第十七章②

文字数 3,334文字

ホテルの上層階の部屋の窓からは、
幕張の海、野球場を眺められる。
そして、今、その窓からは薄いカーテン越し
ではあるけれど、太陽の光がぼんやりと、
射し込んできている……。

義時は、ベッドの真横にある時計をそっと
見た。
まだ、時間は大丈夫だ。
隣で、再び、寝入った妻を起こさないで、
まだ、大丈夫。
スースーと、そして、時には、ガァーっ
と―女性がこんないびきをかくのかと
驚くほどの―いびきをかいて、熟睡して
いる妻。

愛おしくて愛おしくてしょうがない。
理性で、必死に自分を抑えつけなければ
全力で抱きしめたい。
キスしたい。
いや、それだけじゃ、絶対終わらない。
そういうことをしたら、もう歯止めが
きかなくなる、それが男なんだと……
分かっている。
だから、必死に、耐えた。

結婚2日目にして、新妻に嫌われたく
ないし、彼女からの評価を下げられたく
ないから。


で、「かわいいなぁ」、「寝顔も超素敵
だな!」の一心で、熟睡する妻の寝顔を
見入る。
ちょっと前までは……。
彼女が、自分の寝顔―途中から起きて
しまったけど何となくこのままの方が
良いと思ったので『眠っているフリ』
を続けていた―をじっと見ていた。
恥ずかしくなる、妻は、自分の寝顔を
ずっと見ていて…。

もう限界かと、言う頃に、やっと、
横になってくれて。
正直、助かったと思った。
そして、しばらくして、妻は寝息を…。

手が動きかける。
「この綺麗な髪に触れたい!」と
切に思う。
でも、それで起こしてしまったら。
この至福な時間が、崩れる。
それに、「えッ!?寝てるときに、
髪の毛を勝手に触ってくるの?」と
ドン引きされたくない。
だから、唇を噛み締めて我慢する。


でも……。
とにかく、全然、飽きない。
ずっと、彼女の寝顔を見ていたい……。
切に、そう思った。

それに、「昨日は、大変だったもんなぁ」
と思う。
一番緊張し、一番疲れたことだろう、花嫁
である彼女が。新郎である自分より、絶対。
それに、自分の関係者ばかりになって
しまった、三次会―夜遅くまで続いた―
でも、彼女は嫌な顔一つ見せず、ずっと、
笑顔で、みんなに接してくれて。
最後は、ほとんど、彼女に介抱されて部屋に
戻ったのを憶えている…。
そして、その後。
やっと…、彼女と結ばれることが、できた。


義時は、昨夜のこと、世で言う、『初夜』
のことを思い出し、カッとなる。
全身が熱くなる、特に下腹部が……。
「いかん、いかん!」と必死に抑える、
堪える。
彼女は、安心しきった表情で、ぐっすり
眠っているのだから、絶対に、変なコトは
できないし、しちゃいけないんダ!!


でも、本当に最高だったなぁ、と義時は
回想する。
恥ずかしがって、灯りを消したままにして
と言う彼女ではあったけど、一瞬だけ、
ベッドサイドの灯りをつけさせて
もらった、無言で、無断で。
「イヤッ!」と瞬時に消されたが、
美しい真っ白な肌が、ほんの一瞬だけど
見れた!
今も、思い出せる、鮮明に。
至福過ぎる。
あんな美しい肌の持ち主を自分が抱けた、
そして、これからも独占し続けれる
なんて!!
「絶対に、どんなヤツにも渡さん!」
義時は、決意した。

それに、今も聞こえてくるようだ…。
妻の、『初めての行為』の痛みに耐える
うめき声……。
正直、本当に、痛そうなので、それに、
爪で引っかかれたので、何度も、
「やめよう」と思ったし、無理しないで
良いよと、言ってみたけど……。
彼女は、こっちが切なくなる、こっちが
罪責感を抱いてしまうような、うめき声を
上げながら、首を横に振り続けた。
「良いの」、「大丈夫だから…」、
「このままやって……」と。

申し訳ないような気分―男のこっちだけ
最高で、果てそうになっているから―が
かなりあった。
そして、同時に、「そう言うなら。
とにかく、早く、ウマく挿入して
あげないとッ!!」という思い…。
そして、『初夜の行為』を始めてから
実際どれくらい経った頃か、やっと、
深く繋がることができて……。
その時、彼女は、呻きながら…、そう、
荒い呼吸で、そして、泣いていた。
自分も、感動でいっぱいだった。
「やっと…!!」、感無量だった……。



背中に手をやりながら、義時は思い出す。
―ちなみに、背中には、妻と、初めての
行為をする中で、痛みに悶える彼女が、
無意識に引っ掻いてきた、『無数の傷』
が……。
だが、「これは、俺の勲章だな」と、
思いながら、背中の傷をなぞる…。

そう。振り返れば、昨年の11月に、
横で眠っている、妻と奇跡的な再会を
果たした。
そして、その日、そのまま一緒に、
あの不動みどりが勤務する警察署に
向かい、不動がオッサンの取り調べを
している間、2人だけで過ごした。
と言うより、彼女が、不動を待って
いて、自分は、それに付き添った
形だ……。

その日、以降。
妻と―つまり真子と―度々会える
ようになった。
彼女が、自分を赦してくれたから!
それに、不動が、彼女と自分の間に
入って、仲を取り持ってくれたから。
そして……。ある時期からは、
不動みどり抜きで…、2人だけで会える
ようになって。
そして、遂に、結婚かぁ。


短い交際期間中に。
彼女は、柳沼真子は…。
そう、正直で真面目で、普通の女性とは
違って、芯のある彼女は、隠さずに告白、
打ち明けてくれた。
「もし、俺が、彼女の立場なら絶対に
言えないな……」というレベルの事を
ちゃんと、彼女は、『真剣に交際して
いる相手』である自分に、包み隠さず
話してくれた。

彼女の父親のこと……、つまり、
『レイプ』の件まで、告白してくれた。
正直、こっちは、聞いた時。
ショックだった。いや、そんなもんじゃ
ない!
衝撃が半端なかった……!!
でも、「ここまで打ち明けてくれるの
かぁ!!」と胸が熱くなった。
告白しきって、号泣する彼女を目にして。
もう、衝撃とかその他もろもろの感情は
どうでもよくなった。
ただ、「この彼女と一生、一緒にいたい!」
「絶対に、俺が幸せにしてやる!!」
それだけだった、残った感情は。

そして、ショックと言えば……。
いや、気が狂う程、悔しかった。
口惜しかった!!
あの時は、……。
彼女に、「つい最近まで、『夜のお店』で
働いてて……。
そこで、色々嫌な目にあって、それで、
今回、みどりちゃんに助けてもらったの」
と打ち明けられた時。

正直、男として、「過ぎたことだよ」
とか「これからが大事だよ」と大きな心を
持ちたかった……。
でも、男なら、誰でもわかるだろうが、
そう簡単には、いかない!
嫉妬、狂う程の怒り……。

「今まで、どんなヤツと……?」
「どれだけのことを?そういうコトも
してきたのか?」
「俺の知らない男達に、どれだけ、
その身体を委ねてきたんだ……!?」

嫌でも、そう考えてしまう自分がいる。
嫌でも、そのような目で、彼女を見て
しまう自分がいる。
そして、そんな、自分が死ぬほど嫌だった
……。

なぜなら。
彼女を、そんな『底辺の底』に堕とした
張本人が、他ならぬ、自分自身だと
知っていたからだ……俺自身。

責めれるのは、『自分』だけだ。
そう、俺が責めて良いのは、俺自身
だけ…。
「彼女を責める権限は、自分には
一切ないんだ」と、ある日、ハッキリ
認識した。
その日から、少しずつ、変われた。
でも、見たこともない、それと、何人
いるかも知らない、『彼女と関係を持った
であろうクソ野郎共』は、正直、ぶん殴って
やりたい、半殺しにしてやりたい……、
そう思っていた。
だから、彼女を見る度に、正直、苦しい面
もあったんだ。
でも、徐々に徐々に。
彼女を愛する『愛』で自分の心がいっぱいに
なっていくのが、分かった。
もう、彼女が愛おしくて愛おしくて
しょうがない!!
で……、ある日、気づいた。
「もう、そのクズ共のことなんて、
どうでもいいわ」と思えた自分に。
と言うより……。ソイツらのことなんて
もう全く考えてもいなかった、つまり、
忘れていたことに、気づいた。
もう、彼女に夢中で……。

愛の力は、偉大だ。
そして、自分は、今、その愛する女性と
一緒に寝ている、彼女は、正真正銘、
自分だけの女なのだ……!!!








(・著作権は、篠原元にあります

・今日も読んでいただき、ありがとう
ございます。
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・義時が回想しているシーン。
第十二章③や第十四章③に実際の現場が
描かれています。このあと、どうぞ♫ )
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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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