかない。
そして、受け取る側が、受け取りやすく
なる方法。
さすが、私立明慈大学の政治経済学部で
学んでいる、こしまちゃん!

話は決まりました!
事は早い方が、良いです。
その後、すぐに、注文していた料理が
運ばれてきました。
私たち4人は、周りの眼&店員さんの
視線もガン無視で、『女子らしく』食べる
ことを否定し、ただ、大急ぎで、
食べました。
普通なら、あり得ないですけど、ただ、
黙って……。
なぜなら、こしまちゃんとやよいちゃんが
言ったからです。
「じゃあ、この後、私たち、部長に
話しに行ってきます。
部のみんなと都和には、真子さんのこと
言わないとしても、さすがに、部長には、
ちゃんと全部伝えないといけないです
から」って。
すでに、部長さんには、席を外した際に、
やよいちゃんが、電話していたようです。

なので、『善は急げ』なので、私たちは、
ひたすら食べたのです。
で、一番で食べ終えたのは、みどり
ちゃんでした。
ふ~美味しかったとお腹をさすりながら、
「刑事はさ、早飯、早グソが…」と
言って、妹ちゃんに、
「うるさいッ!うちら3人は、
まだ、食べてんだよ!」と怒られて
ましたね。
まぁ、あれは、みどりちゃんが悪いです
……。

私、やよいちゃん、こしまちゃんと
いう順番で、全員が食べ終わり、
「じゃあ」と言うことで、みんなが
立ち上がります。
ちなみに、会計は、みんなの分を、
みどりちゃんが出してくれました。
「前回、真子ちゃんがさ、ピザとかを
とってくれたんだからさ」と言って。
なので、おことばに甘えることに
しました。


女子大生2人は、お店を出ると、すぐに
駅の方に向かって行きました。
本当に、良い子たちです!
今どきの若い子はスレてるって言います
けど、まだまだ、捨てたもんじゃないな
と思いました。今も、そう思います。
まぁ、私とみどりちゃんも、まだ20代
で、若いと言える年代ですけど……。




二日後に、こしまちゃんから電話が
ありました。
部長も賛成してくれて、「その柳沼さんに、
本当にありがとうございますって、伝えて
ちょうだい」と言ってくれたそうです。
「明日、部長が、部員全員を集めて、
話します。
それで、うちらが中心になって集めて、
その集まったお金と真子さんのお金を
一緒にして、都和に……ですよね?」。
こしまちゃんと私は確認し合いました。





そして、後日……。
新宿での『作戦会議』から1週間後の
ことです。
こしまちゃんが、都和ちゃんに、
連絡を入れます。
都和ちゃんは、電話に出てくれません
でした。

でも、その日の夕方近くになって、
こしまちゃんの携帯電話が震えます。
かけてきたのは、都和ちゃんでした。

こしまちゃんは、伝えたそうです。
「部のみんなにも、協力してもらって、
カンパが集まったから、渡したい」って。
そうしたら、電話の向こうで、
都和ちゃん、泣き崩れたそうです…。

後で、詳しく聞いたら、本当に、
その時、都和ちゃんは、ギリギリのところ
だったそうです。
身重のからだなのに、無理していて、
交通誘導のバイトだけではなく、居酒屋の
バイトもしていたのですが……。
精神的にも余裕なく、また、経済的にも
余裕なく、食費も極限まで節約しまくり、
1日1食の日も。
で、本当に、もう『夜の仕事』、つまり、
『女の身体を使う仕事』の面接を翌日
受けようとしていた……、その日だった
のです。
こしまちゃんが電話して、夕方、
都和ちゃんが折り返して来たのは……。




結果ですが。
都和ちゃんと、そのお腹の中の赤ちゃんは、
チアリーディング部のみんなが、大学生
ながら精一杯出してくれたお金と、
私が出したお金で、助かりました…。

もしかしたら、大きくなって、ある時、
父親のこと……、つまり、母親がレイプ
されていたことや、それを起因とする父の
自殺のことを知って、ショックを受けるかも
しれません、その子は。
この私のように……。

でも、それでも、生まれてこれたなら!
幸せなのです。
神様からの良き贈り物、それから、母親の
愛情を受けて、成長し、大きくなって、
いつかは、思えるでしょう。
「生れて来て、良かったぁ」と。
私だって、そうなのですから……。


そう、私が、そうなのです。
まさに、東が西から遠く遠く離れている
ように、私は『親友』という存在や
『平和』というものから遠く遠く離れて
生きていました。
でも、今は違います。
神様は、『親友』、『平安』、『喜び』
……いっぱい与えてくださっています。
それで、私は幸せなのです、本当に。
「生れて来て、良かったです」って、
何の躊躇いもなく言えますから…。









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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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