第九章 ⑪
文字数 3,976文字
長谷島志与は語り続けてくれました。
おそらく、私がずっと黙っていたので
真剣に聞いてくれてると思っていた
んでしょう。
私の方は、ただ、彼女の一言一言で、
大ダメージを受け続けていて、
それで、葛藤しまくり、声すら出せな
かったのです。
そして、長谷島志与は、私が、それまで
全く知らなかった驚愕の事実をも、
そう、『隠されてた真実』をも、
告げくれたのです!
それは、あの頃の私の大親友、
葦田みどりに関すること、でした。
そう、私とみどりの『因縁』の話、
でした。
長谷島志与が語る、みどりの私への仕打ち、
私が知らなかった、みどりの悪行を聞いて、
私がどれ程怒り狂ったか、
皆さんは、絶対想像できないはず。
その前に、長谷島志与と葦田みどりの
関係性ですね。
二人は…、二人もですね、つまり、
あの頃、奥中真子、葦田みどり、そして、
長谷島志与は、同じ学校、
いすみ市立第一小学校に通っていました。
そして、大事なのは、その頃、私と
長谷島志与には面識がなかったこと。
なぜなら、彼女と私は2歳離れています
し、住んでいる地区も同じ市内と言って
も結構離れていたから。
しかし、私と違い、長谷島志与と、
葦田みどりには面識があったのです。
と言うより、2歳の年齢の離れは
ありましたが、近所に住んでいる間柄で、
大の仲良しだったのです。
よく、2人は、学校が終ってから、
空地で遊んだそうです。
だから、今思えば、みどりは、毎日は、
私と遊んでくれませんでした…。
「今日は用事がある」とか
「家の近くの、お姉ちゃんと、遊ぶ約束
してるから」と週に何度かは、言われた
ものです。
そんな時、決まって、葦田みどりは、
何か妙に嬉しそうで、それでいて、
私を誘ってくれることは、ありません
でした。
私は声には出しませんでしたが、
子ども心に寂しかったのを憶えてます。
私は、葦田みどりが大好きでした。
唯一無二の大親友だと思ってました。
でも、葦田みどりが、長谷島志与と
遊んでいることは知りませんでしたし、
その名前すら聞いたことが、
なかったのです。
私は、長谷島志与の存在、名前を全く
知らなかったけれど、長谷島志与の方は、
あの事件の後、私の名前をハッキリと
知ったそうです。
あの葦田みどりに、聞いて……。
そんな関係です。
葦田みどりと長谷島志与は。
私が知らなかった葦田みどり……。
正確な相関図を、私は、その夜、
長谷島志与の話を黙って聞きながら、
頭の中で必死に作り上げました。
「葦田みどりと長谷島志与……。
私はいない。
私だけ、蚊帳の外だったのか……」
そう思いました。
本当に子どもの頃から、ずっと惨めな
人間なんだなぁと、自分のことを、
そう思いました。
そして、皆さん!!
長谷島志与は、葦田みどりと私に関する
驚きの事実を語ってくれました。
私の記憶から欠如してしまっていた、
ある『空白の時間の出来事』をです。
あの日 廊下を走って逃げる、
「あの女の子」の腕を掴んで、
足止めし、立ち止まらせた、
存在がいた、と言うのです!
そして、その存在が、
「あの女の子」を立ち止まらせたから、
追いかけてきた男子が勢いよく、
「あの女の子」にぶつかってしまい、
二人揃って、廊下にスゴイ勢いで倒れ、
「あの女の子」は、おもらしを
してしまったのです!!
そして、「あの女の子」、つまり、
クズの極み・義時から逃げて走っていた
私の腕を掴んで、私をその場に足止めし、
私を「おもらしをしちゃったあの子」に
してくれた張本人こそ、私が、
大親友だと信じて疑わなかった、
あの、葦田みどりだったと言うのです!
私は、ベッドの上で怒りの火が燃えました。
長谷島志与は、そんな私に気づかずに、
話し続けてくれてますが……。
小学校5年生だった、長谷島志与は、
同じクラスの女子たちと廊下を
歩いていました。
すると、突然、進行方向から、ドタバタッ
と言う大きな音や怒声のようなものが、
聞こえてきたそうです。
そして、必死に走ってくる
「あの女の子」が現れたのです、
彼女たちの前方に。
彼女が曰く、
「あっという間の一瞬の出来事だった」、
そうです。
まさに、「あの女の子」の腕を葦田みどり
が掴み、「あの女の子」が驚いて、
立ち止まり、すぐ後に、男子が、
「あの女の子」に突進してしまい、
「あの女の子」も男子も一斉に廊下に、
倒れ込んで、次の瞬間、気づくと、
「あの女の子」はおもらしをしていた……。
長谷島志与もクラスメイトの女子たちも、
目の前で起こった事件ゆえ、パニックに
なってしまい、体育館に向かっていたこと
を忘れてしまったそうです。
「私たちさ、その場に立ち尽くしちゃった
んだ。もう、時間が止まるって、ああいう
時のことを言うんだねぇ」と、
長谷島志与が、こっちの方を向いて、
私にしゃべりかけてきました。
でも、私は、思いっきり頭から布団を
かぶっていたので、長谷島志与に、
私の体の震えを見られずにすみました。
最も、部屋全体がほぼ真っ暗でしたから、
布団をかぶっていなくても見られは
しなかったでしょうけどね。
長谷島志与は、語り続けます。
「私さ、後悔もあるんだ……。
あの頃、5年生は、体育館で壁画作ってね、
汚れても良いように、体育着で登校して
たの。
でさ、私は、あの日、着替えも持って、
体育館に向かってたの。
だから、あの時、「あの女の子」にと、
一瞬思って、とっさに着替えとタオルを
渡そうと近寄ったんだけどね、一緒に
いた子たちに、『やめなよ。臭くなるよ』
って言われて、やめちゃったの。
でもさ、あん時、上級生として、やっぱり
声をかけるなり、何かしてあげるべき
だったなぁって、ずっと思ってんだ……」
「やっぱり、私のことだとは、気づいて
ないな」と思うと同時に、「この人は、
根っからの良い人だ。私のことを、
少しもバカにしていない」と言うことが、
分かりました。
少し嬉しかった。
でも、黙っていました。
口を挟む勇気は、なかったのです。
私は、その夜まで、全く知りませんでした!
記憶から、ある部分が、完全に消え去って
いたのです。
あの日 自分が、廊下で立ち止まって
しまったこと、そして、そこに、クズの頭・
義時がぶつかってきて、大惨事へと発展した
ことは憶えていました。
でも、どんなに思い出そうとしても、
なぜ、クソ野郎の義時から逃げていた自分が
廊下で急に立ち止まってしまったのかは、
思い出せませんでした。
不思議でした。
どうしても思い出せないのです、その理由が。
私は、考えていました。
「力尽きて、廊下で立ち止まっちゃったの
かな?」と。
でも、その考えは全くの間違いでした!
真相は、10数年経って、その夜、
明らかになったのです。
あの現場の目撃者だった、長谷島志与
によって!
必死に、忌まわしい男・義時から逃げて
いた私が立ち止まったのは……、
葦田みどりが、私の腕を、掴んだから
だったのです!
ショック、怒り、裏切られた感……。
大親友だと信じていた、あの、
葦田みどりが!!!!
あの事件の日から、色々あって離れ離れに
なってしまっている、あの、葦田みどりが。
実は、その、葦田みどりが、私を、
義時に引き渡すようなマネをしてくれた
のです!!!!
その夜まで、あの日 私に、悪事を働いた
のは、生男と義時だけでした。
私の理解では……。
でも、そうではなかったことが、明らかに
なったのです!
なんと、アイツらだけでなく、大親友の
葦田みどりも、加えなくてはならなく
なりました!
私を屈辱のどん底に引き渡してくれた
同級生は男子二人だけではなく、女子も
一人いたのです。
しかも、それが、信じ切っていた『大親友
的存在』!!
私は、途中から、長谷島志与の話は、
うわの空でした。
ただ、必死に、情報をまとめようとして
いました。
そして、情報をまとめあげ、あの事件の
全体図が、頭の中で出来上がると、
怒りに燃え上がって、長谷島志与の話
なんか一切耳に入ってこなくなりました。
私は、考えました。
誰が、私の敵だったのか?
誰が、犯人だったのか?
義時、生男、みどりだったのです!
にわかには、信じがたいことでした。
でも、信じざるを得ません。
長谷島志与が、嘘を言っていないのは、
分かりますから……。
しかも、彼女が私に嘘を言う必要、
葦田みどりのことを、私に悪く言う必要
なんて皆無です。
「葦田みどり、お前もか!?
有罪確定だ。
絶対に、許さない!」と思いました。
まさか、一緒に語りあい、歌いあい、
そして、公園や隠れ場に歩いて行った、
あの葦田みどりが……。
私は、吐き気を催しました。
急いでベッドから起き上がり、
「ゴメン!トイレ行ってくる」と、
長谷島志与に伝えました。
ダッシュでトイレに駆け込みました。
吐こうとしましたが、
吐けませんでした。
苦しかった!
ただ、トイレにしゃがみながら、
涙を流しました。
涙は、どんどん溢れ出てきました。
トイレの中で泣きながら考えました。
分からないところもあったのです。
「なぜ、葦田みどりは、逃げてる私の
腕を掴むの?理由は?」と。
しばらく泣きながら考えて、
私は結論を出しました。
恐ろしい、結論でした!!!
…あの事件以降、一度も、
葦田みどりは、私を訪ねてくれなかった。
親友なら学校に行けなくなった友を見舞う
はずなのに……。
そして、あの事件の時も、アイツは、
クソ義時に加担した。
そうだ!
葦田みどりは、結局、私の親友なんかじゃ
なかったんだ、もともと。
私の方だけ、勝手に舞い上がって、
「大親友だ」と思っていただけなんだ……。
現に、私は、葦田みどりと、仲が良かった
長谷島志与の名前すら教えてもらって
いなかった。
おそらく、葦田みどりは、うるさく
つきまとい、親友面する私に、
嫌気がさしていた。
だから、あのクズの極み・生男のように、
私を捨てた……。
逃げている私を目にして、私が逃げるのを
意図的に邪魔したんだ、みどりは!
わざと、私が逃げるのを邪魔して、
クズの義時に、引き渡そうとした。
このように、私は結論付けました。
(著作権は、篠原元にあります)