第十六章 ③
文字数 1,824文字
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)
そういえば、小滝牧師、話してたな。
2杯目のジョッキを手にしながら…。
「皆さん!!
何を驚いているんですか?
あのですね。イエス・キリストもね、
約2000年前、この地上で、
かなり葡萄酒を飲んだんですよ!」。
そして、グイ。
「あのね、クリスチャンは酒を
飲んじゃダメとか思われがちです
けどね、そんなの嘘八百!!
飲んで良いんですよ、私のようにね。
でもね、酔っちゃダメ。
これは、もう、完全にアウトです!」。
再度、ゴクゴク。
本当に、ウマそうに飲むなぁ……。
「酔って、人様に迷惑かける、暴力
ふるってしまう、事故を起こしてしまう、
最悪、命を落としてしまうとか、
あるでしょ?
だから、私なりに言わしてもらえば、
『酔う奴は飲むな!』、『酔うほど
飲むな!』の2つですね。
そうじゃなけりゃ、飲んでも良いんです、
誰だって!」。
全くその通りだと思った。
うん、そうだ。
今でも、そう思う。
たしかに、小滝牧師の言う通りだ。
それで、小滝牧師は、続けたんだ。
「まぁ、私も、いろいろ言われて
いるのは分かってるんですよ。
『大酒飲み牧師』とか……ね。
でも、逆にね、私から言えばですね、
『私?いえいえ、お酒なんて、全く
飲みませ~ん!タバコ!?
そんなの、絶対、喫いませ~ん』とか
言って、偽善ぶって、陰で人の悪口
言いまくって、イライラして家族に
当たったりするような人間の方が、
よっぽど『害毒』ですよ。
私みたいに、飲む時には、飲んで、
しっかり、やるべきことはやってる
人間の方が、まともなはず……
と、私は思うんですけどねぇ」。
同感だ。
思った。
「型破り、突拍子もない。
でも、この人、ウラオモテがないし、
人の顔色も見ない。
こういう人こそ、本物なんだ」。
だから、今も、尊敬しているし、
この先生に司式してもらえることを
感謝している……。
このように、義時が、一人で、
小滝牧師に教えられたことを
振り返っている時。
真子は、新婦控室にいた。
真子も、一人だった。
つい数分前までは、義母になる人
である栄定美、義姉になる栄美織、
そして、姪になる栄隆子がいた…。
それで、栄家の『お抱えカメラマン』
というプロのカメラマンが、女だけの
記念写真を撮ってくれた。
小学生の隆子も白のドレスを着て、
ちょっぴりお化粧までしてもらって
いた―フラワーガールの大任が
あるから―……。
ふぅーと息をつく真子。
緊張している。
もう、式の直前の時間……。
それに、やっぱり、義母と義姉になる
人達には、気を遣っちゃう。
肩をほぐす。
そんなとこに、トントンと。
控室の扉が、ためらいがちに、叩かれる。
真子は、一人の女性を、控室に
招き入れた。
扉を閉めながら、あたりを見渡す。
誰も見てない……。
来てくれたのは…。
小羽という、先輩。
何の先輩かというと、『花嫁の先輩』。
一足早く式を挙げた、先輩だ。
つまり……、義時と真子が通った、
小滝牧師の『ウェディング・セミナー』
で一緒だった、カップル2組のうちの
1組。
それで仲良くなったのが、小羽だった。
笑顔で小羽が尋ねてくる。
「どう、緊張してる?」
大きく大きく頷く真子。
だからこそ、メールして、小羽に来て
もらったのだ。
「もう、ホテル?
大丈夫だったら、新婦控室に来て
もらえるかな」と。
で、小羽は、栄定美、美織、隆子と
入れ替わりで、新婦控室に来てくれた
のだった。
小羽と真子は向かい合って、いろいろ
話した。
小羽は、一足早く式を済ませた『先輩』
として、アドバイスをしてくれた。
真子も、小羽との出会い、いや、再会の
瞬間を思い出していた。
……あれは、『ウエディング・セミナー』
の2回目の日。
プログラムが終った後、小滝先生が、
「レストランに行きましょう」と誘って
くれた。
それで、みんなで、ついて行く。
それぞれが、注文した。
自分から見て……。
一番騒いでいたのは、小滝先生。
女子達も結構盛り上がったなぁ。
で、男子達は、……まぁまぁ?
そんな男性陣に向かって、小滝先生が
色々話してた。
お酒のこととか、たばこのこと。
それで、途中で、何か急な用事が出来た
とかで、隣の女の子が帰ることになった。
で、当然のごとく、彼女の婚約者も
一緒に……。
小滝先生とカップル2組になったんだ。
女子が2人だけになって……。
小滝先生は、さらに、残った男性陣
2人に、あーだこーだ、力説していた。
その時……。
右隣の子が話しかけてきた。
それが、小羽ちゃん。
中学時代の同級生だった……。
(著作権は、篠原元にあります)