第十七章 ㊸

文字数 3,738文字

新婚旅行三日目(水曜日)。
 2人は、朝、早く起きた。

と言うか、義時は、熟睡中だったけど、
妻に叩き…ではないけれど、起こされた。
「早く!時間、間に合わないよっ」と。

そう。
結構早くにホテルをチェックアウトしない
といけない時間帯の特急のチケットを
もう買っているのだ―会計係―が。

はぁぁぁと大きなあくびをしながら
起き上がる。
 驚いたことに、妻は、もう、化粧も
完了していた。
……結局、昨晩は、『有言実行(?)』で、
一人そそくさと風呂に入りに行って
しまった。
 ちょっとだけ……と、そろり歩いて、
風呂場の扉のノブに手をやったけど、
しっかりと、カギまで……!?
「そこまでするか!結婚してんのに」
と、思ったけど……。
もちろん、彼女に言えない。
そんなこと言ったものなら、100%、
「はぁ!?覗きに、来たの!!」と、
返り討ちに遭うこと、間違いないから。
 
なので、バスローブをまとって戻って
きた妻に、何も言わなかった。
あと、時計を見て、驚いた。
「結構、時間かかったなぁ」と。
何をすれば、こんなに?
自分の4倍くらい……。
化粧をしなおしたのか、とも思った
けれど―一瞬―、
 ……妻の顔は、すっぴんなのか、そうで
ないのか分からなかった。

妻に、「最高だよ、景色」と送られて、
義時も風呂に向かう。
 確かに、最高だった。
でも、妻と一緒に入れたら、もっと最高
だったのに……!!!
そこだけ、かなり、残念だ!

だけど……。
風呂を出て、ベッドルームに戻ると、
ちゃんと、妻が待ってくれていた。
恥じらいながら、「こっち来て」と……。
ハイ、理性崩壊。






そんな、夜のコトを思い出す。
今、しっかりとキビキビ動いている
彼女が、夜はああだもんなぁ……と。
 そんなこと思ったりしてると、男の
自然現象が起こりつつあるのに気づいて
ハッとする。
 これは、マズい…!!
色々な意味で。
 ちょうど良く、妻が、トイレに入って
くれたので、必死に、抑える……。
なんとか、ギリギリセーフで、妻が
戻ってきた時には、『通常』に戻って
くれたけど、怪訝そうな顔で言われた。
『何やってんの?
って言うより、早く、支度して!
何、ベッドの中でもたついてんのッ!!』
 妻の小言、妻からの説教だ。
正直、今後が思いやられる。
結婚するまでは、こんなに気が強くて、
姉さん的……だとは思ってもいなかったし、
その本性を見抜けなかった。
 で、何も言わずに、本当にホッと
しながら、ベッドから抜け出す。
もし、あのまま『非通常状態』だったら
朝から大変だった。
 まぁ、そんなこと、女性に言っても、
分からないだろうし―男の生理現象
だから―、それに、彼女の場合、今、
それを言ったら、色々な面で逆効果だ。
だから、黙って、動き出す……。






約1時間後。
2人は、特急電車の中だった。
真子が、焦りに焦ったけど、結局は、
発車時間の10分も前に、余裕で―義時
からすれば―、ホームに着いた。
もうちょっと、この人は、おおらかに
人生を歩んだ方が良いなぁ……、と
妻を見つめながら思う。
 結婚するまでは、こういった面を
見逃してたけど。
結婚してから、結構、彼女のそういう面
―マイナス的―が見えてくる。
まぁ、あっちも、そうだろうから、
お相子ってとこだ。




で、2人が乗った特急は、
福岡は博多まで走る、走る。
約2時間の鉄道旅行を、栄義時と
真子は、満喫した。
 たまには、豪華な電車の一番良い席に
座って、美しい風景を眺めるのも良い
……。


で、博多駅に到着して。
2人は、博多の街に繰り出し……は、
しなかった。
そのまま駅の中だけを移動して、
新幹線に乗り換える。
これまた、義時は、驚く。
何で、グリーン車なんか取るの!?
 別に夏休みでもないし、平日なんだ
から、自由席でも問題なしに座れる。
百歩いや千歩譲って、まだ指定なら
許せるが……。
なぜに!?
なぜ、グリーン車を??
 
「結構……、いや、かなり、金遣い
荒いな、コイツ」と、内心思う。
だから、言ってみた、勇気を出して。
でも、返ってきたのは、
「新婚旅行でしょ!今回だけだから。
ケチケチしないで!!」だった。
 まぁ、新婚旅行と言われると、
確かにそうだ。
何も言えない。
「まぁ、今後の生活を見させてもらおう。
それで、あまりにもひどかったら、
ちゃんと、妻にビシッと……!」と、
決意した。


一方。
義時に、金遣いが荒いと、思われている
妻の方は。
まぁ、こちらは、本当に、結婚生活を
ちゃんと節約もして、貯金もして、
『良妻賢母』として前進していこうと
考えている。
 だけど、本当に、本当に、ウソじゃなくて
「新婚旅行だから、奮発しよう!」と
決めたのだった。
 もちろん、帰ったら、自分も、そして、
彼にも、かなりの節約を強いるつもり
……―恐ろしいことに彼の方はそれを
知らない(笑)―。



話を戻して。
そういうわけで、2人は、博多駅発の
新幹線のグリーン車の客となった。
義時は初めてだ、グリーン車が。
真子の方は、結婚前は、確かにバンバンと
稼いでいた頃、確かに、金遣いが荒かった
から……。
その頃に、乗ったことがある。

真子は、隣に座って、難しい顔をしている
義時を見て思った。
「何で、こんな顔してんの?
楽しめば良いのに!
新婚旅行ってこと忘れてる?」
それから、
「新婚旅行なのに、お金のことで、
ケチケチしちゃって……。
別に良いじゃない?
私のお金もちゃんと使ってるんだから!」
 だけど、こっちも、何も言わない。
お互い、考えること、思うことはある。
結婚したばかりだから。
特に、長い間付き合って、結婚した
カップルでなく、出会って、即婚約、
それからすぐ結婚したカップルだから。
でも、それだけに、確かに、いろいろ
思うとこ考えるとこはあるけれど、
普通のカップル以上に、ラブラブだ。
 グリーン車の客となって、10分後…。
2人は、手をつなぎながら、窓の外の
風景を夢中に眺めていた……。



愛に病む義時と真子を乗せた新幹線は、
2人の目的の駅に、無事着いた。
そこからは、タクシーだ。
真子は、また何か小言を言われるのではと
思って、最初に言うことにした。
「タクシーで行こうね?じゃないと、
昨日以上に、かなり歩くことになるよ」
効果抜群だった。
すぐに、彼は、言う。
「うん、決まり、タクシーだ」
彼の方が、早く、タクシー乗り場に
向かっていく……。


2人が車から降りたのは、柳川市
だった。
ずっとずっと真子が来たかった場所、だ。
真子の大好物の名所なのだ。
もう、タクシーに乗ってる段階から、
心ワクワク、胸はウキウキ、涎が垂れて
きそうだった。

でも……。
あえて、お店の前で、降りないで。
まずは、ちょっと、お店の周辺を
観光することに。
おなかを減らすためにも……。
 それに、時間もまだ余裕があったし、
だから、まず、予定にはなかったけど、
川下りを楽しむことにした。
 舟の上は、気持ちよかった。
でも、周りのお客さんの目がきになる。
真子は……。
彼が、あっち向いてカシャッ、こっちを
向いてカシャッ、上を向いてカシャッ
……撮って撮りまくるから。
ちょっと……、いや、かなり恥ずかしい!
もっと、落ち着いて、この景色を眺めて
楽しめば良いのに、ほかのお客さんたちの
ように!
 周りの自分達よりかなり上のお客さん
たちからは見えないように、彼の太ももを
つんつんする。
でも、全然、気にしない……。
夢中になると、何をしても、ダメなんだ、
この人……と、今更だけど、分かった。
ハァとため息が新妻の口から出る……。

舟を降りた時、真子は、大満足していた。
途中から、「このカメラの男性、知らない
人です!」って雰囲気を出しまくって、
そういうフリをして……。
で、隣や後ろのご婦人方と仲良くなれた。
やっぱり、高齢女性は、人懐こし、
優しい。
色々、教えてくれたり、気遣ってくれた。
写真に夢中の配偶者とは違って……。
「おひとり?」
「若い女の子1人で、こっちに観光に
来たの?」と訊かれたけど、そのまま
知らないフリ―義時のことを―を続けて、
話を合わせることにした。
 それでも、配偶者は、そんな会話にも
気づかないくらい、写真に熱中だ。
1人のおばさんが言っていた。
「あなたの隣の……彼。
スゴイわねぇ。
ずっと、写真撮ってるわぁ。
プロのカメラマンさんかしらぁ?」
 いえ実は私の……とは言えなかった。


で、舟から降りて、ご婦人方に手をふって
真子は別れた。
義時が後ろから着いてくる。
ちょっと、無視する。
そうじゃないと、あの人たちに変に
思われるから。
 で、しばらく歩いて、ご婦人方から
見えなくなったところで。
真子は、振り向く。
ちょっと、言ってみた。
「ねぇ、写真に夢中になりすぎじゃない?」
「君こそ!おばあさんたちと終始……。
少しは、君の写真も撮りたかったのに、
何か、こっちを知らんふりして!」
 喧嘩になりかけたけど。
同時に、映画のようだけど、タイミング
よく、2人のお腹が鳴る……。
2人して、笑ってしまった、声を上げて。
 で、仲良く、手をつないで、2人は、
目的のお店へと向かうのだった……。










(・著作権は、篠原元にあります

・今日も読んでいただきありがとう
ございます。この義時と真子の新婚旅行は
7月上旬位を想定しています。
もうそろそろ、その時期ですね。
 夏、暑くなりますが、みなさんお体に
お気をつけて……!

・この夏、ぜひ、お知り合い・家族・友達
にシェア、紹介とかを…! 嬉しいです♪ )
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登場人物紹介


奥中(おくなか) 真子(まこ)のちに(養子縁組により)(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)栄真子




 本書の主人公。小学校3年生のあの日 、学校のクラスメートや上級生、下級生の見ている前で、屈辱的な体験をしてしまう。その後不登校に。その記憶に苛まれながら過ごすことになる。青春時代は、母の想像を絶する黒歴史、苦悩を引継いでしまうことなる、悲しみ多き女性である。





(あし)() みどり



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、大親友。



しかし、小学校3年生のあの日 、学校の廊下を走る真子の足止めをし、真子が屈辱的な体験を味わうきっかけをつくってしまう。



その後、真子との関係は断絶する。










(よし)(とき)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメート。葦田みどりの幼馴染。



小学校3年生のあの日 、学校の廊下で真子に屈辱的な体験をさせる張本人。











奥中(おくなか) 峯子(みねこ)



本書の主人公、真子の母。スーパーや郵便局で働きながら、女手ひとつで真子を育てる。誰にも言えない悲しみと痛みの歴史がある。








雪子(ゆきこ)



本書の主人公、真子の大伯母であり、真子の母奥中峯子の伯母。


愛媛県松山市在住。







銀髪で左目に眼帯をした男



本書の主人公、真子が学校の廊下で屈辱的な体験をするあの日 、真子たちの



住む町で交通事故死した身元不明の謎の男性。



所持品は腕時計、小銭、数枚の写真。










定美(さだみ)(通称『サダミン』)



本書の主人公、真子が初めて就職したスーパーの先輩。



優しく、世話好き。



だが、真子は「ウザ」と言うあだ名をつける。









不動刑事



本書の主人公、真子が身の危険を感じ、警察署に駆け込んだ際に、対応してくれた女刑事。



正義感に溢れ、真面目で、これと決めたら周囲を気にせず駆け抜けるタイプである。



あだ名は、『不動産』。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課巡査部長。
















平戸



本書の主人公、真子につきまとう男。



また、真子の母の人生にも大きく関わっていた。






愛川のり子



子役モデル出身の国民的大女優。



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌などで大活躍中。







石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子の小学校時代のクラスメートであり、幼馴染。小学校3年生のあの日 、真子を裏切る。




(やぎ)(ぬま) 真子のちに(結婚により)(さかえ) 真子



 本書の主人公。旧姓は、奥中。



小学校3年生の時、学校中の見ている前で屈辱的体験をし、不登校に。



その後は、まさに人生は転落、夜の世界へと流れていく。



だが、22歳の時小学時代の同級生二人と再会し、和解。回復への一歩を歩みだす。

(さかえ)(よし)(とき)



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をさせた張本人。



そして、真子が22歳の時、男に追われているところを助けた人物でもある。



その後、真子の人生に大きく関わり、味方、何より人生の伴侶となる。

柳沼雪子



本書の主人公、真子の大伯母。養子縁組により、真子の母となる。



夫は眼科医であったが、すでに他界。愛媛県松山市で一人暮らしをする愛の女性である。

定美(さだみ)(通称・『サダミン』)



本書の主人公、真子が大事にしているキーホルダーをプレゼントしてくれた女性。



真子が川崎市を飛び出して来てから長いこと音信不通だったが、思いもしないきっかけで、真子と再会することになる。

不動みどり



本書の主人公、真子が小学校3年生の時、屈辱的体験をするきっかけを作ってしまう。



そして、真子が22歳の時、再会。つきまとい行為を続ける男から真子を助ける。



旧姓は、葦田。警視庁阿佐ヶ谷中央警察署生活安全課・巡査部長。

都和(とわ)



明慈大学理工学部で学んでいた女性。DVによる妊娠、恋人の自殺、大学中退……と、真子のように転落人生を歩みかけるが、寸前を真子に助けられる。

愛川のり子



〔あいのん〕の愛称で、幅広い世代から人気。



映画、テレビ、雑誌、海外でのドラマ出演など活躍の場を広げる国民的大女優である一方、息子の『いじめ報道』に心を痛め、また後悔する母親。



本名は、哀川憲子。

()(おり)



結婚した真子の義姉となる女性。



真子との初対面時は、性格上、真子を嫌っていたが、



後には、真子と大の仲良し、何でも言い合える仲になる。



名家の出身。



 

石出(いしで) 生男(いくお)



本書の主人公、真子を裏切った人物。



真子が小学時代の同級生二人と再会し、和解した夜に自殺。



第二巻では、彼の娘の名前が明かされる。

新名 志与


旧姓、長谷島。

第一章では、主人公に、『しーちゃん』と呼ばれている。

夜の世界で働いていた真子にとって、唯一の親友と

呼べる存在、姉的存在だった…。


ある出来事をきっかけに、真子と再会する(第二章)


小羽


 真子の中学生時代(奈良校)の同級生だったが…。


第二章で登場する時には、医療従事者になっている。

居村


 義時と真子が結婚式を挙げるホテルの担当者。

ブライダル事業部所属、入社3年目の若手。

 

真子曰く、未婚、彼氏募集中。

不動刑事


主人公の親友である不動みどりの夫。


石出生男の自殺現場に出動した刑事課員の1人。



最愛の妻、同じ署に勤務する警官のみどりが、

自分に隠れ、長年自宅に『クスリ』を保管、しかも、

所持だけではなく、使用していた事実を知った

彼は……。

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