第十六章 ⑤

文字数 2,949文字

(ここでは、第七章①と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)

(真子と小羽は、知らない設定
にしているが、第六章⑦、⑧を
読まれることをすすめる。
二人はただ単に生年月日が同じ
であるだけではない……)





店内は混んでいたが、真子と小羽は、
テーブル席に座れた。
どうやら、小羽は、婚約者との
デートでよく使うらしく、韓国人の
女性店員が、こそッと「小羽さん、
サービスだヨ」と言って、2人客
なのに、テーブル席に案内してくれた
のだ。
「常連なんだ。時々、家族割引の券
をもらえるくらいね」と言いながら、
お茶を淹れてくれる。

へぇと答えながら、真子は、
「そういえば、自分たちが常連に
なってる店ってないよなぁ」と思った。
そういう店がある、小羽たちが、
羨ましく思える……。

まぁ、でも、毎回、違う店に案内して
くれる彼がいるんだから良いじゃない
……!!

韓国人の店員がやってきて、
「いつもので良いネ?」と訊く。
「うん、お願い!あと、あら汁は
もう1つね」と小羽。
本当に常連らしい。
で、真子も、小羽がすすめてくれた
ネタを頼んだ。
あとは、「食べながらこの紙に
書いていこうね」と小羽が嬉しそうに
言う。


結婚式を直前に控える未婚女子2人、
寿司屋で乾杯した、お茶で……。
ゴクッと美味しそうに飲んで、
はぁーと幸せそうな表情を見せてから
小羽が、あのね……と話し出す。
「私ね、助産師やってた祖母の影響で、
医療の現場で働くこと志して、
看護師になったんだ。
それでね、今は、大学の附属病院の
産婦人科で働いてるの。
彼は、同じ病院の病棟看護師。
まぁ、病院主催の飲み会で出会ったん
だけどね。
こっちの先輩と彼の上司が大の仲良し
だったんで、引っ付けられてさ、最初は。
でもさ、二人とも小さいころから
教会学校に通ってたってこと分かって、
盛り上がって……。
で、あれよあれよという間に、
婚約だもんね。
自分でも、なんか、夢みたい…」。
頷く、真子。
良いよ、もっと話して……と目で
伝える。

「ありがとう。
それでさ、絶対、キリスト教会式で
挙式しようねって話になって、色々
調べて、最終的に、小滝先生にお願い
することになったんだけどさ……。
まさか、そこで、柳沼さんと再会する
ことになって、しかも、二人で、
こうやって、お寿司食べるなんて……。
想像もしなかった!
これも、また、夢みたいだネ!!」。
真子も大きく大きく頷く。


それから……。
二人は、食べた、食べた!
確かに、小羽の言った通り、
どのネタも最高だった!!
特に、小羽が「これは、絶対!」と
言った、炙りマグロは、お替りの
お替りまで、した!
他にも、あら汁も、タコのから揚げ、
それから、どのネタも、
「美味し~い!」に尽きた。
絶対に、今度、婚約者と来ようと、
真子は決めた。

で、食べて、食べて、食べながら、
二人は、話して、話して、話した。
思い出話に花が咲くし、お互いの
これまでのことも語り合う。

それから……!!
真子も小羽もびっくり仰天した。
誕生日が、しかも、生年まで、
つまり、生年月日が全く同じ
だったのだ、自分たちの……。

不思議な感じすぎて、二人とも、
笑い出してしまった。


例の韓国人の店員が、傍を通り過ぎ
ながら訊く。
「小羽サン!どうしたの?
何かあった!?」。
大丈夫、大丈夫と小羽。
でも、二人とも、大丈夫ではなかった。
っていうか、平常心でいられるわけが
ない!

「何か不思議だね、本当に!
同じ誕生日……かぁ!!
あッ!しかもさ、この皿の量、見て!
女二人で、何皿食べたの?
二人とも大食い過ぎるわ!
それも、夜遅く、寝る前。
この時間、こんなに、食べてるとこ、
先生たちに見られたら、絶対、
怒られるわ!」。
「うん。本当に、いつの間に、
食べたんだろうね、こんなに……。
明日は、朝いらないね」。

また、笑い出してしまう二人。
周りの視線が集中するが、
二人は気づかない……。


だが、その後、二人は……!
「良いよ、良いよ、たまには」、
「そうだね。特別だよね」と
協議、確認して、デザートを
注文した!

例の韓国から来ている店員が、
「小羽サン、まだ、食べる?
大丈夫?
でも、彼氏サンいないから、
良いか」と。
「そうだよ!今日だけ!!
で、内緒ね!」。
「ウン、分かった!」。


で、すぐに、真子の想像以上に
ビッグな『砂糖の塊』が運ばれて
来た。
「あれ!?写真の感じより、デカく
ない?」と思う。
一瞬、躊躇いが浮かばなかったわけ
ではないが、
大きな口で、早くも、アーンと
頬張ろうとしている小羽を見ると、
躊躇いも罪責感も瞬時に、
アメリカあたりに飛んで行った!

小羽は、ビッグなモンブランを。
真子は、ビッグなチーズケーキを。
それぞれ、頬張る。
二人なら、怖いモンなし……だ!
(翌日後悔するかも、だけど)
なので、あえて、何も考えずに、
二人は、一気に、黙食で食べきった
のだ!

回転寿司店の巨大モンブランを、寿司や
揚げ物をガッツリ食べた後で、
幸福に満ちた表情を浮かべながら
食べ進める小羽。
半分位食べたところで、フォークを
置く。
真子も、同じく。

ズバリ、巨大すぎる。
ある意味、『写真詐欺』だ。

お茶を口にして、小羽が喋りだす。
「私ね、生れは神奈川なの。
でもね、九州、四国、北海道とか、
あとは本州を行ったり来たりしてさ。
子供の頃は、いっつも、引っ越してた
な、って言う思い出なの……」。

小羽の目をしっかり見て、真子は、
話を聞いた。
何だか、変な意味じゃないけど、
惹かれるものがある、小羽に……。
ずっと一緒にいたい、もっと知りたい
と思う、彼女のことを。
と言うより、ずっと昔から―あの
中学時代よりも昔から―、
知っているような気がする、彼女の
こと……?

小羽が話し続ける。
「と言うのもね、父が転勤族で、
いわゆる、仕事人間でさ。
本当に、いろんなところ行ったなぁ。
まぁ、生まれてすぐの北海道なんて
全然記憶にないんだけどね。
幼稚園の頃は宮城、小学上がってからは、
広島、福岡、大分、香川とかで、
とにかく、日本全国いろいろ行った
わけ……。
だから、どの学校でも、『慣れたなぁ』、
『馴染めたかな』って時に、次の転勤先
って感じだったの。
……本当に、転校の連続でさ。
正直、学校っていうものに、全然さ、
良い思い出ないんだ。
無視とか、ハブられたり……とかの
連続でね。
だから、幼心に、ずっと、生れを
呪ってた……。
『こんな家に生まれなければ、
良かった』、『普通の仕事のお父さん
だったら……』って。
で、お父さん、大嫌いな人間に
なっちゃってね。
母とはよく話したけど、父とは全然
話さなかったの、子どもの頃から」。


自分と同じく、子どもの頃から
苦しんだ、しかも、学校のことで
苦しんでいた小羽に、共感する…。


「それでね、小6の頃だったかなぁ。
もう、お父さん大嫌いのMAXの
頃……。
今度は、石川県の小松に引っ越したの。
もう、諦めてた、あの頃はね。
『もう友達なんて出来ないんだ。
作ろうとしても、どうぜ、ムダだし。
1人で過ごそう』って決心してた。
だってさ、実際、どんなに友達作ろう
と努力して、仮に友達が出来ても、
すぐに、また、転校で……。
無意味だなって……。
それにさ、友達作ろうと頑張っても、
出来ないとさ、惨めでさ、自分が。
逆に、作ろうとしなければ、自分は
傷つかなから……」。


自分と出会う前の、小学時代の小羽
のことを想像し、真子は、胸が熱く
なっていく……。









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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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