第十六章 ⑦
文字数 1,685文字
第五章⑪と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)
一気に中学時代に戻る、20代女子たち。
忘れていたはずの記憶も、話している
うちにどんどん、溢れ出てくる。
担任の名前も、クラスメイトだった
子たちの名前も、不思議と口から
出て来る。
真子は、何気なく訊いた。
「ねぇ。井木君って、憶えてる?
あの野球部のキャプテンだった……」。
すると、驚く答えが、返って来た。
「あぁ。あの井木でしょ。
女子のファンが、めっちゃ多かった
アイツ……。
何かね、まだ奈良にいる友達に、
前、聞いたんだけど……ね。
強制わいせつ……?
とにかくさ、詳しいことは、よく
分からないけど、何か、取引先の
女の人に、変なクスリ飲ませて、
暴行したってことで、警察に捕まって、
今刑務所の中だって……」。
思わず叫んでいた…。
そして、真子は、思った。
「人間は、分からないな」と。
女子にキャーキャー言われ、
バレンタインは、校内のほとんどの
女子を独占、男子から妬みの視線で
見られていたのに……。
それが、卑劣な手で、女性の尊厳を
踏み躙って、逮捕・実刑とは。
反対に、井木をはじめ男子生徒から
『サボリ女』、『万年生理女』と
呼ばれ、影日向に生きてた自分が、
こんなに幸せな立場に、今はいる。
小学時代の同級生・大親友、不動みどり
と再会できたばかりか、今この瞬間は、
中学時代のクラスメイトと一緒に、
お寿司を食べている。
で、しかも、結婚式が間近……。
思わず、口から出ていた。
「本当に、人の人生って、
分かんないなぁ」……。
「そうだよね。どこで、どうなるか
全く予想できないね」、そう言う、
小羽の声で、自分が無意識に喋って
いたことに気づく……。
しばらくして…。
今度は、小羽が質問して来た。
「柳沼さん。さっきも言ったけど、
あの講演……。
内容、憶えてる?」。
もちろん、憶えている。
って言うより、さっきので、思い出した。
本当に、あの時は、男子達がコソコソ
コソコソうるさかった!
変な目で、女の刑事を見て……。
そう。
あの日は。
3年生全員が体育館に集められて……。
県警本部から来たという女の刑事が
話してくれたんだ。
その内容もハッキリと思い出す。
真子が、「うん。憶えてる。
結構、ズバズバと、言いづらい内容の
ことも話してくれたよね」と答えると、
小羽が続ける。
「そう。保健の時間よりもね……。
それでね、今だから言えるけど、
私、あの刑事さんの話のおかげで、
結構助けられたって言うか、
危ないトコを避けれたんだよね
……」。
それから小羽の赤裸々な体験談を
聞かされた。
「誰にも言わないでね、ここだけの
秘密だよ」と言われたので、一生、
自分の胸の中にしまうことになる
だろうけど、最後は、安堵…。
でも、小羽にも『そういう時期』が
あったとは、意外だった。
だけど、今は、立派な看護師…。
真子は、再び、思った。
「本当に、人って、どうなるか、
分からないなぁ」。
モンブランの続きを、幸せそうに、
口に運ぶ小羽を見ながら、切に、
そう思う。
その後も……。
真子と小羽は、無料の日本茶と
ビッグなケーキのあまりで、
座り続けた。
ゆっくりゆっくり食べて……。
何度もお替りして……。
だが、意識してやっていたのでは
ない。
それほど、話したいことが
いっぱいあった、お互いに…。
話が、終わらない。
「そうだッ!!」と言って、小羽が、
ボイスレコーダーを鞄から取り出す。
そして、お気に入りの曲という歌を
聞かせてくれた。
もちろん、真子も知っている有名な
曲だった。
しかも、大のお気に入りレベル……。
二人で、さらに意気投合して、
盛り上がる。
韓国から勉強のために来ている
店員がやってきて、小羽に言う。
「小羽サン。ちょっト、静かにネ。
みんな見てる」。
声を抑えて、歌の評価を続ける。
二人とも一致したのは、次のこと。
「披露宴の余興で何か歌って
くれんなら、コレが良いよね!」。
そう……。
飛江田先生の言ったとおり。
……誰もが、それが、たとえ、
小学校の子どもであれ、そして、
担任の教師にも…。
問題や悲しみがある。
その問題、悲しみ、苦しみを
抱えて、みんな生きている。
その中で、前に進んでいる。
(著作権は、篠原元にあります)