第十五章 挙式までの最終戦 ~巡り合うのは善か、悪か?~ ①
文字数 1,029文字
真子は出かけた。
屋山社長に、紹介してもらった、同じ
杉並区内にあるスーパーに。
面接に行くのだ……。
調べたら、有難いことに、自転車で行ける
距離。
真子は、久しぶりに、気合を込めて、
ペダルを漕いだ。
予想通り、10分もしないで、目的の
スーパーに着いた。
「やっぱり……」と思う。
何度か、買い物をしたことがある。
でも、マンションから一番近いわけでも
ないし、どっちかと言うと、野菜や健康
食品系が多くて、何より、酒類の扱いが
少なすぎるから、数回で終わった店だ。
……と、真子は思い出す。
「でも、今の私には、一番良いわ」と、
思う。
あの頃とは違って、お酒も飲まなくなって
るし、健康にも気をつけてるし、自炊も
するようになってるのだから。
その日、真子は……。
屋山社長の電話のおかげで、待ってくれて
いたオーナーから短い面接を受けた。
屋山社長夫妻と旧知の仲と言う、
綾部オーナーは、真子の持ってきた履歴書を
チラッと見て、2,3質問してから、
ニコッと笑った。
そして、言う。
「じゃあ、明日から、よろしくね」。
真子は、拍子抜けした。
「えッ!?これだけ……?」。
そんな真子に、雪子と同年齢位の
綾部オーナーが微笑む。
「大丈夫?
いえね、屋山さんからは、今朝も電話を
もらったのよ。
『真面目な人だから、よろしく』ってね。
それに、結婚式のために、お金を貯めたい
んですってねぇ。
偉いわぁ!!
夫と一緒になる頃の私を思い出すわ……」。
真子は、心の中で、深く、屋山社長に
お礼をした。
柔和な表情を絶やさない綾部オーナーは、
真子の我儘のようなお願いも、嫌な顔一つ
せず聞いてくれた。
そして、店長代理を呼んで、真子のために
特別なシフトを組んでくれた。
その後、女性の店長-オーナーの娘さん-
も入って来た。
真子は、慌てて、立ち上がり挨拶する。
オーナーにそっくりの店長も優しい笑顔で
真子に接してくれた。
それに、結婚したら千葉に行くので、
短期のバイトになってしまうと伝えた
真子に、言ってくれたのだ。
「あら!おめでたいわね!
東京最後の職場をウチにしてくれて、
嬉しいわ!!
そうかぁ、結婚準備の間よねぇ?
色々忙しいし、大変よね。
何かあったら、遠慮なく、私や代理に
言うのよ」。
真子は、深々とお辞儀した。
真子は、決めた。
本当に短い間だけど。
屋山社長夫妻のためにも、この親切で優しい
綾部オーナ、綾部店長、店長代理さんのため
にも、全力で、身体を打ち叩く気持ちで、
働かせてもらおう、と。
(著作権は、篠原元にあります)