序章⑥
文字数 2,643文字
幸せの連続でした。
いえ、彼と、ある街で、もっと言えば、
都内の商店街で、再会した日から、
幸せの連続です。
この半年間は、私のこれまでの人生の
どの季節よりも、充実していて、美しくて、
キラキラしたものでした。
……正直言うと、私のそれまでの
二十数年の歩み、生き様は決して、
皆さんに誇れるものではなく、
強いて言えば、隠しておきたい、
そんな日々でした。
こんなこと言うのもなんですが、
でも本当のことです。
……私は、誰かに誇れるような家柄も
学歴も職歴もありません。
逆に言えば、最悪の血筋を
継いでしまっている者です。
絶対に、誰にも言えないような血を継いで、
私はこの世に生まれたのです。
そんな私に、遡れば江戸時代までの
ご先祖様の名前が全部分かると言うほど、
由緒正しい家柄の彼が、
プロポーズしてくれたのです。
しかも、私の過去の歩みや彼と出会う
直前まで夜の世界で働いていたことも
知った上で……。
私は、彼のような男性は
他にはいないと思います。
まさに、私のために定められた男性……、
大げさに聞こえるかもしれませんが、
本当に、私はそう信じています。
前に、フッと思いました。
「私のように、凶悪な男の汚れた血が
体内に流れてしまっている女を、
それを知りながら愛してくれる男は
彼しかいない。」って。
今でも、そう思っています。
その彼と、明後日には結婚して、
花嫁として、祝っていただけるのです、
この私が。
こんな私が、妻として、
一人の男性と結ばれるのです。
そして、柳沼真子と言う名前から
栄真子と言う新しい名前に変わるのです。
でも、その前に……、幸せ溢れる新婦となる
結婚式の前に、私は、あの日 のことを
ちゃんと整理し、また、皆さんにも
聞いていただきたいのです。
私の人生を根本的に揺り動かし、
暗黒の世界へ私を叩き落とした、
あの事件が起こった あの日 のことを……。
私は、あの日 完全に悪いモノに捕まり、
悪いモノの手に堕ちました。
そして、その日から、私の人生は、
恥と痛みと苦悩と罪にまみれた、
それらから逃げられないものとなって
しまいました。
半年前に、ある刑事さん、
そして、彼と出会い、
その暗黒の縄目が解け去るまでは……。
私は、まさに、悪い存在に捕えられ、
また、私を責め、苦しめ、
いたぶる存在から
ずっと追われ続けていいたのです。
そして、私自身も、一時期は、
破壊する側の一員となり、
獲物を追い続けていたのです。
でも、今は違います!
絶対に違います‼
悪い存在から追われていませんし、
私自身、もう、誰かを付け狙って、
追おうとはしていません。
そう、まさに精神的にも肉体的にも
社会的にも自由になった気分です。
いいえ、本当に、それらすべての点で、
私は、自由になりました。
自由を獲得しました。
なぜ、自信を持って、
そう言い切れるのか……?
それは、今、私が、はばかることなく、
これらのことを証言、
告白できるからです。
一切恐れはありませんし、
恐怖はありません。
しゃべったら、どうなる……とか言う
不安もありません。
ありのまま、告白できます。
だから、自分が自由だと、確信を持って、
言えますし、その自由を体いっぱい
感じているのです。
ありのまま告白できる、ウソ偽りなく
証言できると言うことは、
自由だということの
証明ではないでしょうか?
いろいろなしがらみがあると、
人は自由に告白、宣言できません。
悪意ある誰かに監視されているなら、
人は声を上げることができません。
しがらみ、恐れ、弱い立場、抑圧ゆえに、
単純な、「素晴らしい!」、
「やめてください!」、「好きです。」、
「助けてください!」、
「一緒にやりましょう。」、
「こうでした。」、「ああでした。」が
言えない、そんな人々が
どれ位いるでしょうか?
私も昔は、その中の一人でした。
そして、これは、ある意味、世間一般の
大人の社会でも、そうだと言えます。
大人の社会の、色々なしがらみ、利権、
お金の都合で、縛りがあり、
自由に発言できない……のです。
だから、私は、「今、本当に自由です。
自由になりました‼」と確信を持って、
大声で言うことが出来ます。
なぜなら、何の恐れも心配も不安もなく、
堂々と、ありのまま、すべてを
話せるようになっているからです。
自由とは、何でも言える、ことですね。
最近、よく思います。
自由だから、しゃべれるんだと。
同時に、こうも思います。
しゃべるから自由になるんだ、と。
ありのまま証言し、正直に話すから、
人は、解放されるんだ、と。
私は、これらのことを自分の実体験から
悟りました。
そして、私は、明後日も、
今日、こうやって口を開いているのと
同じように、
披露宴会場で口を開きます。
自由になったことを表明するために。
私と同じように苦しんでいる
女の人達のためにも。
それから、何よりも、感謝の気持ちを
知らせるために。
私は、明後日の結婚披露宴の中で、
私の23年間を告白します。
私の誕生の秘密も、思い出したくもない
囚われの身となっていた過去のことも、
それから、大切な人たちとの断絶の
出来事などを……。
でも、最後はハッピーエンド、
感謝で終わらせます。
だって、感謝しかないのですから、
実際……。
大切なのは、あくまで感謝が目的で、
暴露や批判や裁きが目的ではないと
言うところです。
それと、なぜ、披露宴の場で話そうと、
思うに、至ったかについて、
言わせてください。
それは、両親の不在です。
私には両親がいないので、
結婚披露宴のクライマックスと言われる
【花嫁の手紙】を読んであげる、
その相手がいないのです。
だから、私は、思いました。
ならば、自分のここまでの人生を
振り返った告白をして、溢れるばかりの
感謝の気持ちを皆さんに
聞いてもらいたいと……。
だから、私は明後日、【花嫁の手紙】
ではなく、【花嫁の感謝の告白】を
読み上げます。
そのための練習……と言っては何ですが、
今このように、口を動かしているわけです。
練習ですが、お聞きください…って、
非常に失礼かもしれません。
でも、明後日の式に来られない皆さんにも、
これからの時間、私の告白を
聞いていただきたいのです。
明後日に、私が語る、私の23年間の
壮絶な歩みの歴史を……。
そして、未来に対し、私が抱いている
希望について……。
・・・・・・・・・・・
そう、あの日 です。
あの頃、私の名前は、
まだ、奥中真子でした。
小学校3年生。
まだ、母も元気でした。
母の名前は奥中峯子。
母と娘、二人きりの生活ですが、
母の愛情をいっぱい受け、
そんなに不自由を感じることもなく
暮らしていました……。