序章⑤

文字数 1,964文字

それと、彼のお母さんは、
電話で、食事にも誘ってくれました。
それが、何よりも嬉しかったです。

正直言うと、金曜日
〔手々・LOSS・たいむ〕に行けること
よりも、
金曜日彼の家族と一緒に
食事できることの方が、
私にとって嬉しいことなのです。

本当に涙が出るほど、嬉しいお誘いでした。
彼のお母さんは言ってくれました。
「あと……、そのお店のコースを
受け終わってから、うちに来れないかしら?
もし、時間とか予定が
大丈夫だったらだけど……。
うちの家族が集まって食事するんだけど、
もし、良ければ、真子さんも、
って思ったの……。」
どんなに、あの瞬間、幸せを感じた
ことか……。
こんなに優しく、思いやりの溢れた人の
家族になれるなんて……。

私には、分かっています。
あの提案・お誘いは、彼のお母さんの愛と
優しさからのものです。
私のことを気遣って、
私を誘ってくれたのです。

彼のお母さんは、私の両親がもう
他界していて、
実家と言うものが、私にはなくて、
身内は愛媛にいる大伯母だけだと言うことを
ちゃんと分かってくれていて、
私に電話をかけてきてくれたのです。

……ちょっと話がそれるかもしれませんが、
大伯母について、しゃべらせてください。
私は、小さいころから、
おばさんと呼んでいますが、私にとって
【伯母】にあたる人でなく、
大伯母と言う通り、
亡き母の【伯母】に当たる人です。
それに、彼女は、私にとって、大伯母以上の
存在なのですが、そのことについては、
またあとでご説明できればと思います。

そのおばさんに……、
あっ、大伯母の名前は、雪子と言います。
そう、雪子おばさんに、彼と私との
結婚のことを知らせた時、
本当に喜んでくれました。
電話の向こうで、まさに、飛び上がるか
のように喜んでくれたので、私は、
「あぁ。雪子おばさんのために、
結婚を早く決めて、良かった!」
と思いました。

そして、私は、考えていました。
式の前日には、雪子おばさんを
式場のホテルに泊めてあげて、
いえ、私も一緒に泊まって、二人で
ホテルのレストランでディナーしたいなぁ……と。
雪子おばさんへの感謝の気持ちと言う素直な
面もありましたが、
それと同時に、もう一つ、
式の前夜に一人ぼっちはイヤでした。
式の前夜は、家族と過ごしたかった。
家族水入らず……が良かった。
そして、両親がいない私にとって、
まさに、雪子おばさんがだけが、
結婚式前では唯一の家族であり、
そして、まさに母でもあるわけです。

そんなわけで、
雪子おばさんと、式の前日は、
千葉のホテルでゆっくりと過ごして、
感謝の気持ちをちゃんと伝えて、
親孝行したいなぁと、
ずっと考えていました。

でも、私のプランは失敗に終わりました。
希望は、叶わないことになったのです。
それとなく電話で訊いてみると、
雪子おばさんからは、土曜日の朝に
羽田に着くと言う返事でした。
どうしても、金曜日は、外せない用事が
あるようで……。

明るい声で、電話を切ったものの、
正直かなり残念と言うか、
心が挫けそうでした。
式の先日、唯一の血縁者である
雪子おばさんと過ごす……と言う
私のプランは、おじゃんになって
しまったのです。

もちろん、彼は、彼の家族と
食事するだろうと言うことは、
私も大人ですから分かっていました。
そして、大人であり、嫁いでいく身として、
こっちから、
「私も、御一緒して良いですか?」
とか、「私が行って良いか、訊いて。」
とは死んでも言えません。
式の前夜を彼と過ごすと言う線は……
あり得ませんでした。

だから、私は色々と考えてみました。
未成年のお初やカノはダメでも、
新婚さんなら……。
でも、新婚さんも、その名の通り、
結婚したてのホヤホヤです。
夜まで、付き合わせるのは
申し訳ありません。

いろいろな顔が浮かびますが、
やっぱりムリかな……と言う結論に
行きつきます。
みんな仕事がありますし、
家庭もありますし、都合もあるのです。
それに、翌日は丸1日、私たちの式、
披露宴につき合ってもらうのですから。
「誰も誘えないな。」、これが、
私の出した答えでした。

式の前夜は、家族の温かい雰囲気の中で
過ごしたかった。
雪子おばさんとなら、
それが叶っていたはず。
しかし、普通の女性にとっては
当たり前のようなことも、
私にとっては、夢のまた夢。
かなわない夢なんだと、
自分に言い聞かせて、
今週まで過ごしてきました。

そんな、私の寂しさ、私の心の痛みを、
彼のお母さんは察してくれたんだと
思います。
いえ、察してくれたんです。
彼のお母さんなら、それ位、できます。

そして、式の前日、金曜日を
私にとって最高の一日にしてくれたのです。
まさに、孤独な一日、一人で過ごす式前夜、
バッドフライデーでなくて、

癒されてキレイになれる日、
家族団欒で過ごせる式前夜、
グッドフライデーにしてくれました。
〔手々・LOSS・タイム〕&彼の
家族との夕食……。
幸せすぎて、涙が出そうです。

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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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