第十五章 ㉝

文字数 3,853文字

私たち女4人組が向かうのは……。
歌舞伎町とかじゃ、もちろん、ありません!
酒飲んで、騒ぎまくりたいわけじゃ、
ないのです。
美味しいディナーを女たちだけで、食べる
のが、目的でもないのです。

真面目な相談をするのが、目的です。
そして、それ+美味しいものをみんなで
食べれれば……良いのです。


「じゃ、行こっか!
それでさ、こしまが、良い感じの落ち着いた
店、知ってるって言うからさ……。
ハイ、こしま、案内して!」とみどりちゃん
が言います。
そうです。そういう、話しになっていた
のです。

で、こしまちゃんが、私たち3人の前を
歩き、先導してくれます。

そして、待ち合わせの場所から5分位
歩いたでしょうか……。
「アッ!あそこです……。あの茶色の
ビル。今、男子大学生らしき2人が出て
きた……」と、こしまちゃんが前方を
指さします。
視力が良い私には、ハッキリ見えます。
ビルの1階のいい感じの喫茶店です。
外観からしても、『あたり』だと
分かるのです……。


で、私たちは、そのお店の中に入り
ました。
あ……。
そうだ。ちょっと、思い出したので、
話しがそれるかもですが、ある出来事
について触れさせてください。
実は、途中、待ち合わせ場所から、
そのお店までの間、夜の新宿ですから
女4人で歩く私たち、何度も声をかけられ
ました。
居酒屋の若いお姉ちゃんや兄ちゃん……。
と、それから、しつこすぎるホスト風の
ヤツ……。
あまりにも、しつこいので、こしまちゃん
が、「お姉ちゃん!」と。
でもって、みどりちゃんが、
「はい、私、警察の人間だから…。
これ以上ヤったら、面倒なことになるよ」
と……。
でも、ソイツ、なめた野郎で、言うん
ですよ。
「ふ~ん。姉ちゃん、サツなの?
そんなウソ言ってもダメダメだよぉ。
ってか、超美人~!」って。

「お姉ちゃん!警察手帳、持ってない
の!?見してやってヨ!!」と、
こしまちゃん。
それに対して、「そうだよぉ。
あるなら、見せてほしいなぁ。
見たことないからぁ!
でもでもぉ!!
お姉さん、どっかのОLでしょッ。
社員証なら持ってるよねぇ」と
ソイツ……。
完全に、クズ。
ウザすぎる。
で、完全に絡まれてる、って分かり
ました。

でも、次の瞬間。
格好良かったです!
今でも、ジーンと来ますね!
みどりちゃんの表情、風貌が一瞬で、
変わったんです。
一歩前に出る、みどりちゃん。
で、そのクズ男の顔面に顔を近づけて
ドスを利かせた声、つまりは、『女の
声』じゃなく『刑事の声』で言った
んですよ。低い声で…。

「オイ、テメェ……。
本当、どこの店のモンだ……。
こっちゃぁなぁ、阿佐ヶ谷中央署の
生安の不動ってモンだ!!
テメェ、こっからよぉ、今、所轄の
北署の生安なりジのとこ行くかぁ、
一緒にぃ……!」。
まるで、刑事ドラマ見てるみたい
でしたね。

正直、初めて、みどりちゃんの
『あんな声』、聞きました。
あれは、絶対、良い子のみんなには
聞かせれないし、それに、みどり
ちゃんの旦那さんも聞いちゃいけない
声……。

でも、あの時は、あれで良かったん
です!!

みどりちゃんに、一喝された、その
金髪クズ野郎…。
面白かったですよ。
本当に、スカッとしましたよ。
「ヒーーーーー!ゴメンなさ~い!」
って映画みたいに叫びながら、
映画みたいに、転げるように、
逃げて行きましたからね!!



まぁ、そんなことがありましたが、
私たちは、こしまちゃんお気に入りの
喫茶店についたのです。
そして、店内に入りました。
入った瞬間、ほぉと唸ってしまい
ました。
女子大生が何でこんなに良い感じの
お店を知ってるの……と、正直。
まぁ、声には出しませんでしたけど。

でも、席に着くなり、みどりちゃんが
訊いていましたね。
「ちょっとぉ!こしまさ……。
何でさ、こんな良いお店、あんたが
知ってんのよ!」と。
「まぁね……」と、こしまちゃん。
すると、横から、やよいちゃんが、
珍しく、「あッ!もしかして……。
誰か、男子と来たの?」と。

慌てて否定する、こしまちゃん。
こんな言い方、ダメですけど、本当に、
面白かったですね。
だって、必死に……、で、顔を真っ赤に
して否定するので、もうバレバレです。
嘘が下手な子です。
で、だから、良い子でもあるのです。
それで、その後、女子3人……、そのうち、
1人は現職の刑事ですから、3人から尋問
された葦田こしまちゃんは、全部吐き
ました。
「おぉ!!」と感嘆の声をあげる、
同級生のやよいちゃん。
ちょっと、羨ましそうでもありました
けど……。
私も、お祝いの言葉を……。
で、お姉ちゃんだけは、冷静でした。
「一回さ、ウチに会わせな……。
一目見れば、だいたいさ、分かるからさ。
……あッ!!
ってかさ、こしま!
赤ちゃんなんて、まだ、絶対ダメだから
ネ!!」と……。
「お姉ちゃんッ!!!」という叫び声が
店内に響き渡りました……。


で、その後の詳しいやり取りや
葦田こしまちゃんの相手の男子のこと
は、割愛します。

とりあえず、全員が飲物を注文しました。
ですが、すぐに、みどりちゃんが、
「ここでさ、みんな食べるんだよね?
じゃあさ、ソレも注文しちゃおうよ!
でさ、ソレらが来るまで、話しを聞く
からさ」と。
やよいちゃんとこしまちゃんが賛成。

私は、話しがどれくらい長くなるか
分からなかったし、ちゃんと事を決めた
かったのです。万事決まってからじゃない
と注文する気にはなれないと思っていた
のですが……。
場の空気ってものがありますから、
私も、目に留まったドリアを注文
しました。
内心、早く、話を始めたかったのです。
食べるよりも、まず、話したかった…。

でも、こしまちゃんとみどりちゃんは、
ある意味、いつも通りでした……。
「コレコレ!!ここの、この、
トリオセット、メッチャ、美味しいの!
スッゴク、おすすめだよぉ!
私、コレにする。
やよいも、どう?」と。
で、それに、
「うっわッ!
えッ!?
こしまさ、コレ食べたの!?
男と一緒に食べるって時に、
こんなボリューミーなのを?
ダメじゃん、彼さ、引いたよ、きっと。
ってかさ、太るよ!!
今でも、お腹にさ、お肉結構……。
そのうち、フラれるかもねぇ」と、
お姉ちゃん。
それで、妹ちゃんが、本気で、ガツンと
やってました。

まぁ、結果……。
海鮮ドリア、私。
そのトリオ…、チキンソテー、
牛ステーキ(カット)、豚の生姜焼きの
セットを3人が注文……。

「何?お姉ちゃん、何だかんだ、
ウルサク言ってたくせに……。
同じの、頼んで……」。
「黙ってな……。
こっちはさ、犯罪者捕まえる為にさ、
都内駆けずり回って来たんだからさ!」。
「まぁまぁ。良いじゃないですか。
こしまもお姉さんも。
たまには、こうやって、栄養補給しない
と……」。

はい。その日は、やよいちゃんが珍しく
あの姉妹の間に何度も入ってくれて
いました…。




そして、です……。
飲物も、各自の夕飯となるものの注文
も終わったので、私は、
「じゃあ、みんな、良いかな」と
居住まいを正して、話し出しました。
3人の目が私に集中します。

それで……。
私は、自分の思っていること、考えた
ことを、ありのまま、みんなにぶつけ
ました。
そう、都和ちゃんに関することです。

だって。
私が、どんなに助けてあげたくても、
実際問題、都和ちゃんの顔も知らない、
住所、電話番号も知らないのです。
だから、絶対に、こしまちゃんと
やよいちゃんの理解、協力が必要不可欠
でした。

なので、私は、丁寧に、最初から説明
しました。
2人の話を聞いた、あの夜のことから。
そして、その夜と、その翌日に考えた
こと。
自分のそれまでの職歴……、話したく
なかったですけど、正直に…。
で、お金の話も……。




それでですね。
詳しくは言えませんし、話そうとする
ならば、多分、2日間位必要でしょうから
割愛させていただきますが、最終的には、
3人とも分かってくれました。
理解してくれました。
賛成してくれました。

まぁ、そこまで行くには、かなりの
『道のり』がありましたけど……。
正直、「えッ!?こんな反応されんの」
とか、「何で、分かってくれないの?」
とか、「私、都和ちゃんのためになる
こと言ってるよね?それで、この対応
かぁ……」って思いまくりました、
途中……。
しかし、お店が混んでいたことが幸い
して、注文した料理が届くまでには、
何とか、3人から理解・賛成の意を
もらうことができました。


それに、私が考えていた以上の良い方法
も出たのです。
やっぱり、『三人寄れば文殊の知恵』
ですね、実際は、4人でしたけど…。
まぁ、それはいいとして、本当に、
素晴らしい『作戦』が出来たのです!




みどりちゃんが言ったんです。
「いやさ……。
私たちはさ、分かるよ。
真子ちゃんのさ、善意をさ……。
でもさ、実際問題としてだけどさ、
全然面識のない、名前も知らない、
会ったこと1度もない人からさ、
そんな大金をもらってもさ…。
戸惑うだけじゃない?」と。

確かにその通りです。
私は、興奮してしまっていて、
そこまで考えがまわらなかったのです、
正直なところ…。

そうですね。
私が、都和ちゃんの立場でも、
確かに、受け取るのを、躊躇う
でしょう。


どうしたら良いか……。
どうやったら都和ちゃんにとって
一番良いのか、みんなで知恵を出し合い
ました。
出ては消え、出ては消え……。
その繰り返し。

それで、最後でした!
私たちの料理が出て来る前、ギリギリの
タイミングでした。
こしまちゃんが……、その日は、いろんな
意味で大活躍でしたが、そうです、彼女が
『ナイスアイデア』を出してくれたの
です!

こしまちゃんが、話し出します。
「真子さんの気持ちは、都和の親友として
すごく嬉しいです!でも、やっぱり……」。











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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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