第十五章 ⑰
文字数 3,677文字
出て、みんなのところへ戻ると、
本当にどんな経緯があったのか今でも
不明ですが、こしまちゃんがしょぼんと
落ち込んだ感じで座っています。
で、隣のみどりちゃんがバッグの中を
ゴソゴソと……。
「どうしたんだろう?」と思いながら
入っていくと、すぐに、みどりちゃんが、
話しかけてきました。
「あッ!真子ちゃんさ……。
ゴメンね。
さっき、こしまに訊いたら、こいつさ、
一番高いの、しかもトッピング付きで、
真子ちゃんにさ、頼んだって言うから
さ……。
本当さ、子どもみたいで……、ゴメン。
悪いから、私が、半額出すよ」。
財布を手にしながら言う、みどりちゃん。
隣では、こしまちゃんが、
「あの…。すみません。興奮して、
ここぞとばかりに……。
あの、結婚式の前で色々大変なのに
……」と言いながら謝ってくれて
いるのですが……。
私としては、心外でした!
全然、何とも思わなかったし、
思っていなかったし、何より、逆に、
遠慮なく高いのを選んでくれたのが、
嬉しかったのです。
こういう場面で遠慮されるとか、一番
安いのを選ばれる方が、逆にイヤです。
でも、社会人&姉としてのみどりちゃん
の心遣い、品位、大人の心情も理解
できます。
「ハハーン。私が電話中に、多分、
こしまちゃんは、みどりちゃんに
怒られたんだろうなぁ。で、今回も、
大人のみどりちゃんが勝ったんだろう
なぁ」と推理。
だから、私は、みどりちゃんとこしま
ちゃんの両方の目を見つめながら
答えました。
「うんうん。こしまちゃん、大丈夫よ。
私ね、遠慮しないで、好きなのを
選んでもらえて、逆に嬉しかったん
だから……。
あと、みどりちゃん。
ありがとう……。
色々、心配かけたり、気を遣わせて
ゴメンね。
でも、本当、大丈夫だから!
だって、これでも、ちゃんとバイト
したりしてお金は入って来てるん
だからね。
だから、今日は、楽しも!」。
私の本音です。
社会人のみどりちゃんにも、
大学生のこしまちゃんにも、
遠慮してもらいたくなかったのです。
もちろん、私たちの会話を聞いている
やよいちゃんにも……。
で、みどりちゃんは、
「そっか……。ありがとう。
じゃあさ、遠慮なくさせもらうね、
今日はさ。
それでさ、今度は、2人だけでさ、女子会
しよ。そん時は、おごらせてね」と、
優しい笑顔を見せて言ってくれました。
一方、妹のこしまちゃんは、
一瞬、明らかにホッとした表情を見せ
ましたが、すぐに、お姉ちゃんの方を
向いて、何か言いたそうな感じにして
いました。
何が言いたいのか、私なりに想像は
できました。
おそらく、「お姉ちゃん!
やっぱり、こう言ってくれたじゃん!
お姉ちゃんが、変に気を遣ってる
だけだよ!ウザい!!」と、でしょう
ね。
でも、私とみどりちゃんが良い感じに
話してたので、自重してくれたよう
でした。
それで、ピザが届くまでは、どうしよう
かとなったんです。
1日の激務を終えて駆けつけてくれた
刑事さんは、テレビでも見ながら
ゆっくりしてようと言ったものですが、
若い2人は、「ピザまで頼んでもらった
んだから、もっとやんないと!」と、
作業を再開してくれたのです。
だから、私も、一緒にやることにしま
した。
女子大生こしまちゃんとやよいちゃんは
続きの作業をしていましたので、
私も、さっきの続きを。
作業しながら、こしまちゃんが、
「ちょっと!
そこでオッサンみたいに寛いでる方!
この場にいて、自分以外のみんなが
働いてるっていうのに、何とも思わない
んですかぁ?」と言い放ちますが、
みどりちゃんは、結局、動きません
でした。
「あぁ。あんなのが姉で恥ずかしいわ」
と、こしまちゃんは、呟いていましたが、
本当は、お姉ちゃんが大好きなのが
見え見えです。
一瞬、私とやよいちゃんの目が合います。
やよいちゃんも笑いをこらえています。
私も同じです……。
何だかんだ言って、仲が良く、似た者同士
の姉妹です、本当。
そんなこんなで、『ピザ待ち』の時間は
あっという間に過ぎました。
で、チャイムが……。
一番最初に、その音に反応したのは、
片手にビール、片手にリモコンで、テレビ
を観ていた、みどりちゃんでした。
私は、そんなみどりちゃんを見ながら
「リラックスしきってんなぁ。
普段、家では、奥さんやってて、
職場じゃ、セクハラとかイビリとか
いっぱいだって言ってたもんなぁ。
旦那さんも上司もいなくて、息抜けて
んだなぁ……」と思っていたのです。
が、チャイムが鳴った瞬間のあの不動
みどりちゃんの動きはスゴカッタです。
まさに、犯人逮捕の一瞬のチャンスを
モノにする警官……!
ビール缶もリモコンも、バッと床に置き、
シュっと忍者のように立ち上がり、
パッと服装を確認し、直すべきとこは
直して、「はあ~い」と玄関の方へ
駆けて行ったのです。
その時間、ものの2秒くらいでしたかね。
こしまちゃんが、ボソッと言ってました。
「なんだ。お姉ちゃん、一番、元気
じゃん。
なら、手伝ってくれればよかったのに」。
玄関の扉を開ける音……。
そして、みどりちゃんと配達の人の声が
聞こえてきます。
で、ハッとしました。
お金……!
急いで、私も、玄関へ向かいます。
財布を持って……。
玄関口で、私たち2人と同年代位の
カッコイイ男性の配達員にお金を渡し、
みどりちゃんが1枚、私が1枚持って、
女子大生2人が待っているとこに
戻ります。
まだ、温かいピザ……。
チーズの香ばしい匂い……。
で、途中、みどりちゃんが振り返り、
言うのです。
何か、ニヤニヤしてるので、何を言いだす
のかと思いきや、
「ねぇ。さっきの人さ、イケメンだった
よね、かなりさぁ!!
何かさ、目の保養になったわ!」。
言い返してやりました。
「みどりちゃん!既婚者でしょ。
それに、こしまちゃんに聞かれたら
アウトだよ!?」。
「そうだ、そうだ!アブナイ。
ま、いないからさ、セーフ!」。
そんな感じのやりとりをしながら、
作業してたとこに戻ると、もう、
テーブルの上は、すっかり片付いて
いました。
いつでも、パーティがスタートできる
状態です。
こしまちゃんは、テーブルの上を
ティッシュで拭いてくれていました。
やよいちゃんは、作業に使っていた
ものを整理整頓……。
本当に頼もしいですね。
あと、思いました。
「やっぱり女の子だなぁ。
良い奥さんになるだろうなぁ」と。
それと、「もう、彼氏とかいるのかな」
と一瞬思ったので、あとで聞くぞと
決めました。
数分後……。
テーブルの上には、Lサイズのピザが2枚。
まだ、熱々だってことが、一目で分かり
ます。
それから、大皿の回鍋肉と麻婆豆腐。
あと、家主ではない、みどりちゃんが、
勝手に、冷蔵庫から、「これも、ツマミに
なるねぇ」と出して、持ってきた、
複数品が……(笑)。
もちろん、缶ビールやワインのボトルも
たくさん!
それらを見つめて言っちゃいました、
思わず。
「コレさ、麻婆豆腐も回鍋肉も作り
すぎちゃったね……。
ピザ2枚もあるし、女子4人で、これって
多すぎるよねぇ。
残っちゃうなぁ」と。
みどりちゃんも同感だったみたいで、
「そうだねぇ。
さすがにさ、これはさ……」と。
でも、やよいちゃんが、「えッ?」と
驚いたような声を上げます。
思わず、やよいちゃんの方を見る私と
みどりちゃん。
すると、やよいちゃんは、心底驚いた
ような表情をしています。
「どうしたの?」と、私が不思議がり
ながら訊くと、逆に、不思議がる表情で
やよいちゃんが質問返ししてきました。
「4人で食べるんですよね?
これで、ちょうど良いんじゃないです
か?」と。
そして、加勢するこしまちゃん。
「そうだよね?!
私も、そう思った!
ってかさ、もしかしたら、ギリギリ
足りない位かもね、これ」と。
いやぁ、あの時は、本当に、
ジェネレーションギャップって言う
んでしょうか……、とにかく、
『年齢の差』を意識させられちゃい
ましたね。
私とみどりちゃんは……。
私とみどりちゃんも、まだまだ20代
半ばです!
でも、「量多いなぁ」、
「脂っこいなぁ」、
「全部食べたら、翌日、胃に来るな」と
思ってしまっていたのです。
でも、女子大生2人は、全然違う感想。
同じものを、同じテーブルの上を見て
いるのに、感じ方は違う……。
感想が、異なる……。
これが、本当の、『年齢の差』って
やつなんですね。
テレビとかで聞いたことはあったけど、
まさか、自分たちが実体験するとは!?
何か、自分たちの年齢を、つまり、
「若い子とは違うんだなぁ」、「私たちも、
もう20代半ばだもんなぁ」と突き付けら
れた感もありました……。
まぁ、それは、それで良いです!
私も、みどりちゃんも、まだ若いんです!
まだオールだってできる……はず、です。
多分……。
で、若い女子4人で、もう1度、乾杯
しました。
それで、女子会パーティがスタート!
楽しい夜の始まりです。
男は一人もいない!
異性の目を意識する必要も、サラダの
取り分け誰がする……とか悩む必要も
皆無です。
ただただ、女子トークで盛り上がり、
食べて、飲むだけ……。
逆に言えば、男子には見せたくない、
見られちゃいけない、そして、見て
しまった男子は、『理想の女性像』
が崩壊する……(笑)。
そんな女子だけのナイトなのです!!
(著作権は、篠原元にあります)