第十七章 ㊷
文字数 2,229文字
新婚旅行―長崎滞在―は、本当に
あっという間に過ぎていく……。
ゆったりとしている反面、真子の
計画通りにいかないとイヤだという
性格上、移動移動の連続で、そういう
意味で、急ぎ足だから。
このスケジュールは、若い2人だから
こそ敢行できる。年寄りには無理だ…。
太陽も沈みかけた。
2人は、市内でタクシーを拾って、
長崎の夜景の名所である、ある山を
目指した。
基本、①歩き、②バス、③電車の順番で
動くけれど、さすがに、疲れと空腹と、
あと時間的にも、特別に、タクシーだ。
山の前で、降りた。
もう70を過ぎているであろう、
話好きの運転手さんは、このまま
タクシーで上―目的のレストラン―まで
着けれるよ……と言ってくれた(もしくは
営業か?)けれど、真子は、キッパリと
断った。
だって、ロープウェイに乗らないという
選択肢なんか、ありえない!
……妻が、運転手さんからの好意の
提案を断ってしまった時。
義時は、心の中で、ため息をついた。
正直、このまま、タクシーで、レストラン
まで行ってもらいたい。
楽だし、ロープウェイの待ち時間が
もったいないし、仮に混んでたら、座れ
ないし……。
だけど。妻の好きにさせようと思った。
結婚式前、彼女が、式の準備と仕事と、
そして、この新婚旅行のため不眠不休で
頑張ってくれていたのを、知ってるから。
最初に彼を降ろし、運転手にお金を払い、
真子も、外に出た。
そのまま、ロープウェイ乗り場に向かう。
まだ夏休みでもないし、平日だから、
ガラガラだろうなぁ…と思ってたのだ
けれど、意外にも、混んでいた。
だけど、ここで引き返すのもイヤ。
それに、あのタクシーもどっか行っちゃた
しね。
なので、そのまま、並んで。
チケットを大人二人分購入して。
次の次のロープウェイに、彼と一緒に
乗れた。
噂通りの夜景で、本目のレストランに
着く前から、「来てよかったぁ!」と
真子は、思った。
自分たちの前に、まだ10代―高校生
くらい―のカップルが立っていた。
「お幸せに」と心の中で、エールを
送った……。
件の高校生カップルに続いて、真子たちも
ロープウェイから降りた。
彼ら―恋人達―は、違う方向に歩いて
行った。
レストランに入らず、外で、2人並んで
夜景を眺めるんだろうなぁ…と推理する。
けど。
もう、こっちは、そこまで若くないし、
って言うか、1日中歩きまわり空腹で、
疲れもあるし、そう、そうだ、お金も
あるんだから……。
彼を引っ張って、レストランに入る
んだ。
カメラを持って、夜景を撮りまくりたい
そうな義時の手を強く、引いて、真子は、
レストランに入る。
もう、大人なんだから、しっかりして
もらわないと……。
展望台レストランは、ほぼ満席だった。
けど、神様のおかげで、一番いい席が
空いたばかりだった!
そのカウンター席に並んで座る。
夜景が、まさに、目の前!!
その、何億円以上の価値もあるであろう
【最高の夜景】を見ながら、二人は乾杯
した。
彼が、美味そうに、ビールを喉をならし
ながら飲む。
だけど、自分は、ジュースで我慢だ…。
義時は、スペシャルトライを飲みながら
妻の横顔を見た。
夜景を、うっとりしながら見つめてる。
昔は大の酒豪だったという彼女は、今、
節酒中らしい……。
理由も聞いた。
「こんなに良い人と結婚出来て、
改めて、俺は幸せだなぁ」と、
結婚後もう何百回目になるけれど、思った。
長崎の夜景と長崎名物トルコライスを
心行くまで堪能―義時は五島ワインと
長崎和牛ステーキも!―した2人は、
食後、少しだけ、外で夜景を眺めた…。
もう、あの高校生カップルは
いなかった。
帰路は、タクシーで、そのまま山を
下りる。
そして、市街を走り、二泊目の
ホテルへと向かった。
夜遅くのチェックインになった
けれど、若い女性スタッフが、すぐに
駆け寄ってきて、案内してくれた。
おかげで、スムーズに、部屋に入る
ことができた……けど。
義時は、ルームキーで扉を開けて、
そして、電気をつけた瞬間、ギョッと
した。
なんと……、室内に!!
見知らぬ白装束の女が……ってことは、
なかったけれど。
なんと……、想像以上の広さ、だった
から!!
これが、いわゆる、スイート、いや
ロイヤルスイートか!?
平然と、隣に立つ、妻に訊いてみた。
「これ、部屋、あっちが間違えてん
じゃないかな?
こんなスゴイ部屋、あり得ないから」
真正面にある大きな窓からは、
これまた、長崎港が一望できる。
正直、ずっと、ここにいたいけれど、
こんなスゴすぎる部屋に、自分達が
……何かの間違いなんだろうから、
すぐに、あの女性に言わないと……。
と、考えてると、妻が言ってきた。
「大丈夫。あってるよ、この部屋で。
たまには、……って言うか、人生初の
新婚旅行なんだし。
ここ、意外とそんなにメチャクチャ
高くなかったから、思い切って、
奮発したんだ!」
会計係がそういうなら……、それに、
正直言えば、額を聞くのが怖かった
ので、「あぁ、そう」で終わらせる。
まぁ、一晩、この最高の夜景を
貸し切りにできるのだから……
良いか。
その後、義時は、ルームツアーした。
真子もついてくる。
正直、自分たちの、いすみのアパートの
部屋の2いや3倍以上の広さ。
トイレも2つ。
ジャグジー付きの大きな―2人で入れる
ような―風呂からも、長崎市を見渡せる。
「あとで、2人で入ろうか?」と
訊いてみたけど、即答で、断られた……。
もう、何度も肌を重ね合ってるけれど、
そこは、まだダメらしい。
(著作権は、篠原元にあります)