第十七章 ⑲
文字数 3,504文字
名乗らせてはならない、鬼畜共は。
まずは、全ての【悪】と【崩壊】の
根源。
眼科の診療科部長・教授の大学後輩に
あたり、一番のお気に入りであり、
眼科の【影の支配者的存在】―親の
権力と金のゆえ―であった男。
金の亡者、この世界に生まれて
こなかった方が、世界中のためにも
益だった程の、クズ!
そして、奴の取り巻き連中と、
将来、保身、田園調布の新築住宅の
ために、彼を助けることを選んだ、
診療科部長。
この2人の罪は、永遠に残るだろう……
絶対に。
アイツは、あの日。
前日の夜遅くまで、いや、絶対にウソだ。
絶対に、朝方まで飲んだに違いない……!
でも、診療科部長・教授の一番の側近で、
親も有力者とくると、そんなクズ野郎に
でも、物申せる医師、看護師はいない。
どんなに臭いを漂わせているとしても、
また、どんなに調子が変でも…。
あのクソが、「大丈夫だ」、「問題ない」
と言えば、それで、終わりだし……、
実際に、そうなったんだろう。
もし、彼―私の配偶者―が、朝、会議の
ために呼び出されていなければ……。
もしかしたら、奴の【変な具合】に
気づき、彼ならば、奴を手術室に
入れないべく動いたかもしれないけれど。
もう、彼が、手術着を着て、オペ室に
向かう時には、あの金の亡者・医死、
そうだ、死ぬべき医者だから、『医死』
で良い、医死は、手術室の中だった。
取り巻きと、そして、奴に何も
言えない眼科の看護師とともに。
それで、彼が、最後に入った、医師
だった……。
医死、金の亡者、私の最愛の人を
何の躊躇もなく【捨て駒】にしてくれた
アイツが、そのオペの執刀だった。
だから、そのオペ室には、医師免が
あるのは、アイツと私の最愛の人だけ。
あとは、奴の取り巻き2人と、眼科の
若手看護師達。
まぁ、30分、長くても1時間の本当に
簡単で、眼科では、言ってみれば普通の
手術が予定されていた……から。
本来、わざわざ、私の配偶者が立ち会う
必要なんて、なかった…。
のに、わざわざ、奴は、いつも目の敵に
している柳沼医師―私の配偶者―を
待って、彼が来てから、手術を始めた。
どう考えても、柳沼が立ち会う必要も
ないし、立ち会ったところで、何もする
ことができないのに……。
私は、思う。
まぁ、最初から、【医療事故】を起こし、
その【責任】を柳沼に擦り付け、彼を
追放しようという【計画】までは、
さすがになかっただろう。
と。なれば……。
残るは、柳沼を呼び、立ち会わせ、
ただ、何もさせず、何も触らせず、
【空気】のように扱ってやろうと…、
そう、【いやがらせ】で、立ち会わせた
のだ。
あの、富増安見という最悪な男は!!
そして、奴は……!
その【医療事故】、いや、初歩的すぎる
【人身に関わる重大な失敗】、違う。
自ら理解しながら、酒の影響を受けた
状況で、オペ室に入って、執刀しようと
したのだから、【悪質な犯罪】を!
何もすることなく、例のごとくの
【教授お気に入り医師】からの冷酷な
【いやがらせ】を全身に受け止めながら、
柳沼が、そのオペ室内に漂う、本来
あってはならない『異臭』に首を傾げて
いた時、ちょうど、その時だったそうだ。
眼科看護師の「あっ!」という小さな、
けど、鋭い、叫び声が、オペ室内に
こだました。
そして……。
柳沼以外の一同―眼科用手術台を囲む
面々―が、まさに、立ち尽くしている。
どの顔も、恐怖で引き攣っていた……。
それ―手術チーム―に近寄り、
手術台と、その上の患者を―特に彼の
目を―見た柳沼も言葉を失ったそうだ。
一瞬で、何が起こったか、分かる。
【医療事故】。
しかも、初歩的。
絶対に、起こらないような手術での、
研修医でもしないようなミス……。
柳沼は、マスクを剥ぎ取った。
睨みつけながら、上司にあたる富増に
近づく。
もう、この際、上司も部下も、【診療科
部長のお気に入り】も【派閥外医師】も
何にも関係ない!
重要なのは、患者―彼の目―。
そして、真実だ。
診療科部長の最側近の前に立ち、
すぐに分かった。
……酒の臭い!?
失望する。
「このクソ野郎……ッ!!」
歯を噛み締める。
医師にとって特別な、そして、今まさに
患者が横になっている『オペ室』で
なければ、ぶん殴っている。
そして、周りの、看護師達にも失望した。
「この子の視力、目よりも、コイツが……、
自分の保身が大切か!?」
だが、何も言わない。
言っているヒマない。
すぐに、マスクをつける。
立ち尽くし、いつもの勢いもなく、
死んだように萎れる、教授のお気に入り医
から、【奴が持つに全くふさわしくない】
医療器具を取り上げる。
そして。
柳沼は、すぐに、『処置』にとりかかった。
もう、【本来手術が成功した後】のように
は、絶対に、ならない!
だが……。
少しでも、犠牲を、被害を。
最小限に……!!
必死で、メスを使い、看護師達に指示を
出す。
その時。
初めて、その日、富増以外の医療従事者
―そのオペ室内の眼科所属―全員が、
『本当の医療従事者』になった。
柳沼を中心にして、彼らは、少年の
『被害』を最小限にすべく必死に、動いた。
……が、結果は。
喜ばしいものでは、なかった…。
そもそも、すでに、【医療事故】が起こって
からの、【緊急的処置】、【回復を目的と
するのでなく被害を抑えるための措置】
なのだから。
仮に、どんなに、上手く行ったとしても、
『喜ばしい結果』、『成功例』になるわけ
もなく。
ただ、看護師の1人が術後―処置後―に
ボソッと言った、「柳沼先生のおかげで
最悪は免れたわね。失明は……」、
それが、全てだった。
その場にいた、富増以外の看護師達、
医療従事者達にとって……。
だが、それも、柳沼を『納得』させる
ものでなければ、『賞賛』するもので
もないし、『満足』させるものでもない。
柳沼は、眼帯をまいた、少年の顔を
見つめた。
やるせない。
怒りがこみあげてくる。
「手術前の方が……。
これなら、手術しなかった方が、良かった
んだな、きみは……」と、声に出さず、
語りかけた。
周りを見渡す。
ヤツがいない……!
張本人。一番少年に土下座して詫びる
べき、そして、一生少年に【弁済】して
生きていくべき、あの【酒乱野郎】が!!
逃げたか……!!
医師の風上に置けない、クズ。
コネと金と裏の派閥―政治力―で
医者になったような、全患者、全病人の
敵野郎!
柳沼は、理解した。
いや、看護師達も分かっている。
ヤツ―富増―が、自分の犯した犯罪的
行為を放っておいて、どこにいて、
何をしているのか……。
誰しも思う。
「今頃、教授に都合よく話している
んだろうな。
それで、教授を通して、理事長、院長にも
良いように、話を上げて、保身して……。
あとは、政治家の大先生である父親に
泣きついていることだろうよ」
実際、その通りだった。
柳沼をはじめ、【本気の医療団】、
【正義の手術チーム】が、少年を何とか
助けようと、オペ室で、必死になって
いた頃…。
富増と眼科診療科部長藤川教授、
そして、渥美病院長たちは。
オペ室の何十倍も広く、そして、豪華で、
超一流のホテル級の〔大学病院長室〕で、
策略を図り、ことを決め……。
1本の重要・重大な電話をかけていた。
その電話をかけたのは、その部屋の中では
一番の下っ端で、しかも、今回の医療事故
の張本人だが、それでいて、〔大学病院〕
の明日、未来、経営状況を左右しかねない
男、富増。
相手―永田町の人間―と真剣な表情で
電話をする、富増のことを、大学病院の
超重鎮・医学界の大御所的存在の老齢
医師二人が、固唾を呑んで見守る。
そして、永田町の大重鎮―厚生族―の
議員は、息子―富増―のため、
その電話を切った後、すぐに、動き
出した。
受話器を置き、ホッとしている、
富増が、直属の上司と雲の上的存在
である病院長に、報告する……。
そして。
ことは、決まった。
握りつぶす……。
周囲は、黙らす。
そのため。
あのオペ室にいた人間―医師、看護師―
たちに、金を握らす。
そして、患者―その少年―と母親には
…………。
彼らは、いや、鬼畜たちは、恐ろしい
計画を立てていた。
それだけでなく、〔大学病院長室〕の
隠し金庫の中から、【存在しないはずの
札束】を用意した。
3人…、いや、3匹の鬼畜たちに迷い、
恐れ、不安はない。
バックには、厚生族の超大物議員が
控えていて、官庁、いや、警察をも
黙らせてくれるのだから。
次男坊の【ありえない級のミス】、
いや【犯罪的行為】を闇に葬るために。
いや、二人の老医師・医学界の超重鎮は
分かっている。
彼―議員先生―が守りたいのは、
「ご自分の政治生命なのだ……」と
………………。
(・著作権は、篠原元にあります
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