第十五章 ㊱
文字数 2,259文字
第十四章⑱と時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)
通路側に座っている親友は、
警察署で見た時とは、違う、普通の
女子だった。
自分と同じ、普通の20代女性、
旅に興奮している若者……だ。
「この人、刑事さんですよ」と言わなければ
誰も、彼女が、天下の警視庁の所属で、
新宿の夜の街でドスを利かした声で、
ナンパ……、そう、あれはナンパ野郎だ、
そのナンパ男を一喝し、震え上がらせた
『女デカ』だとは、想像もしないよね……。
真子は、そんな、子どものように顔を
キラキラさせている親友を見つめた。
同性ながら「かわいいなぁ」と思った。
で、思う。
「うん。絶対に、道後には連れてって
あげよう」と。
さっきも、横から言われた。
今日、空港の待ち合わせ場所で、
合流してからの第二声も、
「真子ちゃんさ!うち、絶対に、
道後温泉に行きたいからさ、よろしく」
だった……。
正直、日帰りの弾丸スケジュール
だから、道後まで行くのはキツイ。
って言うより、わざわざ、自分一人なら
道後温泉に入りに、行かない。
実家-雪子の家-の近く、車で5分位の
ところの温泉で充分だし……。
しかも、道後の方は混んでる。
観光客が多いし……。
なので、地元の人間は、行かないはず。
でも、親友が行きたがってんだから、
ここで水を差すなんてありえない。
道後は、絶対行くべき場所なんだ。
みどりちゃんが行きたがってるんだから。
「それに……」と、真子は思う。
そう言えば、婚約者も、愛媛と言ったら、
「道後温泉に行きたい!」と言ったものだ。
なので、婚約者を道後温泉に案内し、
観光客の多い-だから自分1人じゃ
絶対に行かない-商店街を一緒に歩き、
名物の饅頭を食べたり、ビールを飲んだり
-婚約者だけ-、そして、実際、道後で
入浴もした。
「今年2回目の松山だな」と、真子は、
思った。
そう。1月にも、松山に帰郷したから。
その時も2人で、そして、同伴者は、
栄義時だった。
帰郷理由は……。
真子が、義時の両親への挨拶を済ませた
ので、義時も雪子に挨拶をするためだ…。
前日までは、みどりと同じく、わざわざ
買ってきたガイドブックを見ながら、
「ついでだから……。この内子ってとこも
行きたい!」とか「この原発のある伊方って
とこは遠いの、松山から?」と訊いてきた。
旅気分のようでワクワクしていた、婚約者。
でも、イザ、松山行の当日…。
飛行機に乗り込んだ瞬間から……。
「緊張でガチガチになってたなぁ」と、
真子は思い出す。
そして、クスっと思い出し笑いしてしまう。
それにくらべたら、今日、隣に座っている
みどりちゃんは……。
そんな気配ゼロ。
ただ楽しんでいる。
ま、みどりちゃんも…、私も、だけど、
もうすでに『彼の両親への挨拶』という
【緊張度MAX事案】を済ませたんだもね
……。
だから、今日は、楽しんで、良いんだ。
…ってか、もう2度とあんな緊張味わいたく
ないなぁ……と思う、真子。
隣に座る、みどりは、夢中になって、
機内誌を読んでいる。
真子は、ちょっと眠たかったので、
目をつむった。
あの日のことを思い出す……。
そう、緊張でガチガチで、足まで震えてる
感じの婚約者を引張っりながら、松山空港
到着ロビーに出た、1月の寒かった日。
ロビーに出ると、すぐに、雪子が駆けて
来た。
思わず、真子も、婚約者を忘れて、
駆け出す。
久しぶりの再会。
雪子と真子は、手を取り合って喜んだ。
真子は、思わず涙が溢れてきた。
懐かしい匂い……。
そして、白髪も増え、背もちょっと
曲がっている……。
「年を取ったなぁ」と思うと同時に、
これまで苦労、心配を自分のせいで……
と思ってしまったのだ。
「あら、泣いてるの?どうしたん?」と
雪子。
真子は、急いで、涙を拭いながら、
「嬉しくて……」と小さなウソをついた。
内心、思っていた。
これから、絶対に、親孝行しまくって
幸せにしてあげよう、と。
その後、真子は、義時を紹介した。
文字通り、ガチガチで、冬なのに
汗をかいている?!
後に彼曰く「あの時は、変な汗が急に
さ……」。
ロボットのようにぎこちない歩き方で
近づいてきた、姪孫、そして娘である
真子の婚約者。
その彼を、雪子は、優しい笑顔で歓迎
した。
そして、雪子と義時の会話の第一声は、
雪子だった。
「栄さん……。
真子が、お世話になっとります。
真子の大伯母…、今は、法律的に言えば
養母になります……、柳沼雪子です。
ようこそ、松山へ」。
そして、2人は、握手したんだった……。
空港から実家まで、車で1時間弱。
高速は使わず、一般道を、雪子の運転する
雪子の軽自動車でノロノロと走る。
真子は、助手席に座りながら、
後部座席で緊張しながら、ポツンと座る
義時をチラッと見る。
後ろに一緒に座ってあげれば良かった
かなぁ……と思う。
それから、こう想像した。
「あと、メッチャ遅い運転だなぁって
思ってんだろうなぁ」と。
確かに、雪子の運転は遅い。
こんな運転、千葉や東京でやったら
すぐにクラクションの嵐だ……。
でも、田舎だから…大丈夫。
のどかだなぁ……と思いながら、
懐かしい道のりを行く真子。
いつもの土手沿いの狭い道を走り、
それから、田んぼの中の道を行く。
途中、踏切や、すれ違いがすごく難しい
細い道も通る。
そして、左手に見えて来るのは、
年に何度かプロ野球の試合も開催される
“ポンちゃんスタジアム・愛媛”だ。
あの日も天気が良かったなぁ、
寒かったけど……。
真子は、3ヶ月前のことを振り返り、
思い出に浸っていた。
その間に、真子とみどりの2人が乗る
JAS431便は、順調に、目的地へ向かい
進んでいく……。
(著作権は、篠原元にあります)