第14章 ⑥
文字数 3,978文字
大声で言いました。
「柳沼さんッ!!ちょっと……」と。
困惑し、立ち止まり、固まる私。
別に驚いていないような表情で、
私たちを見つめる、みどりちゃん。
で、義時君は続けます。
「柳沼さんッ!!
本当に、本当に、申し訳ありません
でした、あの時はッ!!」と。
正直、言いますね。
突然すぎて、なぜ、彼が、私に
謝っているのか分かりませんでした。
それと、『あの時』が、いつのこと
なのかも……。
まぁ、冷静になれば、分かるような
話ですけど。
突然のことにオロオロしてしまった
私は、反射的に、彼に声をかけて
いました。
「義時さん、どうしたんですか!?
ちょっと……!
頭を上げてくださいッ!!」と。
それでも、頭を上げない彼…。
私は、彼に触れて、とにかく、頭を
上げてもらおうとしました…。
でも、その時、みどりちゃんが言った
のです。
「真子ちゃん。分かんない?
義時はさ、あの小学校の時のことさ、
真剣に謝ってんだよ、今……」と。
ハッとしました。
そして、同時に、心打たれました。
もう、再会の時に、謝罪されたのです。
土下座までして、謝罪してくれたの
です。
しかも、その前には、クソ野郎から
助けてもくれた……。
彼こそ、私の恩人なのに…。
そうなのに、こんな真剣に、
幼馴染が見ているにもかかわらず、
女性の私に、頭を下げて、謝って
くれている……。
「この人、本当に、誠実な人だなぁ」
と思いましたね。
私も、ありったけの誠意と勇気を
振り絞って、彼に伝えました!
「あのッ!!
義時さん、もう、本当に大丈夫です
から!
あの商店街の時に、謝ってくださった
じゃないですか?!
私、嬉しかったし、また再会できて、
こうやって一緒にいれることが幸せ
なんです……。
と言うより、もう、義時さんには、
感謝しかないんです、感謝しか……」と。
100%の本心、本音。
理解し合えた私たち二人。
そして、それを優しく見守ってくれる
大親友のみどりちゃん。
そんな私たち3人の上を、
心地よい微風が吹き抜けていくので
した…。
その日の夜。
マンションに戻った私は、右往左往
していました、部屋の中で…。
実は、「義時さんとみどりちゃんに、
メールしよう」と思い付いたのです。
それで、すぐに、みどりちゃんに、
パッパッとメールしました。
これは、実に、簡単でした。
でも、義時君には……、分かんない
のです!!
どう送ったら良いか、どんな文面が
良いか、こう送ったら変にとられる
んじゃないか……と。
悩みに悩みましたね。
それで、何度も何度も打ち込んでは、
消して、また、打ち込んでは、消して
の繰り返しでした。
「みどりちゃんに訊いてみようか」と
一瞬思いましたけど、絶対、電話の
向こうでニヤニヤされ、そして、
揶揄われると予想できたので、
やめました!
私は、自分のことですが、客観的に
「恋ってすごいなぁ」と認識しました。
我が身に起こっていることに、驚き
でした。
メール1通さえ、送れないのです!
それまでの、私は、お昼頃に起きて、
すぐに、多数の男性-その頃の私に
とっては敵でありカモ-に、
バンバンとメールを送り、また、
電話をかけたりもしたものです。
男性の皆さんの『理想の女子像』を
打ち壊すようで、申し訳ないですが、
私は-と言うより私も同僚の若い
女の子みんな-、そんなメール
や電話なんて、下着姿で、寝転び
ながら、時に、鼻ほじりしながら
チョチョイとやっていたものなん
です。
真剣に、正座して、キレイな服を
着て……とか、ありえない!!
鼻唄交じりに、男が喜ぶ文面を
恋心なんか一切ナシで、流れ作業的
に送るだけ……。
何の悩みも葛藤も勇気も要りません!
仕事、営業と割り切ってますから。
で、本当に、100%と言って良い
ほど、『恋心』なんて、1ミリも
ありませんからね!
そんなだった私が、たった一人の
男性にメールを送るだけなのに、
1時間近くも右往左往……?!
そして、それだけでなく、送れない
可能性もあるんだ……。
文章が出来ても、勇気が出来れずに、
送れないかもしれない……。
そんな自分が、ちょっとですけど、
おかしくなりました、客観的に考え
てみて。
「夜の豹から純情な女の子……って
ことか」と呟きました。
結局、納得がいく、メール文章は
完成したのです!
でも、夜の12時を過ぎて、やっと!
なので、「明日の朝、メールしよ」と
考えて、寝ることにしました。
しかし、です!!
朝起きて、歯ブラシをしながら、
「やっぱり、あの内容じゃ、良くない
んじゃない?
馴れ馴れしいヤツって思われちゃう
かも……」と考え出してしまいました。
送る勇気が消失しました。
携帯の画面を眺めながら、ウーンと
唸る時間が15分位……。
あっという間に、過ぎていったんです。
で、遂に、『その時』が、やって
来ました。
それが、どんな時かと言うとですね、
急に-まぁ、それはいつも突然です
よね-ピンポンが鳴ったんです!
ウンウン唸っていた時だったので、
かなり驚きました!
こんな朝早くに……?!
で、ハッとして、立ち上がり、玄関に
向かおうとしたんです。
でも……、そのですね、立ち上がって
玄関に行こうとして、フッと机の上の
携帯を見たんです。
そうしたら、メールが送信されて
しまっているのです!!
おそらく、音にビックリして、
つい送信ボタンを押しちゃったんで
しょうね……。
まぁ、結果オーライとしましょうか。
何はともあれ、シロウマ宅急便の
朝早い配達のおかげで、私は、
なんとか、義時君にメールを、
送ることができたのです!
今思えば、あの日の、あんなに早い
時間帯のシロウマ宅急便の赤い服
来た男性の襲来……(?)は、節理
だったのかもしれませんね。
それで、その後、私と義時君は、
みどりちゃんを仲介に、何度か
会ったのです。
あのイタリアンのお店も含めて、
3回。
で、4度目。
この4度目は、二人きりでした。
そして、この日が、さっきもお話した
プロポーズの日となったのでした。
予期せぬプロポーズ記念日となり
ましたね。
12月24日…。
実は、前日-23日-に、義時君から
電話をもらったのです。
「急だけど……。もし、時間あったら
明日、二人で、会いませんか?
みどりは家庭持ちの主婦だし、歳末で
警察の仕事も忙しいだろうから……」と。
私は、義時君に見えないので、
大きくガッツポーズしました!
当然、OKです。
気になる男性から、こんな提案されて
断る女子なんて、絶対いません!!
だって、関係が一歩前進する
チャンスなのですからネ!
あと、電話を切る前、義時君に、
「あッ!あとさ、みどりに、
ちゃんと伝えてくれるかな……。
そうじゃないと、隠れて、黙って、
二人だけで会ってたって、あとで
変に誤解されたりすると困るし……」と
言われました。
また、「みどり」か……。
ちょっと、心がズキンと痛みます。
でも、それは隠して、明るい声で、
「了解です。伝えておきます」と
答えました。
携帯を置いて、私は、ハーッと大きく
息を吐きました。
「みどり……かぁ。
いいなぁ、みどりちゃん。
壁が、ナイもんね。
これが、幼馴染の強みかぁ。
もしかして、義時さん……!?」と
思ってしまうのです。
でも、すぐに、大否定しました!
「ありえない!!
だって、みどりちゃんは、左の薬指に
指輪してる身じゃんッ!
義時さんも、それ知ってるし、
当然……」と。
ちょっとだけ、みどりちゃんに、
嫉妬してしまっている自分&義時さん
を少し疑ってしまった自分が、
いました……。
それと、私の意見としては、
伝えないで良いと思えたのです、
みどりちゃんに……。
別に、みどりちゃんに隠れて、彼女を
陥れる計画をするわけでもないし、
私も義時君も大人の男女です。
いちいち、会うのを、第三者のみどり
ちゃんに報告…しないといけないの
かな?
でも、結局、私は、その日のうちに、
みどりちゃんに、メールしました。
だって、もし、みどりちゃんに連絡
せずに、義時君と会って、あとで、
みどりちゃんに連絡してなかったのが
義時君にバレた折には……と考えると
怖かったし、デメリットが大きすぎ
ました…。
それで、みどりちゃんからの返信は、
送った直後に、ありました。
ちなみに、私は、真面目に、
「義時さんから連絡あって、明日、
二人で会わないかって、言われたの。
義時さんは、せっかくのクリスマス
だから、旦那さんもいるみどりちゃんを
誘うのは、悪いって思ってるのかも……。
それで、明日、私たち会うことに
なったんだけど、もし、予定アレだったら
みどりちゃんも来る?」
と言うような内容のメールでした。
一応、私なりに、配慮して、文面を
作ったんです。
相手は同性の親友です。
連絡したことによって、逆に、
変に誤解されたり、傷つかれたく
ありませんから……。
でも、みどりちゃんからの返信は、
想像外の内容でした!!
ここだけの話です。
義時君には、こんな内容だったとは、
言っていませんし、言えません!
「良かったねぇ、まこちゃん!
私は、そんなラブラブ舞台に、
オジャマするようなことは、
しませんッ!
だから、私に遠慮せず、二人で、
楽しんで、思い切り義時に甘えなヨ!
そうだ、明日、クリスマスだね!
ファイト♡
ちゃんとした下着で行くんだよ!」と、
よく分からない……と言うより、分かり
たくもない内容でした。
再度、ハァーッと大きくタメ息が…。
「みどりちゃん…。刑事がこんな内容の
メール送る……?」
真面目で誠実な男性と会うのです。
間違っても、そんな流れになるなんて、
あり得ないことです!
で、次の日!つまり翌日です…。
私たちは、結ばれたのです。
って、変な意味ではなくて、
結婚が決まったのです!
別に、その時、キスさえして
いませんし、その後も、
みどりちゃんが期待(?)していたような
ことは一切なかったです。
でも、私は、女性として最高に
嬉しかった!!
愛する異性の人からプロポーズされた
のですから!!
場所は…、東京のど真ん中でしたね。
周りに、人は、誰もいない。
静かな空の下で……。
(著作権は、篠原元にあります)