第十七章 ㉒
文字数 1,843文字
医師の仮装をしている白衣の連中・
鬼畜共は、そして……。
私の最愛の人―人生唯一の配偶者―を
『空気』のように、無視して、再び、
【密議】を始めた。
柳沼眼科医を、まるで、存在しない、
あたかも『大気中の塵以下の存在』と
見なし、扱い……いや、現実的に、
副病院長と診療科部長と富増からすれば、
眼科の若手の一医師、出世コースから
外れた、しかも、『ちゃんとした日本人』
ではない柳沼など、そんな存在でしか
なかったのだ……最初から。
六街副病院長が話し出す。
まずは、露骨に聞こえるように、
大きな声で。
「さてと……。
どこまで、話しましたかなぁ?
『とんだ邪魔者』が入って、忘れましたわ。
まぁ、こういう時に、病院経営を妨げるのは
偽善ぶった正義感と、熱いフリした医師です
からなぁ」
誰のことを言っているのか……、当然、
自分のことを貶しているということは、
分からない訳がない。
必死で、拳を握りしめる、柳沼医師。
全身が、熱くなる。
そして。
一瞬、3人の冷たい視線が、向いたような
気がしたが……。
すぐに、逸らされて。
再び、副院長が。
「あぁ!!そうでした。
そう、そうです、例のあの親子の件ですな。
それで……、さっき、病棟や事務方から
報告ありましてね。
無事退院手続き済ませて、出て行って
くれたそうですよ。
これで、万事、解決ですなぁ。
藤川先生、富増先生。
今回は、富増先生のお父上のお力添えも
ありましたし、これで、すべて解決、
安心です。
もう、あの件は忘れ……、というより、
もう実際、『何もなかった』のですから、
さらに、一層、当院のためご尽力ください。
期待していますよ、院長先生も私も!」
はっ、と勢いよく頭を下げる、診療科
部長と若手のクズ、そして、何も解決なんか
していないのに、笑顔で笑っている副病院長
を見つめて、柳沼は、我慢の限界だった。
「コイツらには、良心というものが
ないのか!?
いや、獣以下だから、そんな良いもんが、
全く、存在しないんだ、コイツらの体内の
どこにも!!」
そう確信しながら、歯を食いしばる。
自分らの安泰と保身と出世のために……。
一人の…いや2人の親子を犠牲に。
そして、なんの『痛み』も感じずに、
コイツらは、笑っている。
柳沼の脳裏に、失明した男の子と、
その母親の、悲し気な表情が浮かぶ。
一生、もう、視力は戻らない。
ほぼ、見えない。
いや、絶対に、これから視力は低下の一方を
いく―さすがにそれは告知できなかった―
だけなのだ。
いつかは、あの左目は、完全に光を失う。
その子のことを思うと…。
あの親子の、苦しみをまとって病院から
出ていく姿を思い出すと……。
限界だ。
ここまで、ふざけた行為は、もう黙認
できない。
そして、ここまで、バカにされたまま
黙っているわけにはいかない!!
背筋に汗が流れたが、気を振り絞って
声を出した。
「副病院長、診療科部長、富増先生!!
お話があります!」
返ってきたのは、6つの冷淡な視線。
敵意を大いに満ち溢れさせた厳しい
視線だ。
長い時間だった―いや実際は数秒だが―、
柳沼医師は、ただ、ひたすら睨みつけ
られていた。
そして、最初に、声を出し……いや諫めて
きたのは、診療科部長だった。
「柳沼君。さっき、富増先生が言った
だろぉ?
今は、六街副病院長と大事な話をしている
最中なんだ。
君みたいな下っ端は、全く関係のない、
病院経営に関わる重要な件でね……。
と言うより、君は、なんで、ここにいる
んだね?
無礼だねぇ…。
普通は気をきかせて、出ていくだろう、
あぁ言われたら……。
本当に、使えない医師は、どこででも
使えない。
全く、困ったものです」
副病院長と富増が同意して、笑う。
3人に、馬鹿にされ、全人格を、そして、
医師としての自分を否定され……。
キレかかるも、柳沼眼科医は、必死に自分を
抑えて、『意見』した。
……もちろん、聞き入れはされなかった。
今からでも、当局に連絡し、然るべき手段を
打つべきだと、柳沼は、確かに進言した。
だが、副病院長と診療科部長と富増には、
全く届かない。
彼らには、分かっていたからだ。
どんなに、あの親子、いや、この若造が
動いたところで、声を上げたところで、
厚生省も警察も動かないという、ことが……。
そう。自分たちは絶対安泰、絶対的安全圏に
いるのだから、富増代議士の絶大な権力の
故に…。
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