第十六章 ㊶
文字数 2,520文字
「いったい、あの涙は何だったんだ
ろう?」と、彼女の背を見て考え
ながら…。
もう、雪子さんのシルバーの軽自動車が
見えてきた頃でした。
突然、真子ちゃんが、こっちを振り向いた
のです。
その顔は……!!
さっきとは打って違って、涙のかけらも
ありません。
本当に、何ていうか……、どう言えば
良いのか分かんないのですが、とにかく
爽やかな表情…って言うのかな。
それで、真子ちゃんが、言います。
「ねぇ。みどりちゃん!さっきから
思ってたんだけどさ……」と。
そして、私のとこに来て、向こう、つまり、
公園の方を指差しながら、
「中学生くらいの子いっぱいいるじゃん。
まだまだ子供だけどさ…。
でもさ、ランドセル姿の小1達と一緒に
見たら、やっぱ、大人だね」と。
同感でした。
慣れない制服姿で、戸惑いもあるでしょう
けど、ランドセルを背負った新一年生達は
まだまだ幼稚園児みたいなものですから
……、やっぱり、中学生達は、体つきも
歩き方も、大人に近づいているんだなぁ
って感じです。
そう考えながら、私も、公園にいる
制服姿の中学生達や親子連れで来てる
1年生達を見つめていました。
雪子さんは、もう、先に進んでいました
けど、ちょっとなら大丈夫だろうと、
私も真子ちゃんも、しばし……。
それで、真子ちゃんが、また話し出した
のです。
「子どもって、本当、カワイイよねぇ!
あの1年生達さ、あんな小さな体に、
あんなに大きなランドセルで…。
めっちゃ、カワイイ!!
変な意味じゃないけど、抱きしめたくなる
ぅ!!」
何となく、気持ちは分かります。
でも、正直言うと、私は、そこまででは
なかったです。
だって、『避妊』している身ですし、あと、
言い訳のように聞こえるかもしれませんが、
警察の生安課で働いて、超反抗的な少年
少女、非行ヤリたい放題のガキどもに
触れるうちに、『子ども』が、嫌になって
いた……っていう面もあると思います。
でも……。
純粋な真子ちゃんは。
私とは違って、人を…、しかも最愛の夫を
騙すようなことはしないであろう、真子
ちゃんは。
訊いてくるのです。
最高に素敵な表情で、私に!
「あぁ!私、やっぱ、早く、子どもが
ほしいッ!!
ああやって、あのお母さんたちみたいに、
自分の子ども連れて、公園来れるなんて
超良いよぇ!
特に、娘と来て、一緒に母娘で撮影できる
なんて最高過ぎじゃん。
ねぇ。みどりちゃん。
みどりちゃんは、赤ちゃんは、どっちが
ほしいの?
男の子、女の子……どっち?」。
私とは違い、裏の『顔』なんてない
真子ちゃんに、そう言われて……。
ドキッと。
いや、ズキンと……か。
その時の、私の思いを一言で。
「どうする?!」。
だって、私は、夫に隠れて避妊をして
いるのです。
妊娠を、全力で、拒んでいるのです。
男児も女児もないのです、私には!
ってか、ほしくない……のです!!
でも、そんなこと正直に言えません。
いくら、親友の真子ちゃんだとは言え。
そして、だからと言って、「うん。
私は、男の子が良いな、最初は。
夫がさ、息子とキャッチボールしたい
って、よく言うからさ」と、ウソを
つくことはしたくありませんでした。
だから……。
私は、彼女に、答えることができなかった
のです。
そんな、私に、真子ちゃんは……。
どうしてくれたと思いますか?
真子ちゃんは、答えることのできない
私に、言ってくれたのです。
一気に、話してくれました。
そして、その、真子ちゃんの『語って
くれた内容』こそ、さっき、私が言った
私を変える
『人生のターニングポイント』の1つ目
だったのです。
「ごめんね。急に、こんなこと聞いてさ。
その家庭それぞれ事情があるのにね……。
本当、ごめん!
でもさ、私、結構本気で思うの。
いつか、私の子どもが生まれて、
そして、みどりちゃんにも子どもが
できたらさ、2人には、大の仲良しに
なってほしいな……って。
親子2代続いて、『友達』って最高
じゃん?
あ、それにさ、仮に、男と女の子で
性別が違ってたらさ、結婚さすのも
ありかもネ!!
あ、……。
ゴメン!話が飛躍しすぎたぁ」。
最後には、恥ずかしがって、おでこの
あたりをかく真子ちゃん……。
私は、驚きました。
ある理由で。
で、また、何も言えなかった……。
言いたいことは山ほどあったのに。
そんな私に、真子ちゃんは、頬を赤らめて、
「ゴメン!みどりちゃん、今の、全部、
忘れてッ!!」と言って、最初に車の方へ
駆けていきます。
1人、公園と公園駐車場の間に取り残された
私は……。
さっきの、つまり、撮影の時の真子ちゃん
のように、ハラハラと。
そうです、自然と、涙が溢れ出して…。
だって、初めて思えたんです。
あの中学の日以降、初めて、思えたの
です。
「私も、子どもがほしいなぁ!!」と、
心の底から。
真子ちゃんの純粋な『言葉』のおかげで
……。
「子どもができたら……」という恐れに
まさる、「子どもを産んで育てたい」という
本来の母性本能的なもの、もっと言えば、
『愛』が私の内に戻ってきたと言うので
しょうか。
歩きながら、将来を想像してみました。
昔なら、『自分の息子が加害者になる』
とか、『自分の娘が被害者になってしまう』
未来を見ていたはずです。
でも、真子ちゃんのおかげで、人間本来の
感情を取り戻せた私には、見えました。
『親になった私と真子ちゃんが見守る前で
私達の子どもが遊んでいる姿』が……!!
スーと鼻から息を吸って。
心の中で、決心しました。
「もう、逃げないゾ!」って。
「こんな生活、やめよう。
こんな『ヤクヅケ』な人生、
金輪際、終わりにしよう」と。
おそらく、人生で、初めて思ったはず
です。
最後に、もう1度、公園の方を振り向いて
……。
「早く、親になりたいな」と。
私は、素直に、そう思っていました。
そして、後で、ビックリしました。
そう、思えた、自分に。
そして、その『変化』に……も!!
これが、あの日、私に起こったこと
です。
その、第一番目。
そう。『人生のターニングポイント』の
1つ目でした。
でも、それで、完全ってわけでは、
ありませんでした。
長年、私がやってきた行為は、すでに
取り返しのつかない状況を引き起こして
いたのです……。
でも、私は、そのことに、気づいては
いませんでした、あの段階では、まだ
……。
(著作権は、篠原元にあります)