第十七章 ㉑

文字数 1,360文字

そして。
あの人は。
【医療事故】、いや、【卑劣な犯罪】から
約1週間が経過した、ある日、病棟の窓から
見てしまった……。
 まさに、寝耳に水。
全く、知らされていなかった。

一目見て。
我が目を疑った、そう。
無理もない。
【医療事故】の被害者で、まだまだ経過
確認が、絶対的必要な、あの子―少年―が
母親と、病院の外を、歩いている?!

もう1度、目を開いて。
確認してみる。
間違いない……!
あの親子だ。
彼は―私の最愛の人、本当の眼科医―は、
理解した。
「アイツら……!
出世のことしか頭にないクズ共めがッ!
厄介払いで、早期退院を迫りやがった
んだッ!!」
怒りが込み上げてくる。
 もう、金を受けとってしまっているが
……。
そのことが、いや、自分自身が、心底、
情けない。
受けとり、黙ることを選んでしまった、
あの時の、いや、違う!
「今もあの時も、俺は同じだ…!
医師失格だ!!」
自分への怒りが込みあがる。
金は明日にでも突き返してやる、
そう決めて、すぐに、走り出す。
 「今からでも、退院を取止めさせ、
すぐに、病棟に戻してくださいッ!!」
そう直訴、いや、要求、正しいことを
告げるんだ、たとえ、それでどうなっても
良い、そう思って、走った。
 白衣の医師だからか、それとも、
あまりにも決死の表情だったからか、
院内を猛ダッシュしても、咎めてくる
看護師は誰一人いなかった……。


そうした―退院を迫った―奴らの総本陣は
分かっている。
それは、診療科部長藤川の奴と、あの
富増の2人だ。そして、黙認、いや公認
しているのが病院長。
だから…。
 柳沼眼科医は走った!

そして……。
重厚な木製のドアの前に立った。
眼科診療科部長・藤川教授の部長室だ。


今までとは、違う。
もう、恐れない。
たとえ、最悪―医師的、経済的に―の結果
になってしまっても、後悔もない。
ここで、黙って、あの親子から目をそらす
位なら……。
 なので。
強く、無遠慮に、部長室の扉を叩き。
そして、返事を待たずに、強引に扉を
開けた…。


部長室内には。
藤川教授と富増、それから病院長の
まさに『金魚の糞』的な部下である
六街副病院長が勢ぞろい、密談的なものを
している。

急に開かれたドアの方をギョッとした
表情で振り向く、3者。
 一瞬後、最初に声を出したのは、
部屋の『持ち主』、藤川部長。
「何だね、柳沼君!?無礼だなぁ…。
ちゃんと、返事を待ってから、開けるのが
大人じゃないのかね?
君は、そういうことすら知らんのかね?」

「このクソ共めがッ!!お前らがやってる
ことこそ、大人……いや、その前に、人と
して、どうなんだ?!」
 そう怒鳴りたくなるのを必死に耐えて、
柳沼医師は冷静に訊く。
いや、訊こうとした。
「藤川部長。あの例の少年は……」
だが、最後まで言わせてはもらえなかった。
富増が、遮る。
「柳沼君。教授に用なのだろうが、
見ての通り、我々は重要な会議中なんだ。
後にするか、……まぁ、別に、そこらへんで
立って待ってるか、どっちでも、とにかく
待ってなさい」
冷酷な表情で、冷淡に告げる富増。
明らかに上からのものの言いよう。
礼節も敬意も一切ない。
 「コイツ、全く、反省してないな」
そう理解する。
ただ、ここで、ノコノコと出ていく程
『負け犬』じゃない。
じゃあ、お前が言った通り、ここにいて、
手前らの【クソ談義】を一言残らず聞いて
やる……。
 









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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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