第十五章 ⑧
文字数 1,508文字
心配になります……。
気心知れた、みどりちゃんだけなら、
そんな悩む必要もないのですが、
みどりちゃんが、助っ人を連れてくることに
なっているのです……。
みどりちゃんの気持ちは有難いのですが、
その分、こっちは準備や配慮の必要も倍増、
いえ倍々増です。
何より、「大丈夫かなぁ。打ち解けれるの
かなぁ」と……。
まぁ、実際、そんな心配、全く無用でした
けどね、結果は……。
それで、リビングも洗面所もトイレも、
あと玄関も、それから念のためベランダの
最終チェックを終わらせて、
ちゃんと、部屋内の空気の入れ替えも
済ませ、必要アイテムをテーブルに並べる
のも完了させて、私は、キッチンへ向かい
ました。
このキッチンでは、
『夜の仕事』をしていた頃は、ガスコンロ
なんて全然使っていませんでした。
部屋が汚く、タバコ臭でいっぱいで、
酒の缶やワインボトルが転がってました
けど、ガスコンロ周辺だけは、本当に
ピカピカでしたよ……、自慢できません
けどね。
そうですね、あと、
もちろん、エプロンなんて、あの頃の私
からしたら、『ふんどし』や『男性の
トランクス』と同じレベルで無縁でした。
そんな私が、エプロンをして、ガスコンロ
にフライパンを……。
あの頃の私が見たら飛び上がるかも
知れませんね。
「えッ!?これ、私なの!!
何があったの!?」って……。
それはともかく、メモを見ながら、
調理開始です!
折角来てくれるのです。
手伝ってくれるのです!
ただ働きさせるわけにゃいきません!
もちろん、夕食のメインは、店屋物に
するとしても、それだけじゃ味気ない……
です。
わざわざ、家に来てくれたのだから、
手料理も出さないと!
それにですね、教室で習ってきた料理を、
実際に誰かに、食べてもらいたかった
のです。
もちろん、事前に、何度か、自分で作って、
自分で味見して、「これなら大丈夫!」と
思えた料理、つまり、難易度低めの料理
です、ここだけの話……。
でも、やっぱり、自分のために作るのと、
他人のために作るのでは、力の入り方、
ヤル気のUP度が違いますね!
俄然、やる気になりますね……。
自分のために作るなら、こだわらなかった
ことにもこだわりたくなります。
野菜の切り方ひとつとっても、丁寧に
なっちゃうものですね……。
そして、約束の時間ギリギリ……。
完成しました!!
挑戦したのは、教室で習ってきた、
中華料理2品です!
我ながら、美味しそうにできたと、満足。
実際、本当に、これまで、自分のためだけに
作ってきた時よりも、ウマくできてたので、
思わず、写真を撮ってしまいました。
キッチンの壁掛け時計を見上げた時……。
ちょうど、インターホンが鳴ります。
そして……、ドアを開けてみると。
満面の笑みの、みどりちゃん。
仕事帰りだからなのか、ちょっと化粧がアレ
でしたけど、もちろん、そんなこと、
口から出しません。
『セイギの味方』の刑事として、私たちの
ために働いてくれているのですから!
そんな、みどりちゃんが、玄関口で
差し出してくれたのは、コンビニのレジ袋
でした。
なんかパンパンになっています……。
「ハイ、これネ!!
そこのコンビニでさ、お酒とおつまみとか
買って来た!」。
お酒と聞いて、一瞬、私の心が揺らぎ
ます。
かなり禁酒していましたから、ね。
「うん?どうした?」と、みどりちゃん。
「ありがとう!いや、あの……、今、
禁酒中だからさ……」。
「良いじゃんさ!折角の、男ヌキの女子会
なんだからさぁ!盛り上がろうぜぇ!!」。
そして、みどりちゃんは、バンバンと
私の肩を叩くのです!?
もう、上機嫌。
「もしかして、コンビニから、飲んで来たの
かな……?」と思ってしまった、私でした。
(著作権は、篠原元にあります)