第十七章⑧

文字数 4,690文字

新妻の真子は……。
義時が、中々玄関の方から戻って
来ないので、作業を一時中止した。

宅急便なら受けとって、サインして、
すぐ終わりだし。
変な勧誘なら即断れば良いし。

あ、もしかして、サボっているのか…。
それとも、トイレかな。

耳を澄ます、新妻。
すると、玄関の方から、話し声が!?
彼が、誰か……女―しかも若い女―と
楽し気に話してる!!!

「こんなクソ忙しい時に!」、
「何やってんの!?」、
「変なセールスに来た、美人に、
鼻の下を伸ばしてんじゃ!」


ムカッとして、作業を放り投げて、
玄関へ向かう新妻。
もし、『予感的中』だったら……。
こちとらは、その間も、せっせと作業を
続けてたのに、どこぞの女と楽しく
ヤッていたなら……。
「まずは、そのクソ女を追い払って。
で、彼にも灸を据えないと!」




玄関先で話していた義時は、後ろから
近づいてくる『怒気を含んだ足音』に
気づいて、振り返った。
予感的中……。
結婚までは見せてくれなかった、そして、
結婚した瞬間すぐに見せてくれるように
なった『不機嫌な表情』で妻が、こっちに
近づいてくる…。

「ヤバイ!」
さすがに、男の義時でも、分かった。
妻が、怒っている理由。
この確かに忙しい時間帯に、かなり、
一人だけでやらせてたな……。
「どうする?」と焦ったが…。



真子は、目の前にいる、義時に
何か言ってやろうと思ってた。
で、彼と話している女も、即刻
追い払うつもりで……。
でも、義時を…、と言うより、義時の
向こう―つまり玄関の外―に立って
いる女性を見て、『そんな考え』は
すぐに太平洋のかなたに消え去った。



義時は、ホッとした。
一瞬目が合った妻の視線は…。
殺意、怒りに燃えてたけど。
その後、彼女は、玄関の外に視線を
向けてくれて。
そしたら、すぐに、妻の表情がパッと
輝いた。
まるで、本当に、鬼から小動物のように
変わった。
喜び大爆発的な表情……。
「女って、コロコロ変わるな」と思った
けど、絶対口には出せない…。




ムーン・ヴィレッジの103号室の玄関先で
栄美織は、新しく家族になった、
義妹・栄真子に、手を上げて、挨拶した。
正直、義弟の顔を見に来たわけでは
ない。
つい、長く話し込んじゃったけど、
仕事の件で…。
 今日来た目的は、妻になったばかりの
義妹ちゃんの顔を見たい、あと、メッチャ
やること一杯だろうから手伝ってあげたい
……そのため。
で、彼女は、コンビニで弁当や飲み物を
買って、義弟夫妻の新居に駆け付けた
わけだ。



「こんにちは。真子ちゃん!」と
義姉に声をかけられ、真子は、ハッと
した。
嬉しい、来てくれたんだ……で舞い上がって
たけど。
ダメだ!!ずっと、玄関先に立たせてる
なんて……。
すぐに、彼に言う。
「は、早く入ってもらって!」



義弟夫妻に…と言うよりは、しっかり者の
新妻ちゃん―義妹―に促され、美織は、
新婚夫婦の愛の巣、いや、新居に、足を
踏み入れた。
引越し早々で、まだまだバタバタしている
のが見て取れるし、作業も完了していない
のが明らかだ。
でも、思ったよりは、『生活感』、
『生活臭的なもの』はある……。
あっ、そっか…。
「義時君、少し前からこっちに移って
たんだっけ……」

義妹に案内され、美織は、奥まで
進んだ。
新婚夫婦の『作業第一現場』、つまり、
一番メチャクチャな状態の部屋。
でも、日当たりも良いし、それに、
池も眺めれて……いい感じじゃん。
「スッキリすれば良い雰囲気になるの
間違いなしだな」と思いながら、主婦の
美織は、部屋を見渡した……。

で、ウン?…………と。
「あれ、真子ちゃん」と訊く。
目は、そこに向けたまま。
新妻ちゃん―義妹―も気づいたみたいで、
「えぇ、そうなんです」と答える。


義時は、義姉と妻が、笑いながら話して、
そして、義姉が自分を叱る―まぁ本気では
ないけど―ので、『立場』がなかった。

義姉までもが、カーテンのことで、妻と
同じ意見で、妻に同調し、妻の肩を持つ。
だけじゃなく、こう叱られた。
「こういうのはね、奥さんを迎える前に、
最初に住んでるキミの方が、前もって、
用意しておくものだヨ!
そりゃぁさ、男の1人暮らしで、ここに
寝に戻る位なら、レースカーテンだけでも
良いかもだけどさ、結婚して、奥さんも
住んで、奥さんも生活するんだから……。
レディがいるなら、当然、ドレープカーテン
つけないとダメだよぉ!」

女性2人の前に、義時は、ただただ、
「ハイハイ」、「すみません」と頭を
下げるしかなかった。
正直、そんなの知らなかったし、思いつきも
しなかったんだから……。
「じゃあ、最初に、言っておいてくれよ」と
思うも。
絶対に、言えない。
そんなこと口にしたら、女性2人の、
『口(攻)撃』が始まるに違いない。
口では、彼女―妻―に勝てない。
で、当然、義姉にも。
それが、妻+義姉の2人を本気にさせたら、
もう、『本当に命取り』だから……。



数分後。
義時は、ホッとしていた。
2人―妻と義姉―の関心、話題が、他の
ことに逸れてくれたから。
やっと、義姉の『お咎め』から解放
された…。
で、妻と義姉が楽しそうに談笑している。
どうも、自分のこと忘れてるみたい。
それに、2人の話に入れない……。
そんな雰囲気だ。
なので、しょうがないので、義時1人、
作業に戻ることにした。
「何で、この2人、もうこんなに
仲良いの!?」と考えながら。

しばらく、義時は、女子2人の騒ぎ―
話し声―を聞きながら、もくもくと作業を
続けた。
掛け時計を見やる。
もういい時間だ。
腹も減ってきた。
あと、正直、「ちょっと……。あの、
まだまだ、いっぱい、残ってるけど……」
と言いたくなった、何度も。
自分1人じゃ終わらないし、効率も悪い。
話してないで、作業に戻ってほしい&
手伝ってほしい。
だけど、やめた……。
また、怒られるのは、怖いから。



そんな義時の願いが通じたのか…?



美織は、ハッとして、顔を上げた。
時計を見ると、もう、お昼時。
義妹ちゃんに提案する。
「もうさ、このまま、ランチに
しない?コンビニで、お弁当とか
買って来たからさ!」


わ~いと、騒ぐ妻。
どうやら、義姉は、差し入れを持って
来てくれたらしい。
「さてさて、やっと、昼か…」
そう思いながら、義時は立ち上がって
……。
信じられない『会話』を耳にして
しまった!!!


美織は義妹に言った。
「真子ちゃんと2人だけでランチ……
ってか、ご飯食べるの、初めてだよね
!?」
「はい、そうですね!前回は、美織
さんと、お義母さんと3人で、でしたね」
「うん、そうだった!あ、割り箸
もらうの忘れたから、2人分よろしくネ」



義時は、勇気を出して、
「あのぉ…」と、2人―自分を忘れて
盛り上がってる女子達―に声をかけて
みた。


ハッとする、新妻。
アッと声をあげる、義姉。
「ゴメ~ン、義時君!真子ちゃんとの
話に熱中しっちゃってさ、忘れてた、
存在を……」
「あ、あの。じゃあ、3人でお昼に
しましょうか」
 焦るも、何にも隠さない義姉と、
正反対に、ごまかそうと必死になって
いる新妻を見て…。
義時は、はぁとため息をついた。
「俺って、かげうすいのかなぁ……」



で、数分後。
3人は―無事義時も―、昼食―コンビニ
弁当―を共にしていた。
作業に没頭していたので、のり弁の
美味しいこと、美味しいこと!
真子は、コンビニ弁当を見直した。
義時は、義姉と妻がわーわー女子トーク
盛り上がっているので、肩身が狭かった
……。
で、食べるのに集中して、彼女たちの
3分の1の時間で食べきってしまい、
いつまでも、駄弁り続ける―こんな
言い方を実際したら、2人から集中攻撃
受けることになるが―女性陣から離れ、
また、男1人で寂しく作業を再開すること
にした…けど、やはり、案の定、2人は
こちらを見向きもせずに、没頭している、
作業ではなく、会話に……。
「なんかなぁ……」と思いながらも、
やはり、声を上げる勇気はないので、
黙っていることにした。
式の前、小滝牧師が……そうだ、セミナー
参加の男性陣だけを集めて、真面目な
表情で、「日本の夫婦はね、奥さんの方が
強いんですよ!」、「でも、尻に敷かれちゃ
ダメですよ!」と激励(?)してくれたが…。
アレは本当だったんだなぁ、と義時は
再びため息をつく。
そう言えば、あの時の小滝牧師、いやに
実感こもってたし、『経験者の言葉』
だったよなぁ……あれは。

義弟夫妻の新婚新居を訪れた美織。
義妹が本当に美味しそうに、弁当を
食べてくれるので嬉しかった。
本当に、『パクパク』食べてくれる。
買って来た甲斐があった。
で、何より、彼女とは馬が合う。
一時期、彼女を自分は嫌いまくっていた
けれど、それが、ウソみたい……。
で、彼女は、義妹との話に没頭した、
食べながら&食べ終わった後も。

そんな感じなので……、女子2人は、
義時のことを再度忘れていた。
彼が、黙々と働いていることにも
気づかない、同じ空間、狭い部屋の
中に一緒にいるのに。





……ふぅ、と義時が息をつく。
時計を見上げると、もういい時間だ。
「ハイ、終わり。本当、助っ人に
来てくれて助かった。一時は、どうなる
ことかと思ったけど」
そう、すぐ近くで、真面目に、女子2人も
今は作業してくれている。
あの後……と言っても、自分が作業を
再開してから1時間は経っていたけど
―つまり女性陣は食べ終わった後も
60分近くトークを楽しんでいたこと
になる―、妻が作業に戻った。
そして、なんと、義姉も……?
妻が恐縮して言っていた。
「わるいです。お弁当を持って来て
くれただけでも嬉しいのに……。
あとは、私達だけでやりますから!」
でも、義姉は、笑いながら、そして、
腕をまくって、言ったのだった。
「良いの、良いの!今日は、手伝う
つもりで来たんだから!
それに、たまには、こっちも、家から
離れて、普段の家事や子供たちから、
自由になりたいのヨ!
あとは……ラブラブな2人を見ていたい
しね」
 どこまで本気かは分からないが。
ありがたい。
栄夫妻は、義姉の善意に甘えることにした
のだった。

で、義時の受け持ち―妻から指示された―
は、完全に終わったのだった。
ちょうど、その時、妻がこっちを向く。
「こっち、終わったけど」と彼女が
言うので、同じことを返す。


真子は、時間を確認した。
で、驚く。
ちょうど、良い時間だから。
「スゴイ!これなら、ちょっと細々と
したのやって、家出たら、ちょうど
約束の時間になる!」


……10分後。
栄美織は、「ありがとうございました」
と、何度も頭を下げる義妹と、義弟に
送られて、新婚夫婦の家を出た。
「来て良かったなぁ」と思う。
手伝った・働いたって言うより、
普段とは違う『環境』でリラックス
できたし、いっぱい、義妹と話せて
楽しかった!

まぁ、すぐに、自宅に着いて、
そうしたら、『現実』が戻って来る。
うるさい子どもたちの世話、炊事、
洗濯物の片付。と、その他もろもろ。

でも、何か、リフレッシュできたから
……。
「うん、頑張れる!」、そう思い
ながら、自転車のペダルを漕いだ。
いすみ市の夕方の風は、心地よかった。

















(・著作権は、篠原元にあります


・今日も読んでいただき、ありがとう
ございます!
レビュー、コメント、レター、感想など
など、お待ちしています♫
してもらえると、本当、嬉しいです!

・まだ会員登録せずに読んでくださって
いる皆様。ありがとうございます。
ご面倒だとは思うのですが…。実際、
面倒だし、会員登録しなくても読めます
けど、お時間あったら、会員登録して
お気に入り追加、高評価とかしてもらえ
たら嬉しいです♪
 まぁ、できたらですので、お時間
ありましたら……。


・美織と真子の初対面(最悪の初対面?)
シーンは、第十四章⑬です。このあと、
どうぞ~。
そして、美織が、真子を嫌いまくって
いた『理由』は、第十四章⑭にあります
ので、こちらも併せてどうぞ。。。  )
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み