第十五章 ㊳
文字数 2,178文字
第十章⑦と第五章⑥、⑦と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)
広い台所では、エプロン姿の雪子が、
忙しそうに、立ち動いていた。
背は、ちょっと曲がっているけれど、
「まだまだ元気そうね!良かった!」。
そう、真子は安堵した。
結婚後はそうでなくなるけれど、この時点
では、地球上で唯一の身内、家族なのだ、
雪子は……!
しばらく、真子は、無言で、台所を
あっちに、こっちにと忙しなく動く雪子の
後姿を見つめていた。
みどりは……、何も言わないでくれた。
雪子は……、全く、2人の訪問者の存在に
気づかない…。
で、1分経ったか経たないか…。
ようやく、真子は、声をかける。
「雪子おばさん!
おはよう!!
さっき、着きましたッ」。
雪子が、ヒャッと声を上げて、文字通り、
飛び上がった。
みどりは内心思った。
「笑っちゃいけない!
でも、マンガ見たい!!」。
本気で、驚いた、雪子の、
呼吸が落ち着くまでに、結構、時間が
かかった。
で、やっと落ち着いた雪子が、真子に
言う。
「真子ちゃん~!!
もう、驚いたぁ!
急に声をかけるから、ビックリして、
手を切りそうになったわよぉ!」。
「ゴメン、ゴメン」と、真子。
手を握り合って、再会を喜ぶ、
真子と雪子を見つめながら、
みどりは、「田舎のおばあちゃんと、
都会から遊びに来た孫みたいだなぁ」
と思った。
そして、急に、和歌山で1人暮しを
している祖母・果約の顔が浮かんだ。
会いたいな……。
切実に、思う。
そして、「今、ここにいるのって、
奇跡だよなぁ」と。
そう、自分は、中学に通いだす前に、
あの和歌山の海で死んでいたかもしれ
なかった……、自ら身を投げて……。
「でも、今、こうやって、親友と、
松山市に来ている……」。
何か不思議な感じだった…。
そんな、みどりに、気づく雪子。
雪子は、「いつも、うちの真子がお世話に
なっております」と、また、「真子が、
東京で大変な時には、助けていただいて、
本当にありがとうございました」と、
深くお辞儀した。
慌てるみどり。
ジーンとくる、真子。
10数分後……。
3人は、食卓を囲んでいた。
テーブルには、「こんなに作って
くれたの!?」と、真子がビックリする
ほど、そして、みどりが恐縮するほどの、
雪子の手作りの料理の数々が……。
メインは、勿論、雪子のカレー。
かぼちゃ、椎茸、すじ肉も入っていて、
とにかく美味しい、カレー。
中学時代の真子は、
「ダイエットキラー」と名付けていた
……。
それと、真子とみどりが到着する
ほんの少し前に、雪子が、敷地内の畑
から採ってきた『朝採り野菜』の
サラダ……。
そして、雪子の手作りドレッシング。
他にも、雪子のオリジナルの料理が
並んでいた。
どれも、シンプルだが、すごく美味しい。
真子とみどりは、朝からカレーを2杯
お替りした。
目を丸くする雪子。
「若いわねぇ。本当、若い人は、
良いねぇ」と……。
みどりと真子は、後片付けをしようと
したけれど、雪子が、「えぇのよ。
それは、私がやるから……。
朝早く出て来て大変だったでしょう。
ゆっくりしてなさい」と、言い張った。
なので、みどりがテーブルを拭き、
真子が皿とかを台所に運び、
あとは、雪子にまかせることにした。
で、居間でのんびりしようとした時、
真子は思い出した。
池……!!
「そうだ!みどりちゃん。食後の運動
に、目の前の山に行かない?
池もあるしさ。
ちょっと、見に行こう」。
「良いねぇ!行こう、行こう!!」。
2人は、台所の雪子に声をかけて、
玄関を出た。
玄関を出て、すぐに、畑、木々。
これも、敷地内だ。
思わず、みどりが歓声を上げる。
「ワァ!癒されるねぇ……」。
真子は、そうだね……と答えながらも、
あの『イチョウの木』のことを思い出し
てしまった。
「みどりちゃんにも見てもらいたかった
なぁ」と思う。
ゆっくりと歩きながら、2人は、
雪子邸の敷地内を出て、本当に、目の前
の山道入口へ……。
小川に透明な水が、サラサラと。
左側は鬱蒼とした木々。
右側を見渡せば田んぼ。
自然の中を、2人は進んでいく。
急な登り坂を行き、桜の木の下を通る。
すると、山の中の大きな池が目の前に
……。
そこから、下を見渡す。
雪子の家が見える。
昔、真子が通っていた中学校……、
九峪中も見下ろせる。
「昔より、随分きれいになったなぁ。
あの体育館も新しくなってる……」、
真子は、懐かしさに浸った。
昼前……。
雪子、真子、みどりは、雪子の軽自動車で
出発した。
まずは、砥部町にある大きな大きな池へ。
自然の中を歩くことができるので、
雪子が大好きな散策コースなのだ。
そこを、3人で歩く。
木々の香り、花々、そして、気持ちの良い
風……。
それから、3人は、同じ砥部町の
紅阪泉公園へ向かった。
中学の時、制服を着て、雪子と行った。
そして、もっと前に、亡き母と雪子と、
3人で行った。
それから、小学生時代、真子はみどりと
約束していた。
「一緒に、紅阪泉公園に行こうね」と。
でも、その約束を、真子も、みどりも
果たすことはできなかった……。
だから、真子は、どうしても、紅阪泉
に行きたかった。
それと、この季節でないとダメだった。
この春の、桜の季節……。
桜舞う中で、2人だけの写真を
撮りたい……。
春真っ盛りの、桜の時節。
紅阪泉公園は、賑やかだった。
公園の駐車場も満車だった。この季節、
みんな記念撮影に来るのだろう……。
入学式シーズンなのだ。
(著作権は、篠原元にあります)