第十六章 ⑱
文字数 4,210文字
新婦控室に入りました。
すると。
中には、上平さんが、すっかり準備を
整えた感じで、待機しています。
上平さんは、この結婚式に関して言えば
居村さんの次にお世話になったと言って
も過言でない人です。
私と同年齢で、ちょっと派手目なんです
けど、実は、すごく優しくて、それに、
言葉足らずの私の『願望』をしっかりと
読み取ってくれて、受け留めてくれて、
最高の花嫁姿にしてくれた……、
そんな頼りがいのある味方なのでした。
で、もう1人……いました。
誰だと思います?
もちろん、男性じゃありません。
男なら、即刻、「表、出ろ!」です
ものね。
そう。
中に、上平さんと一緒に待機していた
のは、不動みどりちゃんでした。
一瞬、何で……と思いましたけど、
それ以上に、大親友の顔を見ることに
よる、安堵、安心感の方が大きかった
です。
「みどりちゃん……」って思いました。
まぁ、そんな感じで、私は、2人に
先導され、別の2人が待っていた、
新婦控室に入ったのです。
で、すぐに、やよいちゃんが、
扉を閉めます。
しかも、カチャっと鍵まで……。
あれは何でだったんだろうと、
今でも思うんです。
何で、鍵を……と。
思うに、1つは、私の逃走を防止
するため。
または、男の人が乱入してくるのを
防ぐため。
まぁ、今度、やよいちゃんに訊いて
みようと思いますけど……。
で、やよいちゃんが、鍵をカチャって
かけた瞬間でした。
「じゃあ、やりますかッ!」という、
上平さんの一言を『号令』にしたかの
ように、私は、前後左右の女性4人に
囲まれ、その後は、成すがままに……
されて……、しまいました。
もう、前後左右から伸びてくる手が、
私の着衣をどんどん剥ぎ取っていく
のです。
自分の意志とは関係なく……。
ちょ……ちょっと待って、と言うも、
みどりちゃんからの、「真子ちゃん!
時間、余裕ない、黙ってて、動かない
でて!!」で瞬殺。
で、以後、何の抵抗も出来ず、女性
4人の意のままに……(笑)
『着せ替え人形』になってしまかの
ような感じでした、あの、新婦控室で、
新婦の私は。
で……、気づいたら、下着だけの、
裸の状態です。
一瞬だけ訪れた静寂の時間……。
さすがに、同室しているのが女性だけ
とは言え、自分だけ、ほぼ裸の状態。
あとの4人は、ドレス姿だったり、
スーツ姿だったり、チアの衣装姿
だったりはするけど、ちゃんと、
着衣を身にまとっているわけです。
「恥ずかしい!」と本気で思い、身を
竦めようとしたのですが……!!
その、私を裸に……、つまり、私の着衣
を【強奪】した女性たちは、私に、
『恥じらう時間』すら、そして、『体を
竦める』ことすら許してくれませんで
した。
「ハイ!
じゃあ、第二段階、行きましょうッ!!」
と言う、今度は、やよいちゃんの『号令』
が響いたと、思ったら、また、すぐに、
私は、新婦ではなく、【着せ替え人形】
さん状態に……。
記憶が間違ってなければですが、確か、
上平さんが、私の髪形を、やよいちゃん
たちと同じポニーテールに。
で、みどりちゃんと居村さんの『補助』
……じゃないな、『指示』のもと、
私は、【操り人形】のように、チアの
衣装、つまり、露出度最高のを……
身に…。
躊躇おうものなら、即、「早くッ!」、
「時間が……」と2人から、責め立て
られます。
何度も、あの時間、新婦控室で、
「アレ?私って、今日、新婦だよね。
花嫁だよね?」って思いましたけど、
それを言うのは、憚られました。
言ったら、即、「喋ってる余裕ない
ヨ!」って、みどりちゃんに怒られ
そうで……。
で、そうだ。
話を戻して、やよいちゃんは、と言う
と。
彼女は、『第二段階』では、全体の
指揮を執っていましたね、ハイ。
それから、そうだ……。
やよいちゃんに、
「真子さん、これ、チアパンです。
すぐに、はいてください」って、
『第二段階』の最初の方で、渡され
たんでした。
ショートパンツみたいなのを。
「これって…」と戸惑う私に、やよい
ちゃんは、「まぁ、いわゆる……、
ぶっちゃけ、見せパンです。
とにかく、急いでください!」と、
それだけ。
本当に、あの時は、普段優しい、
奈良時代からの親友のやよいちゃん
が、【鬼監督】に見えました……。
で、さすがに、下着を脱いで、
ソレをはく……っていう時は、
4人全員が後ろを向いてくれること
になりました。
本当は、新婦控室から、その瞬間だけで
良いから出て行ってほしかったのです
けど、ピリピリしている4人に、
そこまでは言えませんでした、怖くて
……。
で、その、やよいちゃん曰く、
『見せパン』なるものをはいた直後、
すぐに、4人の【獲物】になる新婦の
私……。
嵐、いや違いますね、大嵐のような
時間でした。
で、あっという間でした。
多分、『第二段階』は2,3分だった
はず。
で、『第一段階』の【剥ぎ取られる
時間】を含めても、私達が入室して
から、5,6分でしょう。
気付いたら、私は、ポニーテールの
チアリーディング部員姿に『大変身』を
遂げていました。
そんな自分を、新婦控室の大きな
鏡で、見つめます。
まるで自分が自分でないよう……。
不思議な不思議な感じです。
映画みたいですが、本当に、「これ、
本当に、私なの?」っていう状況…。
でも、そんな時間も、強制終了させられ
ます。
鏡の中の『チアの衣装を身にする私』の
後方にいる『汗をかいた4人組』が、
現実問題、鏡の外の『チアの衣装を身に
する私』を急かします!!!
「うん!全体的にも、問題ないネ!
そうでしょ、やよいさん?」と、上平
さんが。
「そうですね!大丈夫です。皆さん、
お疲れさまでした」と、やよいちゃん。
「それでは、急いで、披露宴会場に…。
もう、かなり、時間が……」と、腕時計
を見やりながら居村さん。
「そうそう!さぁ、早くさ、あっちに
行きましょうね!
現役明慈大学チア部の、真子さんさ!」
と言いながら、みどりちゃんが私の背を
もう押しています。
でも……。
新婦控室を出る、すんでのところで、
やよいちゃんが声を上げたのです。
「アッ!!」と。
何と振り返る、私、みどりちゃん、
居村さん、そして、後片付けをして
いた上平さん。
そんな私たちに、やよいちゃんが、
ナイスアイデアを?
「あの……。すぐに、撮りますから、
1枚だけ撮っておきましょう。
もう、あっちに言ったら、てんや
わんやで、落ち着いて、真子さんの
この姿、撮れませんから」って。
正直、恥ずかしかったので、
「それは、ゴメン」の心境でした。
実際急がないといけないのですから、
「良いよ。急ぐんでしょ?」と言おう
としたのですが、他の3人、つまり、
みどりちゃん、居村さん、上平さんが
それに賛同…。
で、私は、もう1度、新婦控室の中に
連れ戻され、あれよあれよと言う間に、
椅子に座らされ、カシャッと。
で、やよいちゃん達の指示で、次は、
立たされてカシャッと。
それから、今度は、居村さんの提案で、
同じチアの衣装姿の丸瀬やよいちゃんと
並んで、もう1枚。
で、極めつけは、本当に、急いでいた
はずなのに、みどりちゃんが、
「折角だからさ、このチーム全員で、
1枚撮っとこうよ!」と言い出し、
さっきまで、一刻も早く、チアの衣装姿
にした私を披露宴会場に急き立てて
行こうとピリピリしてたはずの、
上平さん、やよいちゃん、居村さんが
賛成して、私を囲んで、全員で、セルフ
タイマーでカシャッと。
「真子ちゃんさ、表情!
笑って、笑って!
表情がさ、堅いヨ!!」と言われながら、
あぁ、ここでは、本当に、私の意思の
尊重度ゼロなんだなぁと、思ったもの
です、ハイ。
で、やっと、主導権を握っている
4人による『記念撮影タイム』から
解放されました。
そしたら、今度は、すぐに、4人が、
私に、「急いで!!」ですよ……。
理不尽だ……ってこの時ほど思ったことは
ないですね。
で、今度こそ、本当に、3人、つまり、
やよいちゃん、みどりちゃん、居村さんに
背を強く押され、新婦控室から出される
私……。
「じゃあ、急ぎましょう!もう、皆さん、
お待ちかねのはずですから」と、私と同じ
姿、同じ髪型の女子大生ちゃん。
「あの……。ちなみに、衣装、ちゃんと
フィットしていますか?」と居村さん。
私は、「アッ!」と思って、早歩きを
しながら、ちょっと、体を動かして
みました。
完全に……フィットしていました。
まさに、ピッタリ!
同じく早歩きで、横を行く、居村さんに
答えます。
「完璧です。スゴイですね、私にちょうど
合うサイズのがあるなんてッ……」。
すると、後ろからついてくる、不動みどり
ちゃんが一言。
「真子ちゃんさ、当然じゃ~ん!」。
「へ?」。
ニヤニヤと笑いながら、みどりちゃんが
『種明かし』をしてくれます。
当然、一同、早歩きで移動しながらです
けど……。
「思い出さない?先週さ、電話で、
訊いたでしょ?
真子ちゃんのさ、身長とかスリーサイズ」。
早歩きを続けながら、私は、
「エェ!?あの時……」と叫んでました。
確かに、そう言われれば、思い出します。
式の1週間くらい前だったでしょうか、
みどりちゃんから、電話があって、
たわいのない世間話とか、既婚者からの
アドバイスをもらったりしてたのですが、
「あ……。そう言えばさ、真子ちゃんさ。
凄っくスタイルさ、良いじゃん!
義時のヤツ、良い奥さんもらうなぁ!」
と、おだてられた後、さりげない感じで
訊かれたのでした。
「ちなみにさ、真子ちゃんって、身長
いくつ?」と。
別に疑うことなく、答える私。
「へぇ。私よりさ、背高いんだねぇ。
あっ、じゃあさ、ここだけの話さ、
スリーサイズは?」。
あまりにも自然でした。質問の仕方が。
しかも、相手は大親友です。
私は、『普通』に、何も疑わずに、
正直に、スリーサイズ……、教えて
いたのでした!
あぁ、あれか!
合点が行きます。
「思い出した?あの時だよ。
でさ、あの後、すぐに、やよいちゃんと
こしまに連絡してさ、真子ちゃんの
サイズに合うのをさ、用意していて
もらったんだぁ!」と頬を紅潮させて
速足で歩く、その『名質問者』さん…!
そんなこんなしているうちに、私達の
前に、段々と、披露宴会場への大きな
扉が迫ってきます。
そして、私の心臓と言えば……。
徐々に徐々に、扉に近づくにつれ、
どんどん、ドキドキ状態になって
いって…。
1人なら、回れ右していたでしょうが、
前はやよいちゃん。
横は居村さん。
後ろはみどりちゃん……と言う、
最高の『フォーメーション』が組まれて
います。
進むしか、ないのです。
女子大生の姿にさせられしまった、
新婦の私は……。
(著作権は、篠原元にあります)