第十六章 ㊸
文字数 2,677文字
までの『待ち時間』は、私と雪子さんが
色々と話し、時々、携帯をいじりながら
真子ちゃんが、相槌を打ってくる……
という感じで、過ぎて行きました。
ちなみに、私と雪子さんは、初対面です。
その日、初めて会ったのです。
でも、そんな感じがしませんでしたね。
何か、スゴイ話しやすい、のです。
それは、やっぱり、雪子さんの人柄
だったと思います。
そして、何より、『聞き上手』な人
なのです。
思いました。
「この人、聞くのに徹せれるスゴイ
人だなぁ。自分が話すことは、あんまり
しないで……」。
刑事も、そうじゃないといけないなぁ
って思いましたね。
ありとあらゆる方法で…、ある刑事は
怒鳴りまくって、ある刑事は自分の推理を
ずっと並べ立てて、ある刑事は「田舎の
母ちゃんが……」とか言いまくって、
落しにかかるわけですけど、目の前の
被疑者とかを。
でも…。
やっぱり、一番は、『話』を聞いてあげる
ことのはず…です。
特に、私が担当することの多い、少年
少女の場合は……。
だから、私は、雪子さんに話を聞いて
もらいながら、多くのことを学べのです。
それに、警察官の眼で、雪子さんを見て、
思いました。
「絶対に、この人、怒らないんだろう
なぁ…。怒ることがあったとしても、
普通の人より、ずっと耐えて、我慢して、
黙ってるタイプだな……」って。
こういう人が、生安の少年担当の刑事
だったら、担当してもらえる子供たちは
幸せだなぁと思いました。
それで……。
私自身も。
気づいたら、『聞き上手』な雪子さんに、
色々と話していました。
正直、真子ちゃんにも話したことの
なかった事も、話していました。
それに思い至って、再度、「スゴイな。
この人!」って思いました。
一度、ひねくれてて、絶対に大人の話を
聞かないと決心しきっているクズガキ
……、あっ、こんな言い方ダメですね、
そう、とにかく、その拗ねてる子を、
雪子さんのとこに連れて来たら……って
思いました。
今でも、私は、思います。
雪子さんのとこに連れて来たら、
必ず、彼でも、方向転換することで
しょう。
まぁ、そんな感じで、色々と楽しく
話していたのですが……。
急に、真子ちゃんが、割り込んできたの
です。
私達2人の会話に。
それも、全然、関係ないことを言って、
私達の会話を中断…させてきたんです。
あの時、私は、ちょうど、和歌山の祖母の
ことを雪子さんに聞いてもらっていたん
です、確か…。
でも、真子ちゃんは、大きな声で、言って
きたのです。
「あぁ、私も、早く子どもが欲しいなぁ」
って……!?
まずは、ビックリしました。
何故、急にそんなことを…!!??
いや、確かに、その気持ちは分かるけど、
まずは、結婚している私の方が先だから
……とは思いますが、何も言わないこと
に…。
その代わり、雪子さんが言ってくれて
ました。
「真子ちゃん。その気持ちは分かる
けれどね……。まずは、あなたの場合、
結婚式よ。子どもは、そのあとね」。
うん。まさに正論です。
それに対して、真子ちゃんは……。
本当に映画、マンガみたいに、顔が
真っ赤になっていき…。まるで、タコっさん
です!タコのように、真っ赤のカ!!
「そ、そうだよねッ!
私、何言っちゃってんだろう!?
忘れてッ、みどりちゃん、雪子おばさん!
ちょっとさ、紅阪泉にやっと、みどり
ちゃんと行けて感動したのと、子どもたちの
晴れ姿見て、興奮しちゃった……」。
そう言って、モジモジする真子ちゃん。
同性ながら、カワイイぃぃって思いました。
そして、気持ちは分かるような…。
そのあとは……。
私たち3人は、真子ちゃんを中心に、
『子ども』のことで大いに盛り上がり
ました。
婚約者の姪っ子ちゃんと、甥っ子ちゃん
のかわいさをしきりにアピールするのは
真子ちゃん。
真子ちゃんとその2人が写っている写真も
見せてもらえ…、いや、見せられました
何枚も。
私は……。
「良いなぁ!」と素直に思いました。
私には、まだ、子どももいませんし、
上に姉も兄もなく未婚の妹たちだけなので
当然、甥も姪もいません。
夫も、一人っ子でしたしね。
でも、そうか……と。
真子ちゃんは、結婚したら、即、叔母さん
になれるわけです。
ちょっと、羨ましかった…。
雪子さんも、いろいろなお話を聞かせて
くれました。
真子ちゃんも知らなかったようですが…。
そして、そんなに明るい話と言うわけでも
ないのですが……。
雪子さんは、亡くなった旦那さんとの間に
子どもができなかったそうです。
一度妊娠したことはあったけれど、
その子は雪子さんのお腹の中で……。
そして、結局、それ以降妊娠することが
なかった、と。
でも、です!
そのような、普通なら、シーンとなって
しまうような話にも関わらず、雪子さんの
顔は光り輝いているように、見えました。
そして、雪子さんが、『その大きな悲しみ』
を完全に乗り越えているのは、私の目にも
真子ちゃんの目にも明らかでした。
平安に満ちた感じの表情で、雪子さんは
言います。
「私は、幸せ者だと思うわ!
今、こんなに祝福されてるし、
真子ちゃんっていう娘もいて、それに、
今日こうやって不動さんともお会いできて
…」。
ウソじゃないな。
おべっかとかじゃなくて本心だなと
分かります……。
そう…。
負け惜しみでも、強がりでもなく、
あれは、柳沼雪子さんという1人の女性の
本心、本音でした。
まだまだ新米ですけど、刑事である私には
それが、分かりました。
それからは……。
雪子さんは、本当に懐かしそうに、目を
細めながら、真子ちゃんの小さい頃のこと、
それと、中学時代のことを私に話して
くれました。
私が知らない、真子ちゃんの一面を知れる
ので、面白くて、そして有意義でした。
そして、雪子さんも楽しそう。
でも、ただ一人、真子ちゃんだけは…。
しきりに、その話―自分に関する―を
止めさせようって必死でしたね(笑)
恥ずかしがって、しきりに、
「やめて!もう、いいよ、その話は!」
と言いますけど、雪子さんは、
「良いじゃない」と。
もちろん、私も、「もっと、聞きたい
です!」……って。
真子ちゃんには悪かったですけど、他人の
ああいう話って、本当に、面白いものです
ね。
まぁ、自分のをされたら……あの時の
真子ちゃんじゃないですが、確かに、
いい迷惑、赤っ恥ものですけど…。
で、とうとう!!!
ダンっと……。
真子ちゃんが、勢いよく立ち上がり。
そして……。
「もうッ!うるさいなぁ!
いつまで、話すの?
ちょっと、私、トイレ行くから」と。
雪子さんの後ろを荒々しく歩き、そして、
私の横も荒々しく通り過ぎ、部屋から出て
行く真子ちゃん…。
正直、「やり過ぎたかなぁ」と思っちゃい
ましたが……。
(著作権は、篠原元にあります)