第十六章 ⑳
文字数 3,110文字
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)
明慈大学チアリーディング部のみんなが
披露してくれたのは、あの、みどりちゃん
との思い出の曲であり、また、『万年
生理女』と男子達に呼ばれていた
女子中学生時代に、私が、学校の屋上に
逃げては、聴いて、涙していた、
あの名曲……【夏フェス】です。
……私が、こしまちゃんたちにリクエスト
したことはないので、おそらく、みどり
ちゃんが、こしまちゃんたちに耳打ちして
くれたのでしょう。
それで……。
ダンスの半ばで、私は、泣き出してしまい
ました。
あまりにも、幸せで!!
中学生時代の私にとっては、夏休みの
楽しい【想い出】、花火大会、そして、
恋愛も……夢のまた夢でした。
それで、共感しつつも、聴いていると
泣けてくる、内容。
そして、私は、空の向こうに叫んだの
です、女子中学生の私は…。
「神様!いるなら、助けてよッ!!」
と、心の底から振り絞った願いでした
……。
メインテーブルに着きながら、私は、
あの時の、祈りが、神様に届いていたん
だなぁ、と思いました。
「それで、今、こんなに幸せな身に
なれたんだ……」って。
大きな大きな大きな拍手が、明慈大学の
チアリーダー達に贈られる、その大音量で
私は、ハッとしました。
気づいたら、ボロボロ大泣きして
いました。
夫が、チアリーディング部のみんなに拍手
を贈りながら、私を見て、ハンカチを渡し
てくれました。
「ありがとう」と震える声で言って、受け
取ります。
顔を急いで拭いて、大急ぎで、私も拍手を
贈る皆さんに加わりましたが、拭いたもの
の、さらに感動と喜びの涙があふれ出して
しまい、目がぼんやりしてしまっていて、
こしまちゃんたちの姿がハッキリとは
見えない状況でした…。
しばらく、明慈大学の女学生たちに
贈られる拍手の嵐は収まりませんでした
……。
そして、その『嵐』を押しとどめるように、
こしまちゃんが、マイクを手に話し出し
ます。
おぼろげに見える、こしまちゃん……。
「どうも、ありがとうございましたぁ!
明慈大学チアリーディング部一同による
【夏フェス】でした~!!」。
再び贈られる、感激の拍手……。
少し時間を空けて、こしまちゃんが、
話し出します。
「ありがとうございました。
それでは、これより、本日の主役、
新婦の栄真子も含め、明慈大学チア
リーディング部32名全員で、校歌を斉唱
させていただきます!!
では、新婦も、こちらに……」。
そうか、そうだったと……思い出して、
私は慌てます。
プロのスタイリストの上平による最高の
花嫁メイクも、涙でどうなっているのか
分かりませんから。
で、手元に手鏡もありませんし……。
でも、みんなが待ってくれています、チア
のみんなが…。
そして、隣の夫が、「大丈夫だよ」と
言いながら、ハンカチで、そっと私の顔を
拭ってくれたのです。
「キレイだよ」と、言いながら。
ハッキリ言って、あれで、披露宴最中に
感じた『殺意』は帳消し、でした(笑)
って言うより、本当に、キュンとしちゃい
ましたね。
さらに、ホレました……。
口には出さなかったですけれど。
今度は、愛する夫に力づけられて、私は、
メインテーブルを立ち、チアリーダーの
みんなのもとに向かいます。
半分涙顔の私に、明慈のみんなも、
そして、列席者の皆さんも大きな大きな
『エール』の拍手を送ってくれました。
もう、恥ずかしい……なんて思いは消えて
いました。
「じゃあ、真子さん、ここに、どうぞ」
と、やよいちゃんが小声で……。
そこは、まさに、丸瀬やよいちゃんと
葦田こしまちゃんの間…。
ちょうど、31人の中央の場所でした。
熱いスポットライトが、私を照らし
ます。
そして、私は、気づいたのです。
隣の葦田ちゃんも、右隣の丸瀬ちゃんも
黒の学ランをチアのユニフォームの上に
着ている、ことに。
え……いつの間に、と驚きつつも、
素直に、「みんな、カッコいい!」って
思いましたね。
そんなチアのユニフォーム姿の新婦、
女子大生でなく23歳の私に……、
やよいちゃんが、そっと、学ランを
着せてくれました。
横で、こしまちゃんが話しています。
「皆様。只今、新婦も学ランを着用
致します。
これより、明慈大学校歌『雲上を
志し』を斉唱させていただきます。
歌詞は、このボードをご覧ください。
ぜひ、皆様も、腕を上下に振りながら
ご一緒ください」。
……私も学ランを着て、すべての準備が
整いました。
こしまちゃんが、マイクを手に言います。
「それでは、皆様、どうぞご起立のほど
宜しくお願い致します!」。
一瞬の静寂の後、ガタガタと……。
私たちの前に座っていた、すべての列席者
の方々が一斉に立ち上がります。
そして……。
私の左隣の葦田こしまちゃんの、すぐ横
に立っていたチアリーダーの子、あとで
知ったのですが、チアリーディング部の
部長さんが、静寂を破ります。
「栄ぇぇ真ぁぁぁ子ぉの、結婚をぉぉ
祝~~いぃ!!!」。
響き渡る、大きな声。
そして……。
キレイな声が、披露宴会場中に響きます。
明―慈大――学、校―――歌ッッ!!
と。
タイミングよく流れ出す、メロディ。
……。
一斉に、左右に並ぶ明慈大学チア
リーディング部員が腕を上下に、強く
振りながら、歌い出します。
前を見れば、列席者の皆さんも、
彼女たちと一緒に大きな声で、歌って
いて……。
その光景を見て、感動しました。
ポロっときそうになりました。
でも、踏ん張ります。
ここは、私も、女子大生たちと、
そして、新郎や列席者の皆さんと一緒に
斉唱しないといけない……、いや、
どうしても斉唱したかったのです。
「彼女たちの想いに、応えたい」と
思いましたから…。
で、両隣の丸瀬ちゃんと葦田ちゃんに
合わせながら私も腕を振り上げ、
歌います。
栄家・柳沼家の結婚披露宴会場に集まった
私達は、本当に一つになって、明慈大学
校歌を、その3番目まで一気に斉唱して
いました……。
もう会場中が、ウソじゃなく1つに
なってたなぁと思います。
だって、フラッシュが目に飛び込む
ことが1回もなかったですから……。
そして……。
『ああ明慈大学 この名に 我らは
集う』を2度繰り返し、明慈大学校歌は
終わりました、が…。
すぐに、さっきのチアリーディング部の
部長さんが大声で。
「皆様、ご斉唱のほど、
お願い致しますッ!!」と。
それから、まさに、『応援団長』の
ように、両手を交互に広げながら、
「フレ―!フレ―!明ぃ慈ぃぃ!!
フレ―!フレ―――!!
真ぁぁ子ッ!!」
一拍おいて、チアリーダー全員と、
新郎と披露宴会場中の皆さん、それに、
ブライダル事業部の居村さんと上平さん
も腕を上下に振りながら、叫んでくれ
ました。
フレ、フレ、明慈!
フレ、フレ、真―子ッ!!
もう、我慢できませんでした。
涙腺崩壊です。
これで、感動しないとしたら、逆に、
ピーナのクズ共や私を貶めようと
してくれた東大阪に本社のある
風俗組織『ワールド商事』の奴らと
同等の冷血無欠な悪党共です。
……気づいたら、私は、右手で顔を
覆い、泣いていました。
もう、十分なのに……。
もう、これだけでも、最高に幸せに
してくれたのに、でも…、彼女たちの
『お祝い』は終わりませんでした。
続けて、部長の叫びが、耳に飛び込んで
きます。
「皆様、最後に、ご斉唱ください!
栄夫妻のご結婚を祝ーいッ……」。
フレ―!フレ――!栄ぇぇッ!
フレ―!フレ――!栄ぇぇぇッ!
披露宴会場中に響き渡る、
列席者、そして、ホテルの方々からの
私達夫婦へ向けた『エール』……。
後ろを見たら、夫も……。
泣き崩れていました。メインテーブル
に両手を乗せて。
明慈大学の31人と披露宴会場中の全て
の方からの優しく力強い拍手を受け
ながら、私達夫婦の涙は止まることを
知りませんでした……。
(著作権は、篠原元にあります)