第十六章 ㊻

文字数 1,818文字

その確信は、最初私の心の中で、本当に、
豆粒程度の大きさだったのですが、
徐々に徐々に、大きくなっていきます。
私の心を完全に満たし、爆発するかの
ごとく……。

嬉しくなって、歓喜の感情が溢れ出し
ます。
なので、雪子さんに伝えたかった!
「ありがとうございます」と心からの
謝意を……!!
でも、うまく言葉が出てきません。
あ、あ……って出てくるだけで。

でも、そんな私を。
優しい表情で見つめて、雪子さんは!
雪子さんの方が言ってくれたのです。
「ありがとうね。お祈りさせてもらって。
それでね。私、お祈りしながら、こんな
風に思ったのよ。
『あ。大丈夫だって。
神様は、絶対に、みどりさんに赤ちゃんを
くださるな』って。
あとね、こんな風に、神様が、今、
みどりさんに言ってると思うんだ。
『今まで、苦しかったね。でも、安心
しなさい。わたしは、分かってるよ』って
……」。

それまでの私なら、100%拒絶する
でしょうし、「ふざけたこと言わないで」
と叫ぶかもしれません。
いえ、それで当然です。
第三者に、そんなことを気安く言われて
平然となんてしてられません。
気持ち悪いし、胡散臭いし……。

でも、雪子さんの口から出てくる言葉は、
直感で分かりました。
刑事の勘、いえ、というより何て言えば
良いのか……、つまり、おなかの底から
思えたんです。
「この人は、本当の日本人だ。
この人の中に、ウソは絶対ないな。
今、言われた通りに、絶対になるな!」
って。
そして、心に満ちていた確信は、完全に
爆発し、私の全身に満ちていきました。
「絶対、私、雪子さんにお祈りして
もらったんだから……!!」と。


しばらく、感動に支配されて、すすり
泣くことしかできないでいました。
でも、雪子さんは、何も言わずに、
見守ってくれていたのです。
何か、これまでに体験したことのない
ような『平安』に包まれているかのよう
……でした。


そして……、それは、大きな足音と、
それから引き戸を開ける音で…。
そうです。やっと、真子ちゃんが戻って
来たのでした。
それで、真子ちゃんは。
引き戸を引いて、私達の部屋に入って
くるなり、ギョッとして、立ち尽くして
しまいます。

「エッ!?」と声を上げる、真子ちゃん。
顔を上げ見てみると、非常に困惑、当惑
している彼女が、私達を見下ろして、
立っています。
まぁ、当然と言えば、当然でしょう。
自分が席を外していた間に何があったのか
知らないのですから。
しかも、自分の大伯母と親友が……!
親友は、泣いている。
うずくまって……。
そして、大伯母は、その親友の横に
座り、手を添えている。
初対面で、年齢も孫と祖母のような
2人がです!

それは、それは、真子ちゃんの目から
見たら、『奇妙な光景』、『訳の分から
ない現場』だったことでしょう、今に
して思えば……。


人の表情ってあんなに一瞬で変わるもの
なんですね。
真子ちゃんの顔つきが、瞬時に変わり
ます。
満面の笑顔から、引き攣った表情に
……。
そして、一言。
「えッ?これ、何……?」。


その後……。
私と雪子さんは、と言っても、雪子さんが
メインでしたが、真子ちゃんに、『説明』
をしました。
別に変なことがあったわけでもないし、
私が怒られていたとか、2人で言い合い
していたとかじゃないんだよ……と。

親友とは言え、私は、その個人的な
ことを真子ちゃんに知られたくは
ありませんでした。
それは、雪子さんも分かってくれて
いたようで、雪子さんは、詳しくは、
話さずに、ただ、「ちょっとね、
不動さんに悩み事があってね……。
そのお話になって、『それじゃあ、
お祈りさせてくださいね』って、私が
言って、お祈りさせてもらってたのよ」
と……。
私も、「それでさ、感動しちゃって、
泣いてたんだよ」と、これは本当です。

その『説明』で、本当に、真子ちゃんが
納得してくれたのかは、私には、分かり
ません。
でも、真子ちゃんの困惑、不信感等に
満ちていた表情は、普段のものに変わり
ました。
それに、ちょうど、その後すぐに、
店員さんが、じゃこてんサラダやじゃこ
かつとかを運んできてくれたので……。
「じゃあ、後もあるから!
いただきましょう!」と言うことに
なったわけです。

まぁ、愛媛名物の美味しいこと!!
新鮮なお刺身、それから、名物じゃこてん。
それに、心も体も、軽くなっているように
感じて……。
ついつい、その日は、食べ過ぎちゃい
ましたね。









(・著作権は、篠原元にあります

・次話、不動刑事のヒミツがさらに
暴かれます。

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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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