第十四章 人生の春冬劇 ~関東で暴かれてくる秘密~
文字数 1,979文字
うちに、私に起こりました……。
私は、実際、プロポーズされたことから
来る喜びと、挙式の日が近いことから
来る緊張感と興奮で、なかなか眠りに
つくことができませんでした、その日の
夜は……。
私は、思いました。
「私も普通の女性みたい……」と。
当然です、正真正銘、女ですから。
でも、それまでの私のことを考えると、
プロポーズされて、それを受けて、
結婚にワクワクしてしまい眠れない
なんて……、絶対に、あり得ないこと
でした。
自分が自分でないような、不思議な
感じ……。
でも、その幸せは、長く続きません
でした。
アッサリと砕かれてしまったのです。
いつの間にかに熟睡していた私。
隣の部屋に住むフィリピン女の騒音で、
また起こされてしまったのです!
本当に、アイツらは、店では私をイジメ
抜いてくれたし、隣にまで住みやがって
騒音、ゴミ問題……。
とんでもないヤツらです!
で、結婚が決まっている私は、
「結婚したら、このマンションとも
おさらばか……」と呟きながら、
トイレに向かいました。
そして……。
トイレで便座に座りながら……、
フッと思ったのです。
フッと、ある感情が浮かんできたのです。
それは、
「義時さんに、嘘をついたまま、
結婚して良いのかな?」と言うもので
した。
すぐに、その感情、浮かんだ思いを
打ち消しました!!
「問題ない!
あんなの、ウソに入らない。
第一、私自身のことじゃないん
だから!!」。
でも、一方で、
「義時さんは、勇気を持って謝って
くれたじゃない。
正直に、誠実に、接してくれている。
それなのに隠し事をしたまま、
結婚しちゃって良いの?」と言う声も
強く聞こえてくる……。
そうなのです。
私は、再会の日、警察署の中で、
義時さんと、色々話しました。
それで、お互いの、あの事件後のことも
話したんです。
私は、母が、若くして死んだこと、
そして、大伯母である雪子おばさんの
養子になったことを、話しました。
だから、今は、奥中ではなく、
柳沼姓なんだ……と。
そして、私は、言ってしまったのです。
「だから身寄りは、松山の雪子おばさん
だけなんです。父は、私が小さい頃に、
死んだから……」と!!!
そうです。
私は、父のことで、ウソをついて
しまっていたのです。
いえ、気づいたら、ウソを言って
いました。
言おうとして、言ったのでなく、
ただ、口が自然と……。
まぁ、普通、言えませんよね…?
自分の父は、強姦犯なんです……とは。
だって、それを言ってしまったら、
自分の内には凶悪犯の血が流れている
んです、と告白することになるのです。
だから、私は、「ウソを言った!」と
気づき、ハッとしたけど、言い直す
ことをしなかったのです!
「ゴメン!本当は、そうじゃない…。
私、レイプで生まれた子で、父は、
ちょうど、あの日に、交通事故で、
死んだの……」とは、言えなかった!
と言うより、皆さんが、私の立場でも
絶対に言えませんよね?
と言うより、わざわざ、言う必要も
あるのか……という問題ですね。
でも……と、私は思ったのです。
もう、私は、彼からプロポーズを受けて、
それを受け入れ、式の日までも二人で
決めた身なのです。
フリーでなく、婚約者がいる身。
だから、私は葛藤しました。
単なる知り合いじゃなく、婚約者なの
です!
正直に打ち明ける、正直に語るべき
なのでは……と。
理性は、それを全否定します!
「何言ってるの!?
もし、そんなの言ったら、どんな眼で
見られることになるか、分かってんの?
もしかしたら、結婚の話もナシになる
かもしれないんだよ!?
それ位、黙ってたら良いじゃない!」。
私は、圧迫感を感じながらも、
布団の中に潜り込みました。
でも、逃げたいけど、声が響くんです。
「行って、語りなさい」と何度も何度も。
実際問題、父のこと……、私の父と母の
事件を知っているのは、私だけ…。
母も死んでるし、あの手紙は、結局、
雪子おばさんに出されなかったのだから。
私は、そのまま、私の胸の中だけに、
しっかりと封じ込め、墓まで持って行き
たかった……、その事実・秘密を!!
その事実・秘密は、同性で大親友の
不動みどりちゃんにも、また唯一の
身寄りである雪子おばさんにも、絶対に
言えないレベルの『柳沼真子の最重要
機密』なのです、大袈裟でなく……。
それを、異性の、しかも、結婚しようと
してる義時さんにカミングアウト!?
「絶対にあり得ない!!」と、
叫びました。
布団の中で。
そんな告白する位なら、義時さんの
前から、予告なしに、消える方が
マシです……。
でも、私の出生に関する秘密を隠した
まま結婚するのも確かにイヤです!
もう、のたうち回りましたね。
苦しかった!!
「こんなに苦しむのなら、義時さんに
プロポーズされなければ良かった」、
また、「再会しなければ良かった」と
思うほど……。
ついに、太陽の光が部屋に差し込んで
きました。
私は、立ち上がりました。
(著作権は、篠原元にあります)