第十一章 ③
文字数 3,398文字
もういいよッ!大丈夫だよ……。
こうやって、また会えたんだし、助けて
もらえたんだから!
みどりちゃんと、また会えて、私、
本当に、嬉しいよ!」。
嬉しかった!
赦されたことの安堵。
もう泣き声を抑えることなんて、
できない!!
やっと、まこちゃんに、謝れた……。
そして、赦してもらえた!
私達二人は、どれ程の間、抱き合い
ながら、泣いていたのでしょう。
私には、一瞬のように思えますが。
本当に、不思議な感情に包まれました。
嬉しい……では、表現しきれない、
幸福感……。
~著者解説~
柳沼―奥中真子―と不動―葦田みどり―は、
真子が、警察署に被害相談のために行った
日に、再会している……。
だが、その日、真子は、みどりのことが、
そして、みどりも真子のことが、
分からなかった。
だから、その警察署での夜は、本当の
意味での、『再会の時』ではなくて、
真の『再会の時』は、あの木曜日、
そして、場所は、大町通商店街だった。
真子とみどりは、商店街のど真ん中で、
通行人や野次馬、また、阿佐ヶ谷中央
警察署の地域課員らが、立ち尽くす中、
抱き合い、そして、泣いた。
再会の喜びの涙。
不動-旧姓・葦田-みどりにとっては、
赦されたことの喜びの涙でもある。
真子とみどりは、泣きながら、癒される。
過去に背負った傷、トラウマ、罪責感の
一部が溶けていく……。
両者の間に存在していた大きな溝が埋め
られ、関係の分断が修復された。
この日から、真子の孤独な日々は、
終わった。
みどりに抱きしめられながら、
真子は、本当の友情に、触れていた。
「夜の仕事をしていたし、
それがキッカケで、変な男に追われる
ような目に遭った」自分なのに……、
みどりちゃんは、避けず、逃げず、
嫌がらず、ちゃんと抱きしめてくれて
いる……。
「こんな私なのに……。
昔のように……」。
感動と喜びが、内側から溢れ出す。
心の片隅にあった、みどりに対する、
わだかまりや怒りも完全に消え去って
いた。
それと……、みどりちゃんは言って
くれた。
アイツが叫んだ時、絶望の底に、
追いやられたけど……。
そうだ。本当に、この地上から消えて
しまいたいと、思った。
「メスネコ」、「公衆便所」と、罵られた
時には。
耳を塞ぐことしかできなかった。
立ち上がって、反論する勇気なんてない。
目を開ける勇気もない!
恥ずかしくて、恨めしくて、呪わしくて、
消えたかった、この世から!
周りの視線が、怖くなる。
みんなが自分のことを、
「そう言う女なんだ、アイツ……」と
見出しているのでは……?!
肩が震え、呼吸が苦しい。
すぐそこにいる女子高生何人かの
好奇心に満ちた視線……、こんな
辱めがあるの?!
それに、何より、不動刑事が、私のこと
をどう思うだろう……?
もちろん、真子は、男に体を許した
ことなんて、一度もなかった。
店の客や平戸からは、そういう関係
-男女の関係-を迫られることが、
多々あったが、全部退けてきた。
「でも……」。
真子は唇を嚙みしめて思った。
「こんな状況じゃ、誰だって……」
この自分の純潔は、自分自身が、
一番分かっている……。
自分は、男と寝たことなんて、
一回もない!
けど……。
アイツが、ああ叫んだ。
みんな、そういう-疑いの―目で、
私を見てるんだ、絶対……。
真子は、顔を上げることが、
出来なかった。
目を開けることが、できない。
周囲の音、声も聞きたくない!
全部、シャットアウトしたい!!
100%純潔なこの自分のを
信じてくれる人は、いないんだ……、
真子はそう思っていた!
だけど……、不動刑事は、いや、
みどりちゃんが、アイツを、一喝して
くれた。
みどりちゃんは、アイツの言葉を
完全に否定してくれた!!
私を信じてくれたんだ。
不動みどりの『言葉』は、
柳沼真子の耳に鳴り響いた。
そして、心の奥底を癒し、包み込む。
そう、不動みどりは、平戸以上の大声で
叫んでくれた、真子のため!
「黙れッ!!
彼女は、そんな人じゃない」と。
この『刑事の宣言』、『親友の叫び』が、
商店街中に響き渡り、真子は光に
包まれる。
自分を、100%信じ切ってくれている
大親友の不動みどりの言葉に、真子は、
さらに涙する。
そして、不動みどりも、この再会で、
解放される。
小学生の頃に背負い、ずっと共生して
きた罪責感が消えた。
自分が『被害者』にしてしまった真子に、
謝罪することができ、そして、赦しの
言葉を受け取れた……。
みどりは、警察官として生計を
立てながらも、ずっと、奥中真子の件で、
『加害者』だった。
でも、この『再会の日』、柳沼真子を
助け出せた。
もう、加害者じゃないんだ……私!
私とまこちゃんは、加害者でも被害者でも
なくて、昔のように最高の友なんだ……。
この日、真子とみどりの間にあった
隔ての壁が打ち壊された。
遠くいた二人に、平和が訪れた……。
~ここから、義時に少し話してもらう~
俺は、その日、偶然、東京都の杉並区に
いた。
父の勧めで、息抜きをしに、都内に
出かけた。
自然豊かないすみから、息抜きのために、
わざわざ都会に出ると言うのは、
よく考えればおかしな話だが、やはり、
父の勧めに従っていて、良かったと、
今では、思っている。
そして、その日、俺は、あの奥中真子、
いや、名前は柳沼に変わっていたが、
とにかく、彼女と再会できた。
いや、彼女だけじゃない。
幼馴染だった葦田みどり、とも再会した。
彼女も、名前が変わっていて-結婚で-、
不動みどりになっていた……。
小学校時代の同級生3人が、同じ日に、
同じ商店街にいて、再会するなんて、
映画のような話だが、これが事実だ…。
そして、再会のシチュエーションも、
今思えば最高だ。
これは、映画かドラマで取り上げられる。
たまたま、道でばったりとか……、
入ったレストランで偶然とか、じゃない。
奥中、いや、柳沼真子が、ある男に
追っかけられ、商店街を必死に走って
いた。
そうだ、逃げていた、男から。
俺は、自分の決心に背かずに、
その女性-柳沼真子だとは知らなかった-
を助けようと行動した。
そして、俺は、真子を助けることに
成功した。
また、変質野郎を捕まえて、刑事に
引き渡すことにも成功した。
で、なんと、その刑事が、あの葦田、
いや、不動みどりだった!
すぐに、目の前の刑事が、あのみどりで、
追われていた女が、あの真子だと、
気づいたわけじゃない。
気づくまでには、かなりの時間が必要
だった。
女刑事が、変質野郎を同僚に任せてから、
バラの香りの女性に駆け寄って行った。
その時、俺は、女刑事を追った。
別に変な意味は、ない。
ただ、地べたに座り込む女性を
女刑事の体力だけで立ち上がらせる
ことはキツイだろうと思って、
だから、手伝ってやろうと、
ついて行った……。
だが、その女刑事は、
バラの香りの女性に、
耳を疑うようなことを言い出した。
警察手帳を取り出した女刑事の口から
懐かしい名前が聞こえてきた……。
不動みどり……葦田みどり?
まこちゃん……真子?
至近距離で、目の前にいる若い女性
2人を見る。
心臓の音が響く……。
息をのむ!
驚きに、足がすくむ!!
冷静に、冷静に……。
2人の対話。
2人の行動。
そうだ、この女刑事は……。
あの葦田みどり、か……!?
で……、変質野郎に追われていたのが、
あの、奥中真子……!!
2人が、目の前で、抱き合い、大泣き
している。
再会の喜びに浸っているんだ……。
一瞬、ジーンときた。
2人とも、俺には、気を留めていない。
と言うより、存在を認識していない。
2人は、完全に、自分たちの世界に、
入っていた……。
目の前で繰り広げられる『感動的再会
シーン』を見つめながら、思った。
「あの奥中真子と葦田みどり。
大親友だった2人が、再会したって
わけか。
劇的再会ってヤツだな……」。
何故か、少し、泣けてもきた。
だけど、俺は、ハッとした。
「俺は、ここにいては、いけない人間
なのでは?」と。
俺の存在は、この『感動的及び劇的再会
シーン』に水を差すモノだ……。
あの小3の時の悪夢、悲劇、忌まわしい
記憶……。
事の発端、そう、全ての根源は、
俺だった。
俺が罪人、そして、奥中真子は犠牲者
だった。
そして、分かっている。
あの大親友だった二人……、奥中真子と
葦田みどりの関係を壊したのも、
この俺が原因となっている……。
あの事件以降の二人の苦しみは、当事者
である俺が、よく知っている。
俺は、黙って、立ち去ろうとした。
この感動的、また清らかな『再会の場』
に、自分の存在は、相応しくない、
そう思ったからだ……。
(著作権は、篠原元にあります)