第十七章 ㉝

文字数 1,974文字

彼女―婚約者―から、結婚前の大事な時に、
『ものぐさ、自分勝手、自分本位、我儘』
と思われてしまっている、彼氏は……。

彼の株が下がらないために、付け加える
としたら、別に、ものぐさで、自分勝手で、
我儘なヤツ…ではない。
 いろいろな思い出があり、いろいろな
考えがあり、いろいろな彼女に対する
配慮もあるのである、彼なりに。

株を上げようとして書くわけじゃないが、
優しく、年の割に、人を思いやることが
でき、そして、また、彼女と同じく、
『頑固者』なところもある……。


で、重要なのは。
真子の方は、母子家庭で育ち、それまで
一度も海外に出かけたことがない。
つまり、日本から外へ出たことがない。
だから、海外に憧れがある……。

でも、一方の義時の方は。
小さいころから家族で色々なところに
出かけた。
まぁ、世間一般でいうリッチな……、
いや、かなりの資産家の家に生まれた
から。
で、海外にも小学生時代に行ったことが
ある。
……だけど。
そこで、その某国で、忘れられない体験を
してしまって……。
それ以来、海外旅行が大嫌いになった、
彼は……。
だから、家族―父、母、兄―が、海外旅行に
行くという時も、彼は、母方の祖父母宅に
もしくは父方の祖父のところに残った。
それほど、小学生の義時にとって
イヤで、最悪な思い出となったのだった、
その出来事は……。



 義時は、今でも、思い出せる。
…まだ、小学生低学年の時だった。
だから、もちろん、9歳年上の兄も
まだ結婚していなくて、たしか、中学3年か
高校1年位……だったはず。
家族4人で、義時にとっては初めての
海外旅行に、成田から出かけた。


成田から確か、韓国のどっかの空港に
まず行って、そこから、アジアの東の果ての
某国に乗り継いだ。
合計十数時間の空の旅に、まだ幼い自分は
興奮し通しだった。
家族は眠っていたけれど、ずっと、
起きっぱなしで、飛行機の窓から空を
眺めたり映画を見たり……。
それに、日本語を話せる美人のオバさん
―客室乗務員―も優しくしてくれて、色々と
持ってきてくれたり、話しかけたりして
くれた。


某国の空港に降り立った時も、興奮の
MAXだった。
日本の空港―と言っても成田と羽田しか
知らないけれど―とは、違う雰囲気。

 約1週間の旅だった。
初めての海外、不思議な非日常感、
慣れない食事スタイルと味。
困惑しながらも、楽しんだし、良い体験
の連続だった。
自分の『世界観』が広がっていく……。


その国の首都に泊まった。
今なら分かるが、紛争と政治対立の
世界的中心地。
だが、そんなこと、子どもだから分かる
わけがない。
ただただ、古代にタイムスリップした
ような街並みをワクワクしながら歩いた。
夕方…。
それは、夕陽で黄金に輝く最高の、子ども
ながらに言葉を失う景色に圧倒された。
田舎の方に、バスに乗って出かけて、
山を歩いたり、観光船で湖を遊覧した。
 カモメがエサに飛びついてきて、
少し怖かった。
それから、高級リゾート地にも父が
連れて行ってくれた。
日本には、ない、海のリゾート。
日本では、絶対に体験できない、
海遊びをした。
まだ若かった母も、体全体に泥を塗り、
満足気な表情を浮かべてた。

明後日には、帰国という日の夜。
両親が別室で寝ている。
ウトウトしていた自分は、兄につつかれ、
2人して両親に無断で、ホテルを
抜け出した。
9歳年上の兄から、
「夜の町を探検しようぜ」と、
言われたのだった。
怖かったけど、なんか、背徳感的なものも
あって、興奮して、コッソリと、父と母に
バレないように、部屋を出た……。
 
で、案の定……。
途中、半迷子的状態になって。
しかも、国際的重要地区で、一般人は立入
禁止になってる区域に、2人は迷い込んで
しまった、しかも、真夜中……。
 人生初めて、いや、人生であれが最初で
最後だろうが、サーチライトで上から当然
照らされて。
それから……。
結局、警察に拘束されかけた。
あの時は、本当に、足がガタガタ震えた。
外国語―その国の言葉も英語―も分かんない
のに、ギャーギャーまくしたてられて、
しかも、銃を持った強面たちが駆けつけて
来て。
兄が、必死に英語で話したり、パスポートや
泊まってるホテルの案内を見せて……。
やっと、解放されたけど。


ショッキングだった。
衝撃的だった。
トラウマになった。
銃を持った大男―女性もいたけど―に
囲まれ、おそらく警察犬に睨まれ、
わけわからない言語で詰問され……。
半泣きになりながら、ホテルに帰った。
で、結果、当然ながら、両親に、数時間
説教された。
父からは、2人ともビンタを喰らったなぁ。


あの時、誓った。
もう、言葉がわかんない海外、外国は
ゴメンだ!!
子ども心に、決めたんだ。



もう一つ。
義時は、海外旅行に行くのが嫌で嫌で
しょうがない人間であると同時に、
どうしても九州に行きたかった。
でも、その理由を、そのまま真子には
言わない……。
彼女を気遣って。











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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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