第十六章 ㊳
文字数 3,267文字
警察官で、しかも、新郎の育ての親も警察官
なのですから当然ですが、本当に警察官
ばかりが集まった結婚式当日、当夜。
臆病で、不誠実な新妻である私は…。
勿論、経口避妊薬を服用していること、
しかも、かなりの量を所持していること、
今後も飲み続けるつもりであること……、
これらのことを、自分の胸の中にしまった
まま、夫となった人に連れられ、ホテルの
最上階の客室の中に入って行ったのです。
恥ずかしがる花嫁を演じて…、いえ、そこ
だけはウソじゃなく、本当に、緊張して
いましたし、恥ずかしかったし、同時に、
期待に満ちていたとも言えますが……。
でも、やっぱり、「初日から、この人を
騙すんだよね…」という嫌な気持ち、
罪責感を拭い去ることもできずに、
私は、初めての事を行う部屋に入った
のです。
ちなみに、夫は結構酔っていました。
でも、もともとお酒に強いようで、
そのまま寝てくれそうにはないな……、
と分かります。
ちなみに。
式と披露宴、それと二次会、三次会。
流れ的には、四次会もアリ的な流れで
したが、三次会参加メンバーの大半を
占める阿佐ヶ谷中央署員に緊急招集が
かかったため、取り止めに…。
で、夫も飛び出していきそうな感じ
でしたが、それは、さすがに、先輩に
止められていました。
そんな感じで、私たち夫婦は、三次会
会場を去る同僚たち+同僚(独身男性)を
狙ってついてきていた若い女性たちと
別れ、ホテルの客室に向かったわけです
……。
それで、夫は、部屋に入るなり、
脱ぎ出して……。
ポンポン、サッサッと。
正直、驚きました。
こっちも、逃げないとは決めてるし、
これから何が起こるのか、2人で何を
すべきなのかは、分かっていますけど…。
心の準備が、まだ。
…………。
事が終わって。
私は、ベッドに横になったまま、
夫が浴びるシャワーの音に耳を
傾けていました。
夫は、普段の冷静な刑事の顔ではなく
ギラギラした顔で、私を貪りました。
初めて、そんな顔を見ました。
その瞬間……、つまり、くちびるを
求められるその瞬間、「あぁ、この人も
男だな」って当然なことを考える自分が
いました。
そして、初めての体験を済ませて。
正直、そんなに良いもんじゃないな
と思いました、感想は……。
別に、初めて夫に…と言うより男性に
抱かれて、興奮しなかったと言えば
ウソになりますが、どっちかと言うと
痛さ、苦痛の方が大きかった。
こういう事には慣れているのか、
慣れていないのか、よく分からない
けれど……、実際、夫のそれまでの
こと、つまり女性経験なんて、
私は聞いていませんでしたし、
聞けるものでもありません……、
で、その夫が狂ったように私の身体の
上で腰を動かすのを、目を閉じたまま、
私は感じていました。
「早く終わんないかなぁ」、
「早く出して!」と思いながら。
正直なところ、こっちは気持ちよさ
ゼロでしたから…。
下半身は痛みでいっぱいで。
………………
嵐のような時間が過ぎ去り、初めての
『痛み』を身体の各所にヒシヒシと感じ、
それと、今まで嗅いだことのない
不思議なニオイに戸惑いながら、
その事の『後始末』を終え……。
ふっと思いました。
「大丈夫だよね、本当に?」と。
3つの観点で、不安になりました。
1,絶対に、これで妊娠しないのか?
当然ですが、夫は、避妊具なしで、
私の身体を求めてきました。
そして、私も、当然ながら、夫に、
男性用避妊具を求めることはしません
でしたし、それは考えていませんでした、
最初から。
そんなこと、結婚前にお願いできる
ような関係じゃなかったし、私たち2人は
…。
それに、初夜に、新妻の方から、「これ、
つけて」と男の人用のをわたすのも……、
ありえません。
2,本当に、こんなことしてて、夫に
バレないのか?
いつか、夫に全て知られる日が来るの
では…、いや、来る……。
いつまでも、「授かりものだからね」と
都合よく考えてくれるわけないだろうし、
病院に連れていかれるようなことに
なったらどうするのか?
あと、一番マズイのは『ブツ』が見つかる
もしくは、『ブツ』の使用現場を押さえ
られることです。
そうしたら、言い逃れ不可なのです……。
3,こんなの、毎晩求められて大丈夫
のんか?
これは、ある意味、身体的な意味で、
です。
こんなに激しいの、男女の営みってと
言う、驚きからくるものでした。
「初めての日だし、まだ慣れてない
からだろうけど……」と考えますが、
あの痛みを思い出し、怖くなりました。
毎回続いたらどうしよう……と。
それから、もう1つ。
ちょっと…ですけど、今まで、女性と
して体験したことのない『悦び』も
一瞬、いや、何度か数秒でしたが、
夫に抱かれながら体験できたのです。
その…、つまり、1人じゃ体験できない
ような、ものです。
だから、今後の自分どうなるんだろう
…って怖くなったのです。
「もし、身体が、反応して、私の身体が、
あの人を求めだしたら…。それでも、
私は、あの人を騙し続けて、そういう
『行為』を続けるのかな?」と。
………………
シャワーを浴び終え、出て来て、そのまま
眠ってしまった夫。
初めて…、当然、初めて見る、彼の寝顔
……は。
安らかな、幸せそうな、満足気なもので
した。
「何の心配もないかのよう。
本当に、幸せそうだなぁ」って他人事の
ように思いました。
もう、結婚していて、連続で2度も抱かれた
相手なのに…。
………………
洗面所で大きな鏡の前に立って、
自分の裸に向き合います。
何か夢のようでした。
だって、昨日までの自分と表面的には
何にも変わらないのですから。
「それでも……。もう、1人じゃないん
だよなぁ。
それに、もう、本当に……、女だし」と
思う私。
同時に、ズキンと心が痛みます。
「あんなに、幸せそうに寝てる……、
あんなに、私を愛してくれてる人を、
騙してんだよね」。
シャワーをどんなに浴びても、この
心の痛みは流れ去ってはくれません
でした。
いや、キレイな透明な水を見れば見る
ほど、自分の心の汚さ、醜さを突きつけ
られるようで……。
でも、私には、そのまま行くという道しか
なかったのです、当時の私には。
翌朝。
私は夫と一緒に、ホテルの地階に
降りました。
2人だけのエレベーターの中で、
夫がキスしてきたのには驚きましたが、
正直、イヤでもなかった……って、
そんなことを言いたいわけじゃないの
です。
そうです。
私たちが乗ったエレベーターが目的の
階に着き、エレベーターの扉が開くと
目の前には、満開の笑みを浮かべた、
私の両親と、彼の両親が立っていて、
私たち新婚夫婦を出迎えてくれました。
レストランのテーブルへ向かいながら
彼のお母さん、つまりお義母さんは、
私の横に並んで歩きながら、本当に
無邪気な笑顔で、そうです、何の打算も
ない感じで、言ってくれたものです。
「みどりさん。私ね、早く、あなたたちの
赤ちゃんを見たいわぁ!」と。
頭が真っ白になりました……。
私は、夫だけじゃなく、このお義母さん、
いや、それだけじゃない、お義父さんも、
そして自分の両親も騙していくことに
なるんだ、と…。
お義母さんを窘める夫の声や、義理の父の
声がありましたが。
私には、現実的なものとは思えません
でした。
それと、自分が、お義母さんに、あの時、
どう答えたのかも、全然憶えていません。
それから…。
ずっと、ずっと、ずっと……。
私は、経口避妊薬を自宅で所持し、
自宅で使用して来たのです。
時に、夫と出かけた際には、その旅先で
使用する……。
そんな『結婚生活』を続けてきました。
勿論、夫も刑事です。普通の奥さんなら
バレるでしょう。
でも、こっちも刑事です。
それに、女です。
隠すのでは、こっちの方が有利でした。
で、何とか、ずっと、バレることもなく
来ていたのです……、あの日までは。
(・著作権は、篠原元にあります
・不動みどりと栄真子の再会シーンは
第十章①です!
ただ、両人とも気づいていない……。
詳しくは、このあと、第十章へ!!
・感想やお気に入り追加など、お待ちして
います。
ログインが必要だったり、新規登録しないと
いけなかったり、正直面倒かもしれませんが
ぜひ…(笑)
嬉しいです! )