第十六章 ⑰

文字数 2,185文字

「それでは、ご列席の皆様方ッ!
新婦の真子さんが、これから、再度、
お色直しに向かわれます。
そして、今度、再入場の際には、
我らが明慈大学チアリーディング部の
一員たる姿でここに、来られますので、
その新婦を、皆様の大きな大きな
拍手でお送りくださ~い!」。

同調、応援の拍手の拍手の渦!
正直、全く嬉しくない、私個人あての
拍手……。

いやいや、イヤイヤイヤイヤ!!!
私、行くつもりないよ、マジ、本当に!
と、パニックになりかけながら、後ろに、
最高の笑顔で、チアの衣装を持ちながら
立っているやよいちゃんに、訴えました。
が……。
目をそらされました。
で、マイクを握る、こしまちゃんにも、
「無理、無理、絶対!勘弁して!!」と
言う意味で、手を振ったんですけど…。
やっぱり、スルーされました。

しかも、隣の夫が……。
列席者の皆さんと共に、拍手をしている
ばかりか、「早く行ってきな」と。
本当、あの時こそ、初めて、妻として、
『夫に殺意を抱いた瞬間』でしたね。


で、必死に【抗議】しました。
後ろを振り向いて。
拍手の鳴り響く中……。
「ねッ!?やよいちゃん。
あの、そうだよ。
その衣装、私のサイズに合わない
かもよ……!」と。
だけど、やよいちゃんは、自信たっぷりの
笑顔を保ち、一言。
「大丈夫です!絶対に、合いますから」。


で、さらに、マイクと言う『対・私用』
の武器に見えるようなモノを握ってる
こしまちゃんが、決定打を……!
「皆様!新婦の真子さんが、どうやら
恥ずかしがっているようです。
応援コールのご協力、お願い致し
~ますッ!
セーッのッッ!!!」

で、披露宴会場全体から湧き上がる、
私への『コールの嵐』……。

ガンバレ、ガンバレ、マーコ!!
ガンバレ、ガンバレ、マーコ!!
ガンバレ、ガンバレ、マーコッ!!

と、ノリノリの葦田こしまちゃん。
まるで、応援団長のよう……。
後ろの、やよいちゃんも、大声で…。
隣の夫は……、やよいちゃんが、すぐ
後ろにいるので、やりませんでした
けど、「披露宴終わったら、タダじゃ
すませない」と思うようなことを……。
しかも、です。
列席者の男性陣のほとんどが、
老年の方も、中年の方も、未婚陣まで
もが、立ち上がって、こしまちゃんの
マネして、腕を上下に振りながら……。


理解しました。だって、
後ろも前も隣も、披露宴会場内に、
『味方』は、ゼロなのですから。
だから、腹をくくることにしました。
もう、逃げ場はないので……。


で、立ち上がりました!
そしたら、さらに、オォォォという
ドヨメキと言うか、歓声と言うか……。

「皆様ぁ!
ご協力ありがとうございましたぁ!
では、新婦を大きな拍手で、控室に
お送りいたしましょう!!」と言う、
こしまちゃんの声が入って来ますが
……、もう、反応している余裕は
ないし、周囲の反応も正直見たく
なかったので、私の方から、やよい
ちゃんに言いました。
「じゃ、早く行こう!」って。


すると、明らかにホッとした表情を
見せる、丸瀬やよいちゃん。
そして、駆け寄って来る、居村さん。
その2人が、私を、新婦控室にエスコート
してくれるようでした……、けど、
つい、私は、居村さんを睨んでしまい
ました。
心境は、まさに、「ブルータス、お前もか」
です。

だって、その落ち着き払った表情から、
私は、分かったのです。
「この人、全て、知ってたんだ」って。
分かってて、黙っていたんです、ホテル側
の居村さんは、式当日まで……。
まぁ、前もって、居村さんから、その、
『こしまちゃんとやよいちゃん、それから
みどりちゃんの計画』について、善意で、
教えてもらっていたら、私は、絶対に、
命をかけてでも阻止していたことで
しょうね……。
だから、居村さんは、黙っていたんだろう
と今なら、分かります。

けど、あの時は、ちょっと、キレかけて
いました。
それほど、恥ずかしかったし、まるで、
『ほふり場に連れていかれる羊』の
ような心境だったわけです。
もう、正直、全身がガクガクの状況です、
本当に……、大げさでなく。
だから、せいぜいの反抗のつもりで、
2人に言ってやりました。
「着ます!えぇ、着ます、もう!
でも、一瞬だけ着て、皆さんの前に
出て、それで、すぐに、本当に、
すぐに、控室、戻りますからね!!」と。

半ば……、いや、完全にキレてる、
そういう強い口調でしたね、今思い出す
と……。

そして、そんな私に、大きく頷き返して
くれる居村さんとやよいちゃん。
やっぱり、優しいですね…。

そして、隣の夫が、「俺も、控室、ついて
いこうか?」と、今さら夫面するなと、
思うようなこと言ってきました。
速攻、断りました。
当然です。
で、同じタイミングで、やよいちゃんと
居村さんも、「いえ……。男の人は、
ちょっと」、「お着替えなので、さすがに、
新郎様でも……」と言ってくれていました。
ちょっと、スカッとしましたね!


で……、すぐに、私は、2人に先導されて、
新婦控室に向かいました。
後ろから、こしまちゃんが何か言っている
のが聞こえて、その後すぐに、また、
披露宴会場が崩れるんじゃないかって程の
拍手が私たちに迫ってきましたが……。
「もう、本当、どうにでもなれ!」
って感じでした、心境は…。
だって、まさか、結婚式当日に、自分が
チアの衣装、つまり女子大生や女子高生
という若い子が身に着けるような、露出
超多めのユニフォームを着ることになる
なんて、想像すらもしてなかったのです
から…………!!








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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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