第十五章 ㉛

文字数 3,188文字

(ここでは、第九章③、④と、
第十四章⑳と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)





家の一番奥にある窓もない納戸……。
そこを、私は、通称『金庫部屋』として
いたのですが、そこに、入りました。
で、誰もいない一人暮らしなのですが、
引き戸を引きます。


金庫を開けて、通帳を並べます。
我ながらですが、「いつの間にか……。
こんなに色んな銀行の通帳が……!」と
ビックリしたのを憶えています。
私が自分で口座を開いた銀行のもあれば、
亡き母が私のために、少しずつ貯めてくれ
ていた、いすみ市の信用金庫の通帳も
ありました。
その通帳は、愛媛を発つ日に、雪子おばさん
から手渡されたもの……。
母との想い出が、溢れて来ます。
それと、心底、愛媛に戻りたく……、
つまり、雪子おばさんの顔を見たくなって
きました。



でも、私は、首を大きく振って、現実に
戻ります。
今、この私の希望を叶えることよりも、
即急に救出せねばいけない子がいるの
です。
死に瀕する者がいるなら救い出し、
貧困に苦しむ人がいるなら助け出さねば
ならないのです。


で、私は、『金庫部屋』で、私名義の
通帳8冊の合計残高を書き出しました。
正直、驚きました。
ちゃんと計算してみると、思った以上に、
あるのです!
まぁ、前の日の夜にも、計算はしたの
ですが、ザっとでした。
それに、「これには、そんなにナイはず」
と思ってしまった通帳2冊はノータッチ
だったのです。
でも、その2冊に、実際問題、かなりの
残高があったわけで……。




それで、私は、亡き母が遺してくれた、
いすみ成和信金の口座分と、
雪子おばさんが、勝手に関東に飛び出て
行った私のために仕送りしてくれていた
お金の口座分、それと、自分名義で
それまでに蓄えていた口座の一部を
結婚式関連に充てようと考えました。
それで、十分、結婚式費用の25%
プラスαは補えると分かったから
です。

正直、「25%で良かった。
50%とか言われてたら、キツかった
なぁ」と思いました。



そして、私は、いすみ成和信金の通帳と
雪子おばさんの仕送り分をいれていた
口座の通帳と、式や式後の生活のために
使うと決めた口座の通帳等、計4冊を
端に寄せました。
残りの通帳は、4冊です。

その4冊の通帳は……。
【夜の仕事】で見境なく、ただ、ひたすら
男性達から奪い取っていた分や、働いて
いた店からの給料を貯めていた口座分。
ようするに、褒められる方法で得たお金
じゃありません。
汗水流して、必死に働いて、得たお金
じゃないのです。
憎しみと怒りと、ウソと策略で、奪い
取って来た……。


正直、だから……、私は、どこかかで、
気後れしていたんだと、今なら分かり
ます。
そう。そして……。
あの、栄義時と不動みどりと再会し、
栄と婚約した、冬の頃から、私は、ずっと
後悔していたのです。
それまでの、私の、無茶苦茶な生き方に。
そして、それゆえに、自分の所有となった
お金にも、言いようもない感情を抱いて
いたのです。

だって、私は、偽りと策略の限りを尽くし、
男性達から現金やブランド品を奪ってきた
のです。

それゆえの、若さには不相応な貯蓄残高
なのです。
だからこそ、心のどこかで、ひっかかって
いたんです。
「このお金、本当に、結婚式のために
使って良いのかな……」と。
心のどこかで躊躇いとかがあった…。



でも、その4冊の通帳を見つめていて、
閃いたんです。
「この通帳の残高は……。
このお金は、全部、褒められる方法で
稼いだお金じゃない。
でも、これを、今度は、良いこと、
いや、最高に良いことのために使える
んじゃない!」と。
そうです。
都和ちゃんと、その赤ちゃんを助ける
ために使えるのです。
私が、引き出して来て、彼女たちに
渡してあげるなら……。

ちょっと言い方がアレかもしれません。
でも、ハッキリ言えば、男性達も色欲、
色眼鏡で私に近寄って来て、バカげた
ことをしながら金を落していったの
です。
その男性陣の顔を思い浮かべます。
職歴柄、顔を忘れられませんから……。
思いました。
「アイツらが持ってても、ロクでもない
ことばかりに、金を使う。
だから、私が、預かったんだと、
思おう。
そして、今回、そのお金で、都和ちゃん
たちを助けるんだ」って。

皆さんが、どう思われるかは分かり
ません。
「その考えどうなの?」とか、
「何様だ!?」とか、
「水商売やっていたテメェが言うな!」
と言うようなご意見もあるでしょう。

でも、私は、今でも、あの時に、
思ったことは、間違いではないと思い
ます。
所詮、クズはクズです。
女の身体目当てで近づいてきて、
ホイホイと金やブランド物を貢ような
男達が大金を持っていても、悪いことに
使うばかりです。
で、悪い女、まぁ、昔の私もその部類
でしたけど……、そういう女に資金提供
するだけなのです!

なら、一時期私が、奴等から預かって
いただけで、そのお金を、今度は、本当に
必要としている【死に瀕する女性】に
提供してあげるんだ……と考えても
問題はないと、私は、思っています。


確かに、そう思っています、今でも。
そして、それと同時にですね、そう
考えたい……って言う自分もいるん
です。
だって、あの頃の私がいかに盲目だった
としても、そんなの言い訳にならない
のです。
私がやって来たことは、違法ギリギリ
のことばかりです。
逮捕されたことも摘発されたことも
ないけれど……。

さっきまでの言い方だと、男性達ばかり
に問題があるような感じに受け取られ
ます。嫌な気分になられた方もいると
思います。
ですから、正直に告白します。
私は、懺悔しています。
そうです。店に来ていた男性達、
近寄って来て、金やブランド品を落して
いった彼らだけに問題があるのでは
ありません。
突き詰めれば、そうさせた、奪い取った
私の方にも問題があり、私に、かなりの
罪があるのです!
それは、認めます。

あの当時にしていたことを、親友の
不動みどりには、絶対知られたくない!
いや、一番、知られたくないのは、
栄義時でした、いや、今もそうです。
彼以外の男性と、【男と女の関係】の
一歩手前までのコトや、疑似恋愛的な
ことを数え切れないほどヤッてきました。
タイムスリップした彼に、当時の私の
『商売風景』を見られる位なら、彼に
殺された方がマシなくらいです、正直。
それほどのことを、当時、やっていた
のです。
この、罪人の私は……。
そして、それゆえの、高額残高なの
です。

こういうことを自認しているからこそ、
自分の今までの歩みを振り返り、
懺悔しているからこそ、
「勝手だなぁ」とか、「お前、その男性
たちのこと、もっと考えろ!」と言われる
かもしれないのですが、
さっきのように、考えたいのです!

「完全な盲目だった私が、あんな風に、
貢がせ、奪い、稼いでいたのは……。
将来、都和ちゃんたちを助けるためだった
んだ……」と。
そう考えれば、私は、楽になれるのでした。



以上が、私の、反省と、そのお金に対する
考えです。
それで、話を戻します。
『金庫部屋』で、私は、思ったのです。
「これ以上の使い方は、ないじゃない」。


人様に褒められる仕方で得たお金では
ない、確かに…。
でも、完全な犯罪行為、たとえば、強盗や
横領とかで、得たものでもない。
明かに、違法性はないのです。
このお金について暴露したからと言って、
非難はされど、警察沙汰には、絶対になり
えません。

だからこそ、得た方法は置いておいて、
大事なのは、どう使うかだと……。
そう、そして、それはただ一つ。
『危機に瀕する女性と、その赤ちゃんを
助け出すため』です!



「お金は、死ぬ時には、1円も持って
行けないし、後悔しても何も変わらない
んだから。
このお金を今最大限に、良いことに使えば
良いんだよね。
そうだ!私が、あの頃、あんなことして
いたのも、この時のためだったのかも」。
あの時、あの『金庫部屋』で、このように、
一人で言ったのを、今でも思い出します
……。
どこか、スッキリした気分になっていました
……。











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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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