第十七章 ③

文字数 2,661文字

夫になったばかりの身である、義時は、
『恩人』、そして、幼馴染でもある女性
不動みどりのことを考えていた……。
横には、結婚したばかりの妻、真子が
眠っている…。

別に、変な意味で、考えたわけではない。
正直、彼女―不動みどり―は幼馴染で
同じ保育園、同じ小学校。家族ぐるみの
付き合いだった、栄家と葦田家は。
それこそ、小さなころは、兄妹のように
遊んでいた。
ってこともあって、本当に、本当に、
恋愛感情はゼロだし、正直、言ったら、
『柔道の技』で背負い投げされるだろう
けれど、『女』として見たことがない
……。本当、絶対、言えないが……、
怖くて。
まぁ、そんな【腐れ縁】みたいなもん
だから、披露宴の『新郎新婦紹介』でも
余計なことをアイツは喋りやがって……!


でも……。
と、義時は思った。
「アイツのおかげで、楽になれたし。
そもそも、アイツがいなかったら、
こうやって結婚できてないわけだ
……」

素直に本人に伝えることはできない
けれど、義時は、みどりに感謝していたし、
ベッドに横になりながらも、改めて、
彼女の存在に感謝していた。






実は…。真子と正式に交際を始めて、
すぐに、不動みどりに『呼び出し』を
くらった。
正直、忙しかったし、それに、彼女と
2人だけで会って、それを後日、真子に
知られたら、それこそ『問題』になる
と思った。
だから、断った……、いや、断ろうと
した。
だが、気が強く、昔から『その場を仕切り
たがる女子』だった不動みどりは、
「とにかくさ、来な!超大事な話がさ、
あるから。で、絶対にさ、真子ちゃんには
何も言わないで良いからさ!バレない
ように、来な!!」の一点張りだった。

昔と全然変わらないなぁと思って、
電話を切ったのを思い出す。
とにかく、行かないわけにはいかない。
行かないで、変にキレられて、真子に
あることないこと言われてはたまらない
から……。


東京と千葉の中間地点ではなく、
「そっちは家の仕事、こっちはさ公務員。
で、こっちはさ忙しすぎて、署から離れ
られないからさ、こっちに来てッ!」と、
完全に彼女寄り、つまり、彼女の職場
―警察署―近くのカフェを指定された。
こっちは、千葉のいすみから電車を何度も
乗り換えてだ……。
それに、こっちだって、多忙だと言うのに。
だから、電車の中で、「大事な話じゃ
なかったら…。くだらん話だったら、
一発殴ってやろ」と思った。
でも、その場で、現行犯逮捕されて、
そのまま近くの警察署に連行されたら
困るので、やめることにした。
「アイツなら、やりかねん……」と思う。

で、そのカフェに、約束の10分前に
着いたら。
もう、不動が、店の前で待っていた。
それは、意外だった。
アイツのことだから、こっちを待たす
んじゃないかと、考えていたから。



店の中に入った。
アイツは普段と何か『違う』感じがした。
そう。何か言いづらいことを言おうとして
いるような感じ。
それは、当たり、だった。
注文したコーヒーが出てきて、2人で
飲んで…。
で、不動が、話し出したんだ。
「あのさ……。二人が、付き合い出した
ようだからさ、言うんだけどさ……。
でもさ、絶対に、これさ、私が話したって
真子ちゃんに言わないでほしい」
いつになく真面目で、硬い表情だった。

一瞬、身構えたが……。
不動の話を聞き終えて、荷が下りた
ような感じが、した。
それに、不動は、「あッ!もうこんな時間
かぁ!じゃ、急ぐからさ!あ、会計は、
こっちでやっとくからさ……」と言って、
レジの方に向かって行ったんだよな。
礼を言いそびれた。
だが、正直、感謝だった。
そして、「案外良いヤツだな」と見直した。


その日、不動は、2つのことを話した。
1つは、「絶対に真子ちゃんを幸せに
すんだよ」、「泣かすなよ!」という
感じのこと。
ちょっと、脅された感もあったが、
まぁ、それは、『親友想い』と言う
ことにしておこう。
そして、もう1つ。
アイツは伝えてくれた。
「あのね。真子ちゃんがさ、夜の
そういう仕事してたってさ、聞いてる
でしょ。
だけどさ、真子ちゃんさ、これは、
私の勘なんだけどね、多分、アンタに
詳しい内容は言ってないと思うんだ。
あの子……、自己弁護とか言い訳、
きらいな子だからさ、昔から…。
だからさ、私、アンタには言っておいた
方が良いと思ってね。
男の人って、そういうのさ気にするから」

で、アイツは教えてくれた。
つまり、『夜の仕事』をしていたけれど
キャバクラやスナックとかであって、
決して、ソープとかじゃないんだよ、と。


何で呼んでくれたのか、何で話して
くれたのか……。
幼馴染の気持ちが、よく分かった。
最後、刑事のアイツは笑って言った。
「そんなんだからさ、真子ちゃん、
本当に純粋で繊細な子だから!
絶対にさ、浮気したり、泣かしたり
しちゃダメだからね!
変なことしたらさ、逮捕するよ!」


アイツがいなくなった後。
思わず、ため息が……。

たとえ、どんなに多くの男と関係を
持っていたとしても……、もう、そんなの
どうでも良くなっていたが。
と言うより、一時期、苦しみまくって
いたけど、それは、もう解決していたが
……。
が、しかし!
スッキリした。
重要なことを聞けて。
で、ため息が出たのだった……。






義時は、目を開けて、隣の真子を
また見つめる。
ぐっすり眠っている。
キレイなうなじ……。

「本当に、初めてだったんだよな」
感慨深い。
涙が出るほど、嬉しい。

そう。
不動みどりに、教えてもらって、
スッキリした後のこと。
そういうこと―金をもらって男に
身体を売る―は、していなかったと
分かってスッキリした。
さらに、彼女への愛が揺るぎないものに
なっていく日増しに…。
だが、時に、彼女と出かけると。
他の奴らが、彼女に視線を……。
「美人だからしょうがない」と割り切れる
ほど、器は大きくない。
で、結構、どこででも、彼女は、男達の
視線の的となるので……。

正直、考えてしまうことが、なくも
なかった。
「ウリとかはしていなかったとしても、
こんなに美人なんだから、かなりの
人数とつきあったりしていたのでは
……?」と。

そんなこと考えても無意味だとは
分かっていた。
だが、美しすぎる、そして、愛する
彼女を見ていると、そして、彼女の
ことを想っていると、どうしても、
そういうことも考えてしまう。
そして、『当時交際していた野郎と
あんなことやこんなことをしている
彼女』の姿を……!!
「俺が見たこともない裸の姿を
見せたのかなぁ」とか「その口で男のを
舐めてやっていたのか?!」と悶え苦しみ、
葛藤した。
今、思えば、『愛ゆえの独占欲』と
『どうしようも出来ない過去の出来事に
関する怒り、口惜しさ』か……。












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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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