第十五章 ②
文字数 2,981文字
真子に、ここからは話してもらう~
(※序章①、②~、および、第1章②と
時間枠が一致するので、交互に読まれる
のを勧める)
私は、一月の下旬頃から、綾部さん母娘が
経営するスーパーの1つで、働かせて
もらえることになりました。
また、そのスーパーで一緒になった高3の
女の子・カノの紹介で、料理教室に通い始め
ました。
そこで、結婚して、奥さんになった後のため
の【花嫁修業】もスタートしたのです!
今、思えば、本当に、カノに誘ってもらえて
良かったです!!
そうじゃなければ、料理教室の『り』の字も
思いつかずに、ただただ、式の準備ばかりに
没頭し、結婚後、私たち夫婦の食卓には
レンジでチンした【冷凍物】ばかりになって
いたかもしれません。
そして、スーパーで働いている時間、私は
幸せを感じていました。
お客様と接し、また店長、先輩、同僚と
一緒に汗を流す中で、思えるんです。
「私、ちゃんと、働いているんだなぁ」と。
それが、嬉しいのです、本当に。
それから、ちゃんと、雪子おばさんにも
堂々と、気後れすることなく、電話で報告
することができました。
「結婚式までね、お金を貯めるためにも、
スーパーで働き出したんだ!」と。
雪子おばさんは、喜んでくれていました。
何より、「良かったねぇ。お昼の良い仕事
が見つかって、本当、良かったわねぇ!」
と言ってくれました。
今まで、どんなに、夜の仕事のことで、
松山で一人暮らしをする雪子おばさんに
心配をかけたのか……。
胸が痛くなりました。
でも、その分、「これからは、孝行して、
色々としてあげよう!」と思いましたし、
今でも、そう思っています。
それで、毎日、電話をするか、メールを
送ってもいるんです。
雪子おばさんと電話しながら、私は、
幸せを噛みしめています、ヒシヒシと…。
家族に心配をかけない、ちゃんと、内容を
堂々と伝えることのできる職場、お仕事が
与えられたということに……。
あとですね、私の毎日働く原動力は、
もちろん、結婚式の資金の足し&式後の
生活のためと言うことでもありましたが、
何より【感謝と恩返し】でもありました。
こんな私のためバイト先を紹介してくれた
屋山社長夫妻、そして、短期で、しかも、
1日短時間しか働けないと分かっているのに
受け容れてくださった綾部オーナーと夕子
店長への感謝!
少しでも恩返ししたい、という気持ちです!
【感謝と恩返し】のためにも必死に、
働かせてもらいました。
……それまでの私は、そうです、夜の店で
働いていた頃は、私の原動力は、恨み、
憎しみ、裁き、怒り、復讐心でした。
それらの【力】のおかげで、かなり、
良い線行っていたのも事実です。
憎しみの力、恨みの力、復讐心って、
スゴイ【力】を生み出すものなのです。
でも、どこか、苦しかった……。
いや、生きるのが辛かった、正直……。
だって、どこまで行っても、果てしが
ないのですから!
どんなに、稼いで、残高を増やしても
満足することがなかったし、どんなに
復讐してやっているつもりでも、
男性なんて、この地球上に、数え切れない
ほどいるのです!!
復讐の果てが、ないのです。
それとは違って、スーパーで働きだした
私には、確かな原動力もあったし、目標、
目的もありました。
いっつも、思ってましたね。
「しっかり働いて、お給料までもらえて、
本当に、私は、幸せだぁ!」って。
あと、そうだ。
スーパーで働き出して、カノの名前を憶え、
そのカノから料理教室に誘われ、スーパー
の後は料理教室という流れが出来出した頃
のことでした……。
私は、自分の変化に、気づいて、涙が出る
ほど嬉しかったです。
その日、私は、【生鮮の品出し】担当で
した。
それで、担当エリアを歩き、商品を補充して
いたんです。
補充しながらエリアを回ってると、
スイカが目に入ってきました!
あの野菜、果実的野菜のスイカです。
食べやすいサイズにカットされているスイカ
が、かわいい容器に入っています……。
実は、私は大好物だったのです、かつては。
超大好きでした、スイカ!
でも、小学三年生のあの日……。
なぜだか、母は、朝から、スイカを出して
くれました!!
私は、大好物がデザートとして出たので、
大興奮!!
そんな私に、母は言ったものです。
「ちゃんと、目の前のごはんを食べて
からよ、スイカは……」と。
そして、私は、登校前に、好物のスイカを
お腹いっぱい食べて、大満足したのでした…。
それで、スイカに夢中で、いつもより、
朝食に時間がかかってしまい、食べ終えた
私は、大急ぎで、学校に行く準備を始め
ました。
なぜって、スイカと同じくらい大好きだった
石出生男を待たせるわけにはいかなかった
からですね……。
私は、ちょっと、焦っていました。
だから、大人であり、知恵もある、母の忠告
「トイレいってから、出かけなさい」を
本当に鬱陶しく思い、わざと、それを無視
して、ランドセルを背負って出かけたの
でした…。
そして、その登校日に、私にどんなことが
降りかかったのかは…、皆さんが、ご存知の
とおりです……。
あの事件以降、幼き私は、スイカを
食べれなくなります。
いえ、自分に降りかかった事件&裏切り者の
石出生男&自分を追い掛け回した栄義時&
好きだったスイカが、見事にリンクして
しまい、私は、スイカを見ることさえイヤに
なってしまっていたのでした!!
それが、ずっと続きました。
ハッキリ言って、川崎のスーパーで働いて
いた頃も、夜の世界でバンバン儲けていた頃
も、あのスイカだけは心底イヤでした!!
あの事件を、あのクソ共を思い出してしまう
から……!!!
でも、その日、綾部さん母娘のスーパーで
働きながら、予期せずスイカを見てしまった
私は、不思議ですね……。
なんと、「美味しそうだなぁ!食べたいなぁ」
と考えていたのです、ごく自然に……。
それで、数秒後に、ハッと、気づきました。
「えッ!?何で!??
私、スイカ、絶対に食べれなくなったんじゃ
ないの!?
見るのも、ダメだったじゃん!!!」。
自分が変わった……。
トラウマ的なものを乗り越えたのを、自認
できました。
思えば、心が、あの頃より軽くなっている
ような感じが、します。
また、最盛期よりは、『負の感情』に
沈む時間が、圧倒的に減っているのに
気づきます。
「それ位、幸せなんだなぁ。
あと、朝は、式の準備とかしまくって、
お昼には忙しく働いて、それから料理も
勉強して、家帰っていろいろ片づけて、
夜バタンキューだから、沈んでる時間が
なくなったんだ!!」と分かりました。
我ながら、昔に比べたら、格段と健康的
な暮らしをしているのです…。
その日、私は、退店する前に、あのカット
スイカを従業員割引の価格で買いました。
もう、スイカを食べたくてしょうがなかった
からです。
で、それを、料理教室のみんな……、
カノやお初たちと一緒に食べたかった!
そして……!!
私は、大昔と言ってもいい位の昔に食べた
きりだったスイカを、久しぶりに口にした
のです、その夜!
久しぶりのスイカは……、本当に、
美味しかった!!
甘かったです!!
一口して、亡き母を思い出しました。
あの日、石出生男との待ち合わせ場所へ
急ごうとする私に、忠告してくれた母……。
懐かしくて、そして、母に会いたくて、
涙が流れてきます……、自然と……。
そんな私を見て、まだ女学生のお初と
カノがビックリして、ギョッとしていた
ものです…。
(著作権は、篠原元にあります)