第十七章 ㊿
文字数 1,438文字
さすがに、義時も(真子は当然だが…)
空腹感というものと、無縁だった。
久しぶりだった、こんなことは。
いくら前日食べまくっても、翌日になれば
そんなの関係ない、ペロリと朝から
ステーキだって食えたのに……。
歳のせいか…と一瞬思ったが、まだ、
こちとら20代だ。
歳なんて言ってられない。
と、なると……。
思い当たるのは、1つ。
隣でスーピー寝息をたてて熟睡している
奥さんだ。
彼女による最近始まった『ダイエット監視
プログラム』(義時による仮称)のおかげで、
胃袋が、これまでより小さくなってしまった
のだ……。
うん、そうだ。それ以外、考えられない。
結婚前の自分なら、昨晩位食っても、
朝になれば、「朝食バイキング食べまくる
ぞぉ!!」と燃えていただろうから。
義時は、隣で―初めて同じベッドで寝た―
寝ている妻を見て、フフッと笑った。
まさに、妻のせい―いや、おかげ―で、
自分が変わってきている。
その妻は、窮屈そうに、壁の方を向いて、
いまだ眠っている。
体を小さく丸めるようにしながら。
さすがに、自分と一緒だと、このサイズの
ベッドじゃ狭すぎたか……。
気を遣わせたかな、と思った。
静にかに、そっとシャワーを浴びに
立つ、義時。
まだ奥さんが寝てるし、それに、今日は
そんなに急いで出発しないといけない
スケジュールでもないので、ゆっくりと、
シャワーを浴びた。
で、義時が部屋に戻ると、真子も、
もう起きていた。
2人は、朝食抜きで、福岡のホテルを
チェックアウトした。
真子は、夫が、「オレ、朝、いらないよ」
と、自分から言ってきたので、驚いたけど、
その分、部屋でイチャついた(朝食時間分)。
で、ハネムーンの雰囲気全開の2人は、
博多駅から特急に乗り込んだ。
今日、向かうのは、大分県。
もっと詳しく言えば、別府温泉だ。
一、二、三日目までは、思い切り動く。
超過密スケジュールで色々と巡り尽くす
ことにした(2人で話し合って)。
後半の四日目と五日目は、九州の有名な
温泉でゆっくり過ごそう……。
と言う計画だ。
だから、福岡のビジネスホテルで、
チェックアウト時間のぎりぎりまで、
イチャイチャできた(笑)
で、ゆっくりと余裕を持って、目的の
特急のホームまで行って、優雅に(?)
特急電車に乗ったのだ―真子目線―。
そして、真子は、席に座るなり、
ウトウトしだしてしまった。
気づいたら……。
隣の夫によりかかって、しかも、
よだれまで垂らして寝てた。
自分の体重を受け止めながら、新約聖書を
読んでいた夫は、優しい笑顔で、
「良いよ、良いよ。まだ、寝てな。
ついたら教えるから」と言ってくれた。
この人と結婚して本当に良かった……。
結婚してから何十度目か分からないけど、
また、真子は、そう思う。
で、気づいたら……。
また、寝てしまっていた。
おそらく、自分でも気づかない―いや、
薄々感じてた―けれど、新婚旅行前半で
かなり飛ばして、結構疲れが溜まって
いたのだ。
そんな自分を、優しく、夫が起こして
くれた。
「あと、10分位で着くよ。トイレとか
行くなら、行っておいで」
夫が、言ってくれる。
それと、寝起きの水―ペットボトル―も
わたしてくれる。
「至れり尽くせりだなぁ」と思う。
本当に、自分は、幸せ者だ……。
十数分後。
若い新婚夫婦は、別府駅前に、立った。
義時も真子も、さすがに、温泉街だなと
駅、そして駅前から、感じている。
これまでの九州各地とは違う雰囲気だ。
義時と真子のゆっくり温泉旅行が始まる
……?
(著作権は、篠原元にあります)