第十六章 ⑬

文字数 2,106文字

その『既婚者オンリー』の丸テーブル。
新郎側と新婦側の招待客がゴチャゴチャ
だけれど、やっぱり、気品があるように、
高砂の真子からは、見えた。


カノやお初のテーブルを、例えて言えば、
『合コンみたい』とするなら、みどりたち
のテーブルは、『社交場みたい』。
大人の雰囲気だ……。
自分は100%あっちの方が良い、座るなら
あっちが良いと、思う。


同じ既婚者である招待客たちと、
『品ある歓談』を楽しんでいる、
みどりの背を見つめながら、
真子は、心の内で、言った。
「みどりちゃん。ありがとう、そして、
お疲れ様……」。




そう、みどりは、この日、超・大役を
任されていた……、新郎と新婦から。
それは、本来、仲人―今回の場合なら
プロの司会者である女子アナの村山
美衛―が、するはずの『新郎新婦紹介』
という大役の大役!!


正直、新郎新婦から頼まれた日には、
即刻、即答で辞退した!
でも、新婦に真剣な眼差しで、
「私たち2人の小学校時代からの親友の
みどりちゃんにお願いしたいの!」と
言われちゃ、断れない!

けど……。
後日、新郎から、「ちなみに、司会は、
うちの親父の伝手で、フリーアナウンサー
がやるから」と聞いた。
で、よく聞いてみると、自分でも名前の
知っている、あの女子アナ……。
一応、ネットで調べてみたけど、
間違いない。
電撃結婚で騒がれ、その後、妊娠の
ニュースが流れて、それからは、あまり
表舞台に出て来なくなったし、名前も
聞かなくなってたけれど……、
そうか、フリーになってたんだ……。

で、すぐに、思った。
「じゃあ、なおさら、そのプロに
やってもらいなよ!」。
すぐに、新郎に電話をかけたけど、
「まぁまぁ」で、相手にしてくれない。
もう不動で決まったからと……。
「いや無理、本当ムリ!」と叫んで、
電話を切って、新郎よりマトモで、
話の通じる新婦にかけた。
でも、「『新郎新婦紹介』だけは、
みどりちゃん、お願い!」と、
辞退を認めてくれない新婦。

もう引けないのか……。
最初から引き受けなければ良かった、
と思うけど、もう遅い。



で、結婚披露宴当日。
滅茶苦茶緊張した。
プロの村山美衛に紹介されて、前に
進む。
披露宴会場のすべての視線が、自分に
集中する。
あぁ……。
「しかも……。何で、プロの女子アナが
いるのに、その人の前で、私が、やんない
といけないの…」。
緊張度MAXだった。


だけど……。
話し出すと、あっという間だった。
何だか、自分が話しているんじゃない
ような不思議な感じ、高揚感。

で、何度も何度も、時には非番の夫に
相手してもらって『練習』した時よりも
ウマくいってるな……、と自分でも
思っていた、みんなの視線を浴びながら。
途中まで、は…。





真子は、みどりが話してくれている
『自分たち夫婦の紹介』に聞き入って
いた。
「上手だなぁ。やっぱり、みどりちゃんに
頼んで正解だった」と思った。
前半は、当然、新郎の紹介だけど、
笑いも取れてるし、良い感じ!
で、ドキドキしてくる。
自分のことは、どう紹介してくれるん
だろう?



新郎は、『ガキの頃からの幼馴染』が、
自分の幼少時代のヒミツを暴露し、
招待客一同から笑いをとっているのを
見て、「何で、それを言う!ってか、
お前、それ知ってたんか!?」と思った。
後で問い詰めてやろう……と。
だけど、隣の新婦も笑っているのを見て、
その笑顔の美しさゆえ、考えを改めた。
「ま、良いじゃないか。笑わせてくれて
んだから」と。
うん、結構話すの慣れてんなアイツ…。

だが、新婦の紹介に移ってすぐに、
幼馴染で、今は刑事である不動みどりに
変化が見られた。
感情がこもっている……、いや、こもり
すぎている?

そして、ハラハラしていたけれど、
やはり、不動は、泣き出してしまった。
「おいおい、ここで、泣かんでくれ」と
思う。
だが、隣を見ると、新婦までも泣いて
いる。

みどりは……。
練習していなかった、予定になかった
『内容』を、何故なのか自分でも分から
ないけれど、話し出してしまっていた。
そう。
あの、小3の時の事件のことを…。
そのうち、結婚披露宴の『新郎新婦紹介』
なのに、泣き出してしまった。
耐えようとしても、止めようとしても、
もう、どうにもならない。
そして、逃げるわけにもいかないので、
必死に、続けた……。






栄家と柳沼家の披露宴会場。
泣きながら語る、新郎新婦の小学時代
からの親友の女性。
それに、聞き入る招待客…。
つられて泣いている新婦。
そして、感情移入して泣き出すご婦人方。
男性陣の中にもハンカチを手にする
招待客がチラホラ見える。
居村も必死に耐えたが……我慢できずに、
そっと後ろを向いて、ハンカチで顔を
拭う。




それは、長すぎる『新郎新婦紹介』だった。
プロの司会である村山美衛は、「常識的
ではないな」と聞きながら思った。
でも、長いとは思わなかった。
時間を忘れていた。
そして、それは、若い招待客たちも、
それから、人生で何度も披露宴に出席して
きた老年の招待客たちも同じだった。

だから、その『新郎新婦紹介』が
結ばれた時、披露宴会場全体から、
大きな大きな大きな【感動の拍手】が、
新郎新婦と、その親友の女性に
送られた。
拍手を送る全ての目に、光るものが
あった…。
居村の目にも、村山美衛の目にも……。










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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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