第十六章 ⑲

文字数 2,766文字

ブライダル事業部のスタイリストさん
である上平さんを除く『柳沼真子着せ替え
チーム』、いえ、もう、『栄真子着せ替え
チーム』ですね。
そのチームの3人に周りを固められ、
とうとう、私は、披露宴会場の扉の
真ん前に、至ってしまいました!

もう、ドキドキ、バクバクです。
それから、スース―か……。
そう。あまりにも、着た……じゃなく、
あくまでも、『着せられた』ですけど…。
その着せられたチアの衣装の短い、
つまり、丈が極度に、そうです、
過激と言っても良いほど、短い!!
それまで、全身、純白のドレスとかで
覆われていたのに、何ていうこと!?


しかし、もうすでに、賽は投げられた
のです。
よく映画とかで、花嫁が純白のドレス
姿で、式場から逃走するようなシーン
がありますけど、さすがに、チアの
衣装で外に逃げるわけにもいきません。
それこそ、メチャクチャ恥ずかしすぎる
ことです。
あんな過激な衣装で……。
人生が終わるでしょうし、同時に、
すぐに110番されて終わりでしょう。
ってか、その前に、現役刑事を含む
3名の『監視役』がいるので、ホテル
から逃げるのは、実質的に無理……。


とか言うことを、ほんの少しの間、
私は、扉の前で考えていました。

3人は、タイミングを見計らって
いるようでした。

扉の中が、どうなっているのか
私は、全く知りませんでしたが、
熱気のようなものを感じました。


「じゃ、行きましょうか!
真子さん、大丈夫ですか?」と、
やよいちゃんが、やっと、普段の
やよいちゃんらしく、優しく、
訊いてくれました。

正直、「やっぱり、上着とか着て
良いかな?」と言いたかったけれど、
さすがに、即却下されると分かります
から、もう言うしかありません。
「大丈夫……」と。

で、何とか、答えました。
自分でも、声が震えているのが分かり
ましたけどね。


そして……。
居村さんとみどりちゃんが、せーので、
扉をオープンしてくれました。

押し寄せてくる、スゴイ熱気。
それから、チアのユニフォーム姿に
なった私への大コールと耳が痛くなる
ほどの拍手の嵐。
あと、「芸能人ってこんな感じなんだ
ろうなぁ」って思うレベルの、
フラッシュの嵐、嵐、嵐……!!



こしまちゃんの声、いえ、叫び、いや、
絶叫が飛び込んできます。
「……の登場で~すッ!!
さらに、大きな拍手でお迎え
くださ~~~いッッ!!」。


恥ずかしいというか、戸惑いというか、
もう、その時には、興奮しかなかった
かな……。
私は、震えながら1歩を踏み出し、
やよいちゃんと一緒に、メインテーブル
の方、つまり、こしまちゃんのところに
向かうのですが……。

披露宴会場内の列席者の全員が、
カメラになったんじゃないかと言う位の
フラッシュの連続攻撃。
目が……!!
しかも、演出効果なんだか知らない
けれど、会場内が暗くなってて、
それだけじゃなく、スポットライト的な
ものがパッパッと……。


で、最初は、そのフラッシュの嵐と、
丈の短さからくる心許なさとかから、
俯いて歩いていたのです。
やよいちゃんの横を……。
だけど、やよいちゃんから、
「真子さん。顔上げてください」と
言われて。
ハッとしました。
注意されちゃった……って思いましたね。
でも、やよいちゃんは、続けて、
こう言ってくれたのです。
「見てみてください。スゴイことに
なってますよ」と。


顔を上げ、フラッシュ攻撃の中ですが、
目を開けてみました。
薄目でしか開かないけれど……。





そして、私は、目を疑いました!
目の前にある『事実』に。
そう。つまり、こしまちゃんの周囲に
広がっていた『驚愕の現実』に……!!



皆さん。
こしまちゃんの周りには…。
そうです。こしまちゃんを中心にして、
なんと、20人、いや30人くらいの女の子
たちがズラッと並んでいたのです!!!

みんな、私と同じ格好……。
いや、言い方が、おかしいですね。
私が、彼女たちと同じ格好、衣装に
してもらったのですから、『着せ替え
チーム』の手で……。

つまりです。
私が、新婦控室に連行され、新婦控室で
剥ぎ取られ、毟り取られ、『着せ替え人形』
みたいになっている間に……。
なんと!
披露宴会場に、明慈大学チアリーディング部
の全員が集結していたのです!!!
やよいちゃんを除く、全員が……。
しかも、全員、明慈のチアユニフォーム姿
で…………!!


そのチアリーダー達がそろって、ポンポンを
振って、私を迎えてくれているのです!
みんな最高のスマイルで……。

夢じゃないか……って一瞬思いましたね。
歩きながら、目を閉じて、また、開けて
みました。
やはり、夢じゃありません。

やよいちゃんに、そっと訊いてみます。
「何で……。どうなってるの、これ」。
「みんなも真子さんの結婚をお祝い
したいって、来てくれたんです。それに、
うちら2人だけより、全員でやった方が、
盛り上がりますから……」。


嬉しくて、嬉しくて、そして、やよい
ちゃんとこしまちゃんの優しさに感動して
涙が出ちゃいましたね。
やよいちゃんに、「ありがとう」って言う
のが精一杯でした。


そのまま、私たちは、大歓声とフラッシュの
嵐を全身で浴びながら進んで、とうとう、
こしまちゃんの前に……。
そうしたら、一斉に、明慈のチアリーダー
全員がワーッと拍手をしてくれて……。
最高―――の気分でした!!


やよいちゃんが、「さッ、ここに」と、
私を、こしまちゃんの横に立たせてくれ
ました。
こしまちゃんともう1人のチアリーダーの
女の子に挟まれる私。
もう1人の子は、私より身長が高くて、
スラッとしてて、まさにスレンダーで、
美人!!
小声で、「おめでとうございます!
すごい、似合ってます」と言ってくれ
ましたね。
嬉しかったなぁ……。


で、やよいちゃんも所定の位置についた
ようで、こしまちゃんがマイクを手に、
喋り出しました。
「皆様!!本日の花嫁である栄真子を
含む、私達、明慈大学チアリーディング部
の32名です!!
本日は、ご両家の皆様、本当におめでとう
ございます!」。
で、一斉に、チアリーダーたちがバッと
お辞儀。
慌てて、私も……。


続けて、こしまちゃんが、
「これより、まずは、新郎新婦に贈る
ダンスを披露させていただきます。
そして、その後に、新婦である栄真子も
含めた32人全員で、明慈校歌『雲上を
志し』を斉唱させていただきますので、
その際には、皆様、ご起立の上、また、
腕を上下に振り、ご一緒ください!」。

オォォォォと地鳴りのような歓声。
そして、『私たちチアリーダー』に
贈られる拍手拍手拍手拍手。

「じゃあ。真子さんは、
メインテーブルに」と、こしまちゃんが
私に耳打ちしてくれたので私は移動
します。






で、とうとうチアダンスが始まり
ました!


……、まぁ、それはそれは、非常に、
本当に、『夢のような時間』でした。
感想から最初に言えば……。
なぜなら……。
現役女子大生・チアリーダー31人が、
私たち夫婦を祝うために、踊ってくれた
のですから!!







(著作権は、篠原元にあります)
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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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