第五章 ⑨

文字数 3,478文字

高級魚の鯛…と言えば、同じ集落の
小西さん夫妻。
2人は、雪子と大の仲良しで、旦那さんは、
庭で蜂蜜を作っていた。
だから、甘い蜂蜜を、よく持って来て
くれた。
その蜂蜜が、雪子と真子の農作業時の
【栄養】となっていた。
そして、奥さんは新鮮な魚を、
特に、真子が好きな、鯛のお刺身を、
よく持って来てくれた!
真子は、小西夫妻のことが、大好き
だった。


あと、松山で、小西夫妻のほかにも、
多くの人たちと出会い、親交を深める…。
雪子おばさんの友人の二浦さん。
よく、愛媛名物のお菓子をくれた。
また、読書好きな真子に、本や素敵な絵葉書
をくれた。


雪子おばさんの親友の太野さん。
90歳を超えるおばあさん。
腰は曲がってるけど、いつもパワフルで、
真子を慕ってくれた。
「人に好かれるって良いなぁ」と思い、
幸せな気分になれる真子。
太野さんといると、安心できる。


それと、腎臓に病気があるのに、いつも
笑顔で、幸せそうな皆口さん。


みんな雪子の親友だった。
二浦さん、太野さん、皆口さん、真子と
雪子の5人で、隣町にある大きな池に
出かけたこともあった。
池の周りを歩く。
木々や草花が美しい。
老人4人は本当に歩くのが遅かったけど、
真子はみんなに合わせて歩いた。
そして、思った。
「この人たち、人生を楽しんで
るなぁ。私も、こんな人生を送りたい
なぁ」と。
彼女たちの後姿は輝いてた…。



さて、雪子は、話し好きだった。
真子はその話しを聞くのが、大好き
だった。
夕食後は、真子と雪子の話し合いの時間。
【話し合い】ではなく、雪子がひたすら
話すのだったが……。
お茶を飲み、ポエムやタルトを食べながら、
ゆったりとした時間。
雪子の話しを聞いていて、真子は、時に
ウルッとくる。
「あぁ。時間が経つの早いなぁ」と、
よく思った。
寝ないといけない時間が、やってくる。


それと、電話がかかってきて中断される
ことも多々あった。
雪子への相談の電話がかかってきて、
「長いなぁ。なんで、こんな夜に、
相談の電話とかしてくるの?」と、
真子は、見えない相手にイライラして
しまうこともあった。
そう、真子は大好きな雪子を独占
したかった。
雪子との幸せな時間を邪魔されたく
なかった。
真子にとって、それこそ至福の時間
だったから……。


時に、雪子は真剣な表情で『愛』について、
中学生の真子に、語る。
「真子ちゃん。みんな自分が大好きよね。
どんな人も自分のことを愛しているの。
それでね、その度が過ぎて、他の人の
ことを全く考えないようになる……、
すると、自分勝手な犯罪が起こるんよ。
真子ちゃん、あんな、自分を愛そうとか、
自分を大好きになろうとかしちゃ、
絶対にいけんよ。
だってね、もう、真子ちゃんも私もね、
自分が大好きなんよ。
だからね、私たちが意識せんといけんのは、
周囲の人、近所の人、家族なの。
自分以外の『誰か』のことを考えて、
その人に良くしてあげ、親切にしてあげる。
こんな、意識が大事ね。
そうじゃないと、自分のことばっかりに
なっちゃうんよ、思いも、行動も、計画
もねぇ……。
それでね、それが、自己中心、利己主義
ってものなのよ。
気を付けんと、人間って、誰だって、
そうなっちゃうのよ。
あとは……、そうねぇ、これはね、
真子ちゃんはまだ分からんかもしれん
けどね、真子ちゃんを創ってくれた、
神様を愛するってことやねぇ。
……まぁ、とにかく、真子ちゃん、
自分を愛するんじゃないのよ。
自分に集中しちゃ駄目よ」
真子は、分かるような分かんないような
不思議な感覚になった。
初めて聞く内容だった。

それと、雪子は【戦争の話し】もして
くれた。
若い頃、学生運動、共産党活動に
参加していた雪子の体験談は、
若い真子にとって貴重なものだった。
何よりの勉強だった。


ある日、雪子は、亡夫のことを
真子に、こう語った。
「真子ちゃん。亡くなった夫はねぇ、
非常に苦労をして眼科医になったんよ。
彼のお祖父さんは、本当に酒浸りだった
んだって。
今で言う、アルコール中毒ね。
とにかく、お酒を朝から、浴びるほど
飲んで、沢山借金つくって、結果ね、
体悪くして早く死んじゃったんよ。
しかも、すごい額の借金を家族に
残してね。
それでね、その奥さん……、つまり夫の
お祖母さんが必死に必死に働いて、
借金を返そうとしたんだって、小さい
子どもたちを育てながらね、
女手一つで。
でも、働いても働いても借金は
減らない、逆に利息だけが増えるような
毎日だったらしい……。
だから、お祖母さんはね、いつも、
立ちながら、泣きながら、
夕ご飯を食べて、またすぐに、
暗い外に出て行って、夜遅くまで、
働いたんだって。
それで、そんな無理が長く続くはずない
よねぇ。
結局、お祖母さんも突然倒れて、そのまま
亡くなってしまうんよ。
真子ちゃん、本当に、お酒は人を
ダメにするわねぇ。
悲しい話しでしょう?
でもね、実際の話しなのよ、これ。
それで、その二人の残された子ども達
が必死に借金を返したんだって。
みんな食うや食わずの生活を長年
しながらね。
特に、長男坊は教師になりたかったのに
その夢を捨てて、弟たちの学費を出す
ために、肉体労働で頑張ったらしいわ。
その長男坊の息子が、私の夫だったの。
……夫は貧しい生活から抜け出し
たくて、日本に来たんよ。
それでね、死に物狂いで勉強してたわ。
一刻も早く医師免許をとって、両親に、
お金を送れるようになるためにねぇ。
……いつも、あの人言ってたわ。
『一人の人間の罪が、多くの人の生活、
いや、人生そのもんを狂わしてしまう
んや!』って。
でもねぇ、真子ちゃん。
最近、思うんよ。
じゃ、逆に、一人の人の善行って、
たくさんの人を笑顔にしてあげれる
んじゃないかなぁって……。
ほやけん、私もねぇ、多くの人を
笑顔にしてあげよって、助けてあげて
るんよ、自慢じゃないけどね。
今はね、教会の人たちと一緒にね、
アフリカの貧しい子たちを3人、
支援しとるんよ。
みんな大きくなってきてねぇ。
時々、レポートや手紙も届くんよ。
……真子ちゃん、一緒にみんなを
笑顔にしてあげたいねぇ。」

真子が、その教会の人達、と初めて
会ったのは、松山に住みだして、
すぐの日曜日のことだった。
雪子が、その前の日に、真子を、
教会に誘ってくれた。

実を言えば、松山に来る前、
「伯母さんはね、クリスチャンなのよ。
それでね、宗教なんて程々で良いのに、
伯母さんは熱い人だから……。
あなたも教会に誘われるわ、絶対。
だからね、一度は行ってみなさい。
勉強と思って。
でもね、若いあなたに宗教は、まだ
必要ないし、そもそも神なんて、
いないのよ。
……だって、考えてみて。
慈悲深い神がいるなら苦しむ人や
戦争なんて、なくなるんじゃない?
神がいるなら、人が苦しむのを許さず、
助けてくれるはずよ、いるなら!
だから、苦しい人がいるって言う
時点で、神の存在なんかありえない!
うん、そうね。一回で良いわよ、
教会に行くのわ。
教会に毎週行くなら、勉強したり、
遊んだり、若い時にしか出来ない
ことをしないと……」と母が言った。


母は、教会が、宗教が、キライみたい
だったけど、真子にはそんな感情は
なかった。
一度、教会と言う所にも行って
みたかった。
だから、雪子から誘われた時、
「やった!」と思った。


未体験の分野に入れるような気が
して、ドキドキしながら雪子について
行った。
そして、教会で、教会の人達、
それから面白くて、【髪の毛の薄い】
牧師先生と出会った。



結局、真子は2度教会に行った。
牧師先生の話しが結構面白かった
から……。
1度じゃなく、2度。
「お母さんにばれるわけないし……。
今日も行ってみよう」と思い、雪子と
出かけたたのだった。


でも、2度目に気づいた。
椅子に、座りっぱなしは、キツイ!
1時間以上もずっと椅子に座る
ことになる、これ、正直、
きつかった。
それと、何より、教会には、同年代の
男子が多かった。
カッコよかろうとどうであろうと、
あと、同年代の女の子なら
「えっ?じゃぁ行こうかな、教会」と
言おうが、真子には耐えられない!
そのこと―同年代の男子たちが多く
いること―が……!!

そして、2度目の帰り道、
「もういいや。やっぱり、お母さんが
言ったように、勉強したりしよう」と、
真子は思った。
次の日曜日の朝-松山に来てから3度目
の日曜日-、雪子は「今日も行こうね」
と言ってくれた。
でも、真子は、「ごめんなさい、
おばさん。
中学校の課題や勉強をするので、
私は家に残ります」と断った。
雪子は、ちょっと悲しそうな顔つきに
なったが、すぐに、
「分かったわ。ほんなら頑張って!」
と言う。

……その日曜日、真子は、部屋で
勉強した。
それから、畑に出て、一人で、
鋤を手にしていた……、が…。



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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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