第十六章 ㊿
文字数 1,315文字
夫は、私の、つまり、土下座したままの
私の傍まで来たのです、実際。
でも……。
歯を食いしばりながら、いくら待っても、
身体に何の衝撃もありません。
それに、彼の罵倒の声も一切響かない
のです。
「???」
恐る恐る顔を上げてみると……。
彼が、私を、そうです、土下座姿の私を
ジッと見つめているのです。
しかも、その目に光ものが…。
彼と一瞬目が合って……。
そして、次の瞬間でした。
突然、彼が手を……!!
ではなくて、彼が、私の傍にしゃがんで、
ガっと私の両肩を掴んで…。
今思えば、あそこまで強く、男性に身体を
掴まれたのは初めてでした。
そして、彼は、私の両肩を両手で掴み、
土下座姿の私を引き起こして……。
彼と私の視線が、ぶつかります。
彼の目は、真っ赤でした……。
それに、頬まで涙で濡れていて。
????!!!!
何で夫が泣いているのか私には、
その時、分かりませんでした。
でも、次の瞬間。
夫に、もの凄い力で抱きしめられた
のです。
この時も、一体何が起こっているのか、
自分で、把握できてはいなかったと
思います。
突然の事で……。
だって、ずっと彼を裏切り続けていた
のに。
『最悪の嫁』なのに……。
全部を打ち明けてしまったのに……。
夫は、殴るでも、蹴り上げるでも、
罵倒するでも、なくて。
私を全力でハグしてくれた……
のです。
そして、私の頬に自分の頬をつけながら
ハラハラと泣いて、言ったのです。
「みど。辛かったな。
ほんと、辛かったなぁ。
分かってやれんで、ゴメンなぁ」と。
十分でした。
私は、赤ちゃんの頃に戻って、
夫に抱かれながら、泣いて、泣いて、
泣きました。
彼が赦してくれている、彼がこんな私
なのに愛してくれている……。
それが、分かって。
そのことを、知れて。
夫は言うのです。
「オレも、キミを罪に定めて
ないよ」
その夜。
初めて、私は、素直に…。
そうです、何の躊躇いもなく。
隠し立ても、騙しごともなく。
夫からの愛を受け入れることができ
ました。
私の『初めての日』だと思います。
それまでは、夫と体は繋がっても、
決して、心は一つになることはなかった
のですから。
でも、あの日。
私は、本当に、初めて、夫と、
ありのままで抱き合えたのです。
それに。
私にとっては、『初めての子作り』。
今までと、全然、違う、快感が私を
襲ってきました。
燃えて、乱れて……。
彼も私も、野獣のように。
私は、彼の愛撫を一身に受けて。
彼も、全力で私を愛してくれて。
私の腋も、耳も、下腹部も、性器の
すべてを。
私は、彼の『すべて』を搾り取る
くらいの勢いで、彼の男性としての
シンボルを貪りました。
彼の全部が、欲しかった。
そして、いち早く、彼に赤ちゃんを
抱っこさせてあげたかった。
気づいたら、彼に激しく抱かれながら、
私は泣いていました。
夫は、一度動きを止めて、
「痛い…?」と訊いてくれましたが……。
決して、痛みを感じていたわけでは
ありません。
もう、言葉にならないので、首を
横に振って…。
彼は優しく頷き、キスしてくれて。
さらに、熱く、激しく……。
(・著作権は、篠原元にあります
・第十章⑦にありますけど、
不動刑事〔夫〕は、もともと優しい
人物で、そして、釣りが趣味です。
それから、石出の自殺現場にも
出動しています(第十二章③)。 )