第三章 ②
文字数 1,213文字
ダッシュで登り切り、廊下に
出ました。
女子トイレは、すぐそこでした。
そして、私は、目にしてしまった
のです。
生男が廊下で男子たちと
話しているのを。
目が合いましたが、彼はすぐに目を
そらし、窓から外を見るふりをして、
私に背を向けました。
私はその瞬間悟りました。
自分が生男に裏切られたのだと。
非常にショックでした。
大好きだった生男は、なぜだか、
もう自分のことが好きでないんだと、
幼心に分かりましたから。
もう何が何だか分からなくなりました。
いろいろなショックや怒りや絶望で。
ここからある時までの記憶が、
つい最近までありませんでした・・・。
そして、私は気づいた時には、なんと
廊下に倒れていました。
また、なんと、失禁していたのです。
すぐそばでは、みどりちゃんが義時を
蹴ったり、叩いたりしているのが
分かりました。
義時のせいで、自分が転ぶかなんだかして、
おしっこをもらしてしまったのだ、
私はそう理解しました。
周りの同級生や上級生の視線。
男子たちの笑い声。
女子たちの囁き声。
もう、恥ずかしくて、惨めで、泣くこと
しかできませんでした。
最近になって、知りました。
何がどうなって、ああなったかを。
走って逃げていたはずの私が、
なぜ廊下に倒れていたのか。
どんなことが、私の身に
降りかかったのか。
・・・ともかく、立ち止まっていた私に、
小学3年生にしては大柄な義時が、
勢いよくぶつかってきたのですから、
小柄な私はたまったものではありません、
本当に。
結果、廊下に倒れてしまったのです。
みどりちゃんのそばで。
義時の体に、押し倒されて。
そして、私がハッと気づいた時には、
すでに、私の下半身は
温かくなっていました。
自分の足も手も濡れています。
全てを理解しました。
「お~もらし、お~もらし、
お~もらし!」と、
手を叩きながら、合唱のように響き渡る
男子たちの声々。
本当に、惨めで、恥ずかしかったです。
「死んじゃいたい」と、正直思いました。
6年生ぐらいの女子のしっかりした声で
「早く3年2組の先生を呼んで来て!
あと、タオルとか体操着。
私ので良いから、早く!」と叫ぶ声が、
私を少しだけですが、
ホッとさせてくれました。
同じクラスの女子たちの声、
「義時、サイテー!!」とか、
「奥中さん、かわいそう」も
聞こえてきますが、その声は逆に
「あの子もこの子も
みんな見てるんだ。もう、学校に
来れない!」と、絶望的にするのでした、
私を。
時間にしてどれ位だったでしょうか。
おそらく1分もかからずに、
・・・でも、私にとっては
永遠のような長い時間でした、
やっと廊下の奥の方から、
担任の管原綾子先生の
「どうしたの?何があったの?!」と
言う声が響いて来ました。
「先生と早くお家に帰りたい。
もう、この学校には来たくない」と
切実に思ったのを今でも憶えています。
私、奥中真子の小学校時代は
夏休みを1ヶ月前に控えたこの日、
突然終わってしまったのです・・・。
(著作権は、篠原元にあります)